第一章 出会いは偶然に
「ねずみって訳じゃ無かったようっすね…」
やけに髪が外にハネ散らかっている女がまじまじと僕を見つめながら呟いた。心底驚いたような表情だ。
「あんだ?お前…」
もう一人、どうやら僕の入っていた樽を蹴り倒したらしい女は、同い年くらいだろうか。樽の上にヤンキー座りしている彼女の瞳は、一体どこを見ているのか分からなくて、なんだかヤバい感じがする。
「血ぃ出まくりじゃんよ」
……へ?
僕は恐る恐る自分の服を確認した。
血染めだ。どうやら、上から垂れてきたらしい。つまり、頭からだ。きっと壁に叩きつけられた時に出血したんだろうな…。
我ながらよく気が付かなかったもんだ。でも、今はソレどころじゃ無いんだ!
相手のあまりに呑気な応対にかっと血が昇った僕は怒鳴った。
「お前等がやったんだろ!!」
「--えっ!?」
「お前等が…っ!!返せよ!!セシルを……みんなを返せよっ!!」
「な…何がっすか?何をすか?」
外ハネの女はしきりにまばたきを繰り返した。まるで何も知らないとでも言いたげに。
「何が?お前等が攫った子達だよ!!」
そう叫んで僕はまた懲りずにタックルをかまそうと駆け出した。
-次の瞬間。
全身から力が抜けた。
「ちょっ!!」
外ハネの女に抱き止められる。止めろ!離せ!!
そう叫ぼうにも体に力が入らない。
泣きたくだけはなかったのに、涙がとまらない。「ちょっとーっ…カスカぁ…、どうしたら良いんすかね?」
「知らね」
それでも何とか立ち上がろうとしていたところに、
「何の騒ぎです?」
「貨物室にねずみでも出たのかい?騒々しいね」
更に女が二人入ってきた。
一人は眼帯をしていて、長い髪を無造作に束ねていた。スラリと背が高くて、男のような格好をしている。
もう一人は、はっとするような赤い瞳が印象的だ。きつくウェーブしている髪をポニーテールにしている。これまた真っ赤なローブを羽織っている。
「みんなを返せぇっ」
ようやく外ハネの女の腕から逃れ、怒鳴ったが力が全く入らない。
「返せよ…っ!!」
弱々しく僕の声は雑多な貨物室の中に吸い込まれていった。
「情けないですね。」
いきなり眼帯が言い放った。
「勝手に忍び込んで、勝手な事言って、勝手に泣いて」
「なっ…!!」
「すでに満身創痍ではないですか。そんなあなたに何が出来るというのです。ここは私達の船ですから、貴男、何をされても文句言えませんよ。」
「ちょいと待った!!」
言われるがままにされていた僕は、いきなり響いた声に心臓を鷲掴みにされた。
見ると、ポニーテールの女とガッチリ眼が合った。
「そこのガキ。名前は?」
「えっ?」
「名前だよ、名前。知らなきゃ、呼べないだろうが」
「……ダイ。」何素直に答えてるんだ、僕は。でも何だかそうさせるだけの迫力がその人にはあった。
「そうか、ダイ。…ダイ、みんなってのは誰のことなんだい?」
「誰って…おまえ達が攫った子達だよ!!」
いつまでしらばっくれてんだ!僕が立てなくなるのも構わず怒鳴ったとき、外ハネが、
「そう!そうっすよ!さっきからそれが聞きたかったんす!!」
とオーバーな手振りで割り込んできた。…ん?
ここで、僕は初めて話がかみ合っていない事に気づいた。つまり、怒りや恐怖からの虚勢などからだんだんと冷静になってきたんだ。




