序章 事の発端
不定期更新の可能性大ですが、誠心誠意書くのでよろしくお願いいたします!!
「…匂うな」
いきなりの声に心臓が縮みあがった。ここでばれるわけにはいかない。僕は狭い樽の中でぐっと縮こまった。
「匂う?何がっスか?」
頼む、こっちに来るな。勝手に船内に忍びこんだことがバレたら…、きっと僕の命はない。なにしろ相手は人攫いの海賊なのだから。
にしても、何が臭うんだろう…。
「オレたち以外の匂いがする…」
…!?
ばれた!?
「…ネズミかなんかが入り込んだんすかね?」
良かった!…収まれ心臓!さっきから僕の意識とは無関係に体が震えている。落ち着け、落ち着いて、きっと僕には気づかない…。
ガタッ!
いきなり衝撃が走った。僕の頭上でミシッ、と樽の蓋が軋む音がした。 …もう、駄目だ…。
「みぃつけた!」
その声と同時に僕の入っていた樽が力任せにかなぐり倒され…。
そもそもどうしてこんな事になったかというと…。
一週間前に話は戻る。
「まただって!!?」
「ああ、今度はカーネギーさんとこのマイアちゃんだとよ…」
「なんてこった…」
僕の住んでいる港街<アオヒゲかもめ>で連続少女誘拐事件が起き出したのは丁度その頃だった。
「ダイ!出前いってきとくれ!」
「誰んとこ?」
「ジョイんとこにこれを」
「了解!行ってきます!!」
一応僕んちは食堂で、海の男たちの溜まり場になっている。そこでの最近の話題はもっぱらその少女誘拐事件についてだった。
「あんたも一応気をつけなさいよ!!」
「大丈夫だよ!!じゃ、今度こそ行ってきまーす!!」
「そう、カーネギーさんとこの…」
「あんま一緒に遊んだこと無いけどね…」
出前も届け、僕は帰りにたまたま会ったセシルに油を売っていた。
セシルは僕の幼なじみで、いつもは元気溌剌に魚を売っているけど、やっぱり最近元気が無い。いなくなってしまった子達の中にはセシルの友達もいるから。
「誰がどうしてこんなことを…」
「セシル…」
「みんな辛い目とかにあってないと良いんだけど…」
僕だってみんな心配だった。でも、僕の中の一番の心配はセシルが連れ去られやしないかということだった。
なんでかって?そりゃ、セシルは僕の大切な……友達だからだよ。
日が経つに連れ、街で女の子を見かけなくなってきた。それは心配した親が子供をあまり外に出そうとしなくなったのと、実際に攫われた子が増えてっているせいだろう。
それでも正直僕は人事感が抜けなかった。だって男の子はまだ誰も攫われてないしさ。だから僕は考えもしなかったんだ。
こんな形で自ら首を突っ込んでしまうだなんて。
そしてさっき。
僕はいつものように出前に行って、その帰りにいつもならセシルのいる出店の前を通ったんだ。つい癖でね…。流石に最近は彼女も出店に出る気にはなれなかったらしい。
そらそうだ、と思って前を通り過ぎようとしたとき、
「ダイ!」いきなり呼び止められた。
えっ…?この声は…
「セシル!」
そこには出店の奥から少し身を乗り出したセシルの姿があった。
「良かった!最近外に出してもらえなくて…」
「そりゃそうだよ…セシルこそ危ないよ!!」
「大丈夫!ダイもいるし!それに、あたしを攫おうとする頓狂な奴なんていると思えないもの」
「そうかな…。」
いるって。だってあのしぼんだ子犬みたいなタイニーだって攫われたんだぜ?
流石に口には出さなかったけど…。
「大体出店にまで来ちゃってさ!その間にもし何かあったらどうするつもりだったんだよ!」
「大丈夫よ!もしもなんかされそうになったらおっきい声出して噛みついてやるんだから!」
そう言って、噛みつくシャドープレイを繰り返すセシル。そんな無邪気な彼女を見ていると僕が守ってあげなきゃ、という気になってきてしまう。「もう、じゃあ僕が送ってってあげるから。今日は家に帰ろう?」
「はいはい。分かったわよ…。ダイの心配性。」
「何とでも言えよ。」
石畳でひときわ高い音をたてながら跳ねるように行ってしまうセシルの背中を見ながら、
「にしたってさ、なんであんなに怖がってたのにいきなり噛みついてやるなんて言い出すのさ。」なんて聞いてみた。ただ単に話の種にでもなればいいなって思ったから。そしたら、セシルはくるっと振り向いて、
「だって頭にきちゃったんだもの。」
えっ!?と思って見たら彼女の顔はマジだった。
「友達が何人もよ?みんなが何をしたって言うの!?むしろしてるのは誘拐犯の方よ!!確かに最初は怖かったけど…大人はだれも犯人見てないんでしょ?
だったらあたしが囮になってそいつを捕まえてやるんだから!」
「無理だよ!!そんなの!」
なに拳固めてるんだか。未だに捕まえられてない犯人をセシルが捕まえられる訳がない。
「でも、そうね。いざって時は…ダイ。…助けてね?」
「いざって時は無い方向にして欲しいって言ってるんだけどね。」
セシルはなんていうか、どこかずれているんだ。だから余計こっちも心配になってくる。
「あ、もうあの角曲がったらすぐだから。」
セシルが立ち止まった。
「そう?前まで送ってかなくて平気?」
「うん!ここまで送ってってくれてありがとう!!…また明日っ!!」
そう言ってセシルは駆け出して角を曲がって行った。
「うん!じゃあね~っ!!」
セシルにもヤレヤレだ。本当に無茶はしないで欲しいんだけどさ、いつかはこんな事言い出すんじゃないかって思って…
「きゃあああああっ!!」
…え!?
なんだ今のは!?
一瞬体が完全に固まった。
今のは、今の声は…。
……セシルの…!!
急いで角を曲がる。
するとそこには猿ぐつわを咬まされたセシルと屈強そうな、でも下品な男たちが…。
「暴れんな…よッ!!」
セシルの腹に容赦ない一撃が叩き込まれる。セシルはそのままグッタリと男たちに身を任せるように動かなくなった。
「手こずらせやがって…」
「おら、樽寄越せ」
「おうよ」
中に詰め込まれるシセル。
なに、見てるんだ僕は…。
見てるだけか…?
守るって、守りたいって思ったんだろ?
守るんだよ!!
「その子を返せっ!!」
そう叫んで僕は樽を持ち上げた男にぶつかって行った。
「あん?」
僕が全身でタックルをかました男は、
微動だにせず、
舌打ちだけして、
僕の頭を鷲掴みにし、
壁に叩きつけた。
よく、漁師のおじさんが脳が揺れたとか言ってたけど、
それってこういう事か。
視界が歪んで、揺れている。
薄れてく意識の中、
「見つかっちまったぞ」「もうこっからズラかるしかねぇだろ」
という会話だけは必死に聞き取り、僕の意識は溶暗した。
起きろ!
こんな所で寝てる場合じゃ無いだろ!!
立ち上がると意識が飛びかけた。おまけに口の中のこの味はまさしく血の味。
もちろん時間も結構経ってしまっているらしく、紫紺の雲が垂れ込めていた。風までなんだかうすら寒い。
奴らはどこに行ったんだ?
あいつら、セシルを樽に詰め込んでいた。もし、それがあいつ等の手口なのだとしたら、アジトは樽を運んでいってもおかしくない所のはずだ。樽を運んでいってもおかしくない所……
波止場だ!
僕は港へと走り出した。
走っている最中、ずっとセシルのことしか頭に無かった。
「マイアちゃんが…!?」
悲しい顔。
「噛みついてやるんだから!」
勝ち気な顔。
「頭に来ちゃったんだもの」
マジな顔。
「ダイ…、助けてね?」笑顔。
そして最後の、
殴られたときの、
顔。
全部、全部廻ってきて、とめどなかった。
船が見えてきた。
どれだ、どれがあいつ等の…。
樽を中に運び込んでいるはずなんだ!
その時、僕の目に樽が飛び込んできた。
慌てて駆け寄り蓋を開く。
当然かもしれないけど、中は空だった。でも、その空の樽を見たときは全身から力の抜ける思いだった。
「セシル…」
呟いた瞬間、僕の頭に天啓が舞い降りた。叩きつけられたのが良い刺激になったのかも。…だとしたら、僕の脳はどれだけ鈍いんだ。
話が逸れた。
とにかく、あいつらは攫った子を樽につめてきっとそのままどこかに行くつもりなんだ。
なぜなら、この連続誘拐事件は最近いきなり起き始めた事件だし、犯人は単独犯ではなく集団犯だった。つまり、あいつらの正体は、こんなこと考えたくないけど…人身売買組織だ。
だったら攫って来た商品は、船に積み込み出荷するはず。
しかも奴らは、もうこの街を去るようなことを言っていた。
それなら、荷物は全部積み込むはず。
だったら、僕もその荷物に紛れてしまえば…奴らの船に潜入できる!
そう考えた僕は他にも樽があるところまで樽を転がしていき、中に身を潜ませた。どれだけ時間が経ったか分からなくなった頃、樽がゆっくりと持ち上げられた。ビンゴだ。
「あれ?これやけに重いっすね。ちょっとーっ、シーランさーん!」
「嫌です。」
「まだ何も言って無いんすけど…」
「嫌です。」
「……おーい!!カスカーっ!」
「…んぁ?」
「ちょっとこれ、一人じゃ重いんで手伝ってもらってもいいすか?」
「貸せよ」
いきなりひょいっと樽が動き、僕は頭をぶつけてしまった。あ、気が遠くなりそう…。
「さっすが!じゃ、それお願いしますねーっ!」
「おう。…?…まいっか」
そして、冒頭に至る訳で、今僕は…
二人の女の人に見下ろされていた。




