緊急会議が始まります
謁見室に集まったイルナ達だったが、この短時間での情報の多さに全員が頭を抱えるように黙り込んでいた。が、そうは言っても時間は有限だ。宰相であるマオーラ公爵が話を切り出した。
「黙っていても仕方がありませんので、ここは仕切らせてもらいます。まずは先程のオーク軍の襲撃についての報告ですが、これについては第一騎士団長のオールコット公爵殿からお願いします」
「わかりました」
名を呼ばれて第一騎士団の団長であるオールコット公爵が立ち上がる。
「まずは被害状況から申し上げます。王都中央から南の門にかけての被害が甚大となっており、民家及び商店等の家屋の倒壊、半壊がいくつも見受けられます。オーク軍はどうやら西と南の二ヶ所から襲撃してきたようですが、西の門には丁度Aランク冒険者のパーティーが居合わせたようで、門に配備していた衛兵達とで応戦していたとの報告を受けております。」
「今回はハンター達にも随分助けられたようだな」
「はい。後程ギルドに特別報奨金を届けるのがよろしいかと」
「だが、討伐したオークの素材となる部位はかなりあっただろう?それを全て持ち帰ったと聞いているが」
「ではギルドと要相談の後と言うことで」
被害状況の報告の後、今度は討伐に出ていた騎士団と魔術師団がオーク軍について説明を始める。
「攻めてきたオーク軍ですが、とても統率が取れていました。オーク全員が言葉を理解し会話をしていましたし、きっちりと武装していた事も気になりますね。あれはかなり訓練していると思われます」
「何だと…!全てのオークが喋るのか!?」
「そう思っていただいてもよろしいかと」
今までの報告ではオークキングやゴブリンキング等の「キング種」のみが人間の言葉を理解しているという認識だったが、ここに来て認識を変えざるを得ない状況のようだ。
「魔王と名乗るヴァルデマーは本気で魔物の軍勢を作っているようです。魔窟島へ出した調査隊の報告によれば、魔窟島にゴーレムやオーク達を使って城を建てているとの報告も受けておりますが、肝心の闇竜ゲアトルースの姿は確認できておりません。恐らくは力を溜める為にまだ祠から出てきていないものと考えられます」
「ううむ…」
国王が唸る。あの軍勢を見れば納得せざるを得ない状況だが、それが真実なら脅威以外の何者でもない。
「わかった。一先ずは魔王の調査は王都の復興と平行して行う事とする。人選は宰相と各騎士団長とで厳選せよ」
「はっ」
国王が告げるとオールコット公爵も頷く。そしてマオーラ公爵が今度は第二騎士団長へ視線を向けた。
「避難させた民達はどうなっている?」
「はい。騎士団総出で民衆の避難の為に王都へ出向きましたが、何分オーク軍が街中で暴れていましたので、応戦しつつ誘導しましたが…全員とまでは。東地区、北地区はオーク軍が立ち入った形跡が無かった事から、西と南の地区の住人のみの避難となっております」
「西と南と言えば、貴族街でもあるな。そちらに住居を構えている貴族達はどうしている?」
「はい。どの貴族も門を固く閉じ、沈黙しております」
宰相の問いかけに第二騎士団の騎士団長であるローグ伯爵が、不機嫌を隠す事なく苦々しい表情で告げる。ちなみに、このローグ伯爵はユリウスの父親だ。
「貴族による住民達の救助は無かったのか?」
「そうですね…」
ローグ伯爵がちらりとイルナに視線を向ける。自分に視線を向けられると思わなかったイルナが驚いていると、フッと優しげに目を細めて微笑まれた。その意味が一瞬分からずに困惑していたが、ローグ伯爵の次の言葉ですぐに理解できた。
「ここにいらっしゃるルーメン侯爵令嬢だけが、住民達を邸に避難させておりましたよ」
他は全く知らん顔でしたが、と付け足していたが。それを言われて全員が一斉にイルナに視線を向ける。驚いたイルナは居心地が悪くなり、思わず下を向いて小さくなった。が、ウィクトルがぎゅっと手を握り、イルナに聞こえるくらいの小さな声で「大丈夫だ」と囁いたので、イルナが恐る恐る視線を上げた。
「ルーメン侯爵令嬢、住民達はどのくらい避難しておりますか?」
マオーラ公爵がイルナに尋ねる。が、そうは言われても実際の数は全く把握していない。なにしろ自分はその場にいなかったから。そしてそれをこの場で隠しても仕方がないだろう。イルナがイフリートに担がれて空を飛んでいたのを何人もの兵士達が目撃している。何となく父に視線を向けたが、ロドルフも仕方なさそうな顔で頷いていたので、正直に言う事にした。
「あの、私は住民の方々にルーメン家へ避難するよう言いながら街を移動していたので、正確な数は把握しておりません。ですが、一度戻った時には庭にも人が溢れかえっていましたので、かなりの数はいると思います…」
「貴女は危険をかえりみず外に出て、住民を誘導したと言うのですか?」
マオーラ公爵が驚いたように問いかける。
「危険をかえりみずという事ではないのですが、うちは幸い父が魔術師長ですので庭に防御魔法が張られていますし、避難するには丁度いいかと…」
「確かにそういう意味では避難場所としては最適だが、ご令嬢が戦場に飛び出すのは関心しませんな」
「はい…申し訳ございません…」
マオーラ公爵に注意され、イルナは居心地が悪くなる。というか、そもそもこんなメンバーの中に自分がいる事がすでに場違いで緊張しているのに、何と言うか怒られるとなお居辛い。
するとローグ伯爵がそこへ口を挟んだ。
「宰相殿、ルーメン侯爵令嬢は善行を行ったのですから、お叱りは後ほどご両親にお任せしては」
「…そう、ですな」
尤もだが、多分この親はさっき娘を引き摺って行った時にしこたま怒っているだろうと、マオーラ公爵も思い至る。そして大きく溜め息をつき、気を取り直して話を続けた。
「ウィクトル殿下からの要請があったので、ルーメン侯爵邸には神官の派遣をしている。まあ、負傷者の数等は後ほどそちらから報告を受ける事としよう」
そう言われてイルナもホッとした。中途半端に動くとこういう面倒な事になるのだなと、今後の参考に覚えておく事にする。が、安堵するのも束の間で、今度は国王がイルナに向かって質問をした。
「してイルナ嬢よ。報告によれば精霊イフリートを呼び出し、精霊に乗って城門外の戦場へ赴き、大層暴れたと聞いているが」
「!!」
にこにこと楽しそうに笑顔を浮かべながら国王に問いかけられ、イルナが顔を強ばらせる。そしてそーっとウィクトルの顔を見ると、ウィクトルも苦笑を漏らしていた。ロドルフは静かに目を閉じながらも、何だか青筋を立てているようにも見える。テオドールに至っては興味津々の様子でイルナを見つめており、イルナも仕方なく正直に答える事にした。
「はい…、仰る通りでございます、陛下」
「やはりか!」
気のせいか目が輝いているように見える。するとずっと黙っていたテオドールまで楽しそうにイルナに質問をしてきた。
「やはりイルナ嬢は興味深いな。先日エミール王国で会ったが、君はあの後セフィロトの樹の森へ行ったんだろう?イフリートとはその時契約したのか?」
まさかの爆弾発言を投下され、イルナは一瞬にして固まってしまった。




