ルキウス・マオーラ公爵令息
「は…?わ、私が聖竜の巫女…ではなく男巫?」
状況が飲み込めないルキウスは、ずっと目が点になっている。どうにも理解できないようで、ずっとブツブツ呟いていたが、彼の父であるアラヌス・マオーラ公爵が、ハッと覚醒したように聖竜に詰め寄った。
「お、恐れながら聖竜様!息子は男ですが!何故ルキウスが次代の聖竜の巫女…ではなくて男巫だとおっしゃるのです!?納得のいくご説明をお願いしたい!」
マオーラ公爵の言う事も尤もだ。今まで聖竜の巫女は呼び名から分かるようにずっと女性だったのだ。それなのにここに来て何故ルキウスなのか。この場にいる全員が疑問に思っている。騒ぎを聞き付けた数名の巫女候補も、神殿の控えの間から顔を出し、驚愕の表情を浮かべていた。
『私の補助をする者が女でなければならない等、私は一言も言った覚えはないが。むしろ人間がそう仕向け、巫女を私の元に使わせていたではないか』
「な…」
マオーラ公爵が絶句する。確かに…とブツブツ呟いている姿は、未だに目が点になっているルキウスとちょっと似ている。
『お前はこの国の宰相であったな』
「は?は、はい。そうですが…」
唐突にそう問われ、マオーラ公爵が返事をする。質問の意図がわからずに警戒しながらガイウスを眺めると、ガイウスはおかしそうに目を細めた。
『そのように警戒するな。ならお前に聞こう。私が巫女に求めるモノは何だと思う?』
「そ、それは…我々には図り知れぬ事かと…」
『そうだ。だが、お前の息子である…ルキウスと申したか?彼の者ならわかるであろうよ』
「は…?ルキウスが…ですか?」
訝しげにルキウスを眺めると、ルキウスもようやく覚醒したように顔を上げ、困惑した表情でガイウスを見ていた。
『ルキウスよ』
「は、はいっ」
『お前は私が巫女を決めるのに求めているモノが何か分かるか?』
「そ、それは…」
ガイウスの質問に対してルキウスは少し考えた後、一瞬イルナを見る。その視線の意味が分からずにイルナがウィクトルを見ると、ウィクトルも不思議そうにイルナを見ていた。
そんな二人の様子を見てルキウスが少し寂しそうな表情を浮かべ、そして迷いなくガイウスに視線を向ける。
「魔力の美しさです」
きっぱりと言いきったルキウスに、ガイウスが満足そうに頷いた。その答えに周囲がどよめく。何故なら魔力に美しいとか美しくないとか言う感性を人間は持ち合わせていない。魔力は強いか弱いか、多いか少ないかくらいだ。
『それこそが我ら竜族と人間の違いだ。そして、魔力を見れば人となりが分かる。ルキウス、お前も魔力でその人間がどういう者か分かるのではないか?』
「は、はい…」
それを聞いてイルナやラルスは思いっきり納得する。何故ならルキウスはいつもイルナに「君の魔力に惹かれた」と愛を告げていた。意味が分からずに放置していたが、ガイウスの言葉でルキウスがイカれた人ではない事がようやく分かった。
聖竜とルキウスの話を聞いていてイルナもふと思い出す。そう言えば前にキルスティに魔力がキレイだと言われた事があったなと。人によって違うと言っていたが、あれはそういう事なのか。
ちなみに、イオアンナが魔力を見せていた時にテオドールが「美しいな」と呟いたのは、魔力を出して輝いているイオアンナが美しく見えたらしい。
「わ、私は何故か魔力を見ればその人の人間性が分かるのですが、どうにもそれを理解してもらえなくて…」
『それは当然であろう』
「お、お待ちください!では息子は…特別な力を持っている、という事なのでしょうか?だから聖竜様の男巫に?」
『正しくはあるが、正解ではない』
「は?」
聖竜の含みを持たせた物言いに、マオーラ公爵もちょっとイライラしてきている。この人、そんなに気が長い方ではなかったな、と周囲がハラハラしだしたその時、カロレッタがため息をついてガイウスの側へ歩み寄った。
「ガイウス様。意地悪をしないでちゃんと教えてあげてください。でないとルキウス様をこちらへ派遣してもらえなくなりますよ」
『うむ、それは困る』
「じゃあ早く正解を教えてくださいませ」
『わかった。カロレッタがそう言うのであれば、皆にも教えよう』
もったいつける聖竜だったが、種明かしをしてくれるようだ。もうこれ以上驚かないぞと周囲の人間達はガイウスの次の言葉に構える。
『ときにマオーラ公爵。お前の番はどこの者だ?』
「…は?いえ、妻はエミール王国の伯爵家の娘でしたが…ですが彼女の曾祖母は元々この国の…」
そこまで言いかけてマオーラ公爵が黙り込む。そして恐る恐るガイウスを見ると、ガイウスがニヤリと笑った。
『私の巫女であった。そうであろう?』
「…そ、そうです」
ザワリと周囲がざわめく。そしてガイウスがちらりとウィクトルに視線を向けた。
「?」
急にこちらを見たガイウスの意図が分からずに首を傾げると、ガイウスが楽しそうにさらりと驚く事を言った。
『その巫女は、私の娘だったのだ』
ガイウスの台詞に再び神殿が静寂に包まれる。
と、言う事は。
『ルキウスよ。お前は私の血族なのだ』
再び神殿に人々の雄叫びが上がったのは言うまでもない。




