新たな聖竜の巫女の誕生
「ま、魔術師団…ですか?で、でも私…」
「待ってください、ロドルフ様。イルナはウィクトル殿下との婚約を控えております。それなのに、今から魔術師団への入団は…」
まだやる事があると言いかけたが、カロレッタによって遮られる。ここはカロレッタに譲る方が賢いだろうと、イルナはとりあえず黙る事にした。するとロドルフはチラリとイルナを見た後、カロレッタに説明をしだした。
「魔術師団に入らせるのは、魔法の訓練の為だ。イルナ自身は魔力を人より何倍も持っているだろう。先に戻っていた竜騎兵達からはイルナがイフリートに担がれて現れたと言っていたし、このまま普通の令嬢として扱われるとは到底思えん」
「え、姉さん、イフリートに担がれてたの?」
「え、まあ…そう…ね」
歯切れの悪い物言いだったが、一応肯定する。報告されているのなら、取り繕っても仕方がないだろう。それを聞いたカロレッタは倒れそうになっていたが。
「何てこと…!こんな、可愛らしく生まれたのに、どこにも普通の令嬢さがないなんて…!第二王子殿下に見初められたのも、奇跡に近いわ…!」
そこまで言わなくても。
「奇跡に近いのではなく、奇跡だ。だが、それよりもイルナの安全を考えて私達は行動するべきだ。婚約は…まあ仕方ないだろう。アラヌスの息子の嫁に出すよりも、殿下の方が遥かにマシだ」
その発言は殿下に失礼では、とイルナが頭の中で突っ込む。そして奇跡とか色々言っているが、そもそも自分達の娘に対して大概失礼な話だ。というか、ルキウスとの婚約の話なんてあったのかと、そっちの方が驚きだった。
「とにかく、姉さんの職業をどう偽るかでしょう。聖人様は姉さんの事を錬金術師と言ってましたが、高位精霊と契約をしているのであれば、精霊使いでもいいと思うけど」
「そうねぇ…。正直、増幅術師でなければ何でもいいと思うのだけれど、ロドルフ様はどう思われます?」
「そうだな…」
イルナを無視して三人が話しているのを、何となくぼんやり眺める。正直自分も職業が何であろうとどうでもいいと思っているのだが、そんな事を言えば絶対に怒られる。という事でとりあえず黙っているが、そうなれば暇だ。暇になった時には最近必ず魔力錬成をしていたので、無意識に魔力を練っていたら、ロドルフにばれて怒られた。
「お前の事を話しているんだぞ!」
「ご、ごめんなさい…」
どうでもいいが年頃の娘に拳骨を落とすなんて、やっぱりルーメン家が変わっているのだと思う。そして殴られた頭が痛い。
「もう錬金術師でいいんじゃない?姉さんコンラード領ではポーション作って売ってたし、この前の被害の時もパワーポーションとか作ってたし、精霊との契約よりそっちの方が目立ってると思うから」
「うむ…、ラルスの言う通りかもしれんな」
「では錬金術師という事にしましょう!それにそろそろ戻らないと、陛下達にご迷惑だわ」
「すでに迷惑だと思うよ、母さん」
呆れたようにラルスが告げる。確かにちょっと待たすには時間がかかりすぎている。イルナ達はとりあえず口裏を合わす事を確認し、再び神殿へと戻った。
神殿に戻るとウィクトルが真っ先にイルナに駆け寄る。どうやら心配をかけてしまっていたらしい。
「イルナ!その、大丈夫か?」
「ええ、ウィクトル殿下。話し合いは終わりました」
他のみんなの目もある為、ウィル様と呼ばずにウィクトル殿下と呼ぶと、ウィクトルの表情が少し動く。が、そのまま何事もなかったようにロドルフに視線を向けた。
「ルーメン侯爵殿。どのようなお話をしたのかは知りませんが、イルナをあまり責めないでくれ」
「責めてなどいませんよ。色々と確認していただけです。それでマオーラ公爵、今どのような話になっておりますか?」
「それについてはルーメン侯爵夫妻が戻ってから、謁見室へ移動して話を続ける事になった。陛下は先に謁見室へ戻られているので、我々もそちらへ移動しましょう」
「なるほど、了解した。では…」
「イルナ!!」
バァン!!と勢い良く扉を開けて入ってきたのは、宰相の息子のルキウスだった。ぜえぜえ言ってる所を見ると、どこからか走ってきたようだ。
息子が突然無作法にも乱入して来た事に頭が痛いらしく、アラヌス・マオーラ公爵はこめかみを押さえていた。
「ルキウス、無作法だぞ。一体何事だ。お前はルーメン家へ治療班として向かったと聞いていたが、何故ここにいる?」
「ち、父上、申し訳ございません。治療に関しては聖人殿が行ってくださってますので、私は一人で戻ってきました」
「は?そんな勝手な…」
「イルナが危険な場所に向かったので、彼女が怪我をしていたらと思いルーメン家に向かったのに、肝心のイルナは王宮へ戻ったと聞いたので、居てもたってもいられなく…」
どうやらルーメン家にイルナの姿がなかったので、職務放棄して戻ってきたらしい。よくよく考えるとこの人は神官だ。治療班として派遣されても不思議ではない。と言うか、この人こんな無責任で大丈夫だろうかと、その場にいた全員が心の中で心配していた。
「ルキウス様。ご心配お掛けして申し訳ありません。ですが私は無傷ですので、街へ戻って怪我人達の治療をしてあげてください」
「イルナ!無事だったんだね!!」
ああ、会話が噛み合わない。噛み合ってるようで噛み合ってない。この人と話すといつもこうだ。悪い人ではないのだが、こういう所はちょっと疲れる。
「さあ、君を治療しよう!手を貸して」
「いえ、あの、ルキウス様。私の話を聞いてます?私は怪我なんて…」
『治療』
「わっ」
パアッとルキウスの手から魔法が放たれる。怪我をしていないと言っているのに回復魔法を使われ、周りが呆気にとられていた。
が、その時。
『そこの男、少しこちらへ来るがよい』
「えっ」
突然黙っていた聖竜が、ルキウスに話しかけた。驚いたイルナとルキウスは同時に声をあげ、手を繋いだまま聖竜を見る。するとウィクトルがイルナに近付き、ルキウスの手をさりげなく離した。
「もういいだろう?それよりもルキウス殿。聖竜ガイウス様は君を呼んでいる。聖竜様の元へ行くんだ」
「あ、ああ…はい、わかりました」
自分に一体何の用なのか、ルキウスがよくわからないと言った表情でガイウスの前まで移動し、跪く。するとガイウスはルキウスに向かい、意外な事を口にした。
『お前の回復魔法を私にかけてみせよ』
「え」
突然の聖竜の申し出にルキウスの目が点になる。が、ルキウスが動くのをじっと待っている聖竜に気付き、慌ててルキウスも魔法を放った。
『治療』
ルキウスの手から回復魔法が放たれ、ガイウスの体を包み込む。それを周囲が黙って見守っていると、ガイウスがルキウスに向かい、とんでもない事を言ってのけた。
『お前が新たな聖竜の巫女だ。いや、男なのだから男巫か』
「え」
ポカンと、ルキウスがアホ面で固まる。
「「「「「「「ええええええええ!!!?」」」」」」」
一瞬何を言われたのか理解できなかった周囲の人間達は、一呼吸置いて一斉に叫び声を上げた。
こうして、新たな聖竜の巫女(?)が誕生したのだった。




