職業(ジョブ)を誤魔化そう
無事に精霊と契約したイルナに対して、ボリスとアルフは信じられないと言いたげだ。けれど反面キルスティ達は大はしゃぎだった。
「イルナすごいよ!精霊王と契約するなんて、なかなか出来ないんだよ~!」
「本当です!イルナ様、快挙ですよ!私、まだ興奮してるわ!」
「あ、わかる!俺もさっきから鳥肌立ってるもん!」
「え、そ、そう?」
褒めちぎられて恥ずかしそうに笑うイルナに、アルフが静かに呟く。
「ああ、信じられない。精霊使いは普通エルフが殆どだ。人間が精霊、それも上位の精霊と契約だなんて聞いた事がない」
「え」
アルフのまさかの台詞にイルナがピシッと固まる。そして恐る恐る二人を振り返ると、二人の表情が何とも言えない、それでいて驚きの表情でこちらを見ていた。
「あの、シャーマンって…私の事ではないですよね?」
「お嬢の事に決まってる」
「そうだよ。今まさにイフリートと契約しただろ?契約の腕輪もしてるし、イルナちゃんはれっきとした精霊使いだ」
「……」
これは何とした事か。増幅術師だけでも厄介なのに、今度は精霊使いの称号まで付けられるなんて。
イルナが頭を抱えそうになっていると、キルスティがこっそり耳打ちする。
「いいじゃんイルナ。いっそ精霊使いで通しとけば、増幅術師だってバレなくなるかもよ?」
「あ、そっか…」
なるほど、キルスティの言う通りだ。職業を隠さなければいけないのだから、隠れ蓑に丁度いいかもしれない。
「そんな事より早く中に入りましょう」
「あ、そうね。じゃあ…」
シルヴァに言われて本来の目的を思い出す。イルナはスッと前に進み、左手を炎の壁にかざし、払うように手を振った。
すると燃え盛る炎の壁の一部が消え去り、向こう側が目視できるようになった。
「行くよぉ!」
「おう!」
「ええ」
キルスティの掛け声に二人のエルフが返事をする。イルナはボリスとアルフの方に振り返り、ニッコリと微笑んだ。
「じゃあ、行ってきます」
そう言われて二人はハッとする。そう言えばドレイク達と留守番だった。色々と後ろ髪が引かれる思いだが、役目は役目だ。二人はイルナに微笑んだ。
「ああ、気を付けてな、イルナちゃん」
「無茶するなよ、お嬢」
「はい!ではまた後で」
ヒラリと手を振りイルナが炎の壁を通り抜けると、再び閉じるように炎が目の前を遮った。
炎の壁の内側に入ったイルナは、目の前に広がる景色に言葉を失っていた。
元々枯れた大地に木が生えてると聞いていたので、ある程度は予想していた。
「こんなに…草花もない岩とひび割れた大地なのに…」
「すごいわ…」
イルナとシルヴァが驚きで目を見張る。ランナルはそれよりも集まってきているサラマンダーが気になるようだ。
「いやいや、二人とも!サラマンダーがいっぱいじゃん!そっち気にしよう!」
「大丈夫だよぉ、危険はないし」
「そ、そんなのわかんないじゃんっ!」
「えー、だってイルナはイフリートと契約したんだよ?」
確かにキルスティの言う通り、サラマンダーよりも上位の精霊と契約した所だ。ただ、何故だかサラマンダー達は心なしかイルナの足元に集まっているようにも見える。
歩きにくいとも思うが無下にもできず、イルナがサラマンダーを避けながら歩いていたが、ふと気になって足元のサラマンダーに視線を向けた。
「……ひょっとしてサラマンダー達、少し元気がない?」
「え、そう?」
イルナの呟きにキルスティが首をかしげる。イルナも、何処がと聞かれれば分からないが、何となくそう感じた。
「キルスティ、回復魔法かけれる?」
「できるけど、誰にするの?それに回復ならシルヴァの方が上手だよ」
「じゃあシルヴァ、お願いがあるんだけど…このサラマンダー達に回復魔法をかけてあげてほしいの」
「構いませんが…」
「私が増幅させるから、全体にお願いしてもいい?」
「わかりました」
不思議に思っていたようだが、イルナに言われてシルヴァも頷く。そして両手をサラマンダー達の方へと広げ、回復魔法を唱えた。
『範囲回復』
『増幅せよ』
キラキラとシルヴァが放った回復魔法が光を帯び、サラマンダー達の体を覆う。するとサラマンダー達が急に元気になったらしく、さっきよりも活発に動き出した。
「あ、やっぱり元気なかったんだ。良かった、ありがとうシルヴァ」
「いえ、それはいいけどよくわかりましたね」
「うん、何となく」
元気になったサラマンダー達は炎の壁を大きくしたり、それぞれ見回りをすりように動いたりしている。なんというか、王宮の衛兵のようだ。
「そんなに生命の木って大切なの?」
ポツリと疑問を口にすると、ランナルがひょいっとイルナの顔を覗き込んだ。
「え、イルナ様ってば知らないんだ」
「な、何が?」
「生命の木は別名セフィロトの樹って呼ばれてるだろ?」
「うん」
「生命の木は精霊を産み出すんだよ。だからサラマンダーが守ってるんだと思う」
「え」
言われてイルナの目が大きく見開く。木が精霊を産み出すとはどういう事なのか、いまいちよく分からなかった。するとそんなイルナの心中を察したのか、キルスティがクスクスと笑う。
「全ての精霊が生まれる訳じゃないよ~。ただ、そういう理由だけでサラマンダーが守ってるんじゃないと思うけど」
「え、じゃあ何で…」
『木の実だ』
唐突に声が脳に響き、驚いて上を向くと精霊王イフリートが空に浮かんでいた。




