ドラゴンの背に乗る
その後、三人が一斉に大声を上げて驚き、イルナに詰めよって色々と聞いてきたが、あまりの剣幕にイルナが困り果て、見るに見かねたランナルがイルナをひょいっと抱き上げ、シルヴァが三人の前にイルナを庇うように立ちふさがった。
突然子供のように肩に担がれたイルナは呆気に取られ、目が点になる。が、シルヴァとキルスティに怒られた三人は、説教が終わる頃にはすっかり大人しくなっていた。
「えと、まずは乗り物を確保しないとね!」
キルスティが張り切っているようで、その表情はワクワクしているように見える。とりあえず目立つからと言う理由で、6人はギルドを出る事にした。
「目立つ?どうして?」
何故目立つのかわからないイルナが呟くと、ボリスが呆れたように呟く。
「そりゃあこんな美形軍団目立つでしょ。俺とアルフだって冒険者の中じゃそこそこ有名だし、そんな二人が護衛ってだけでも注目するのは当然じゃん」
「そ、そうなんですか…」
自分で自分の事を「有名」と言うだけあって、それは本当なんだろう。あれから説明を受けたが、Sランクの冒険者になれるのは、とてつもなく大変なんだそうだ。依頼をこなしていくのは勿論、難易度の高いものを失敗なくクリアしていかなければならない。つまり実績がモノを言う世界だ。
「ごめんなさい。私、そういう世界に触れた事が今までなかったので、不快な思いをさせてしまったのなら謝ります」
「え、いや、そこまでは!」
「アルフさんもすみません。でも今からちゃんと知っていこうと思うので、最後までお付き合いください」
「「……」」
そう言って頭を下げると、ボリスとアルフがポカンとする。そして二人顔を見合せ、困ったような表情を浮かべた。
「…あのさ、イルナお嬢さんってネストーレ王国の侯爵令嬢だよな?」
「はい、そうですが」
不思議そうに首を傾げるイルナを見て、ボリスとアルフはやはり困っていた。
「あ、それと『イルナお嬢さん』じゃなく、『イルナ』でいいですよ。何だか気後れしてしまうので……て、お二人ともどうしました?」
さらにイルナの台詞に固まってしまった二人に、イルナも心配そうな顔をする。するとボリスがはぁーっと盛大な溜め息をつき、ポリポリと頬を掻きながら困ったように微笑んだ。
「いや、大丈夫だよ。じゃあ遠慮なくイルナちゃん、乗り物の手配に行こうか」
「はい、よろしくお願いします」
再びペコリとお辞儀をするイルナを見て二人はフッと微笑んだ。そして案内するように先を歩きだす。それを黙って見ていたシルヴァとランナルは、何だか笑いを堪えているようだ。
「な、何?」
自分が笑われているのかと思ったイルナが二人に問いかけたが、シルヴァもランナルも「何もない」としか言わない。何となく仲間はずれにされた気分になり、最後尾を歩くキルスティの隣に移動した。
「何だかみんな感じ悪い」
「そう?イルナが可愛いだけじゃない?」
「キルスティはいつもそう言うけど、別に可愛い事なんてしてないわ」
「うーん、何て言えばいいのかな……。存在が可愛い?」
「聞かれても」
キルスティはいつもイルナを可愛いと言うが、実際何が可愛いのか理解できない。そんな会話をしている二人の前方を歩くボリスとアルフは、後ろに聞こえないような小さな声で会話していた。
「…なあ、何か調子狂うな」
「確かにな」
アルフがボリスの意見に同意する。ちらりと後ろを振り返ると、エルフの後ろから着いてくるイルナが見える。
「貴族のご令嬢なんて取っつきにくいか偉そうかどっちかだと思ってたけど」
「実際今まではそうだったが」
「うん。だけどあの子、自分の事名前で呼べって。俺びっくりして何て返せばいいのか一瞬迷った」
「俺も驚いた」
実際ボリスが「イルナちゃん」と呼んでも怒らなかったので、さらに内心驚いたのだが。
「とにかく乗り物を確保してすぐに出発するぞ」
「そうだね」
アルフがそう言うとボリスも頷く。しばらく歩いて行くと、貸し乗り物屋に辿り着いた。
ボリスが店の男に声をかける。
「こんにちは~。エミューを六頭程借りたいんだけど、ある?」
「エミューを六頭?う~ん、今は二頭しかいねぇよ」
「え」
柵の中を見ると本当に二頭しか繋がれていない。二頭じゃ乗り合わせても四人がせいぜいだ。
「困ったな。アルフ、どうする?」
「そうだな…」
言いながらアルフが他の乗り物がないか視線を巡らせる。すると、貸し乗り物屋の男が困ったように呟いた。
「今アンタ等全員が乗るのに使えそうなのは、…そうだな、まあちょっと危険だがドレイクなら四頭用意できるが」
「は!?ドレイクだって?おっちゃんそんなの飼ってんの!?」
「まあ商売だからなぁ」
ボリスが驚いたように叫ぶと、貸し乗り物屋の男は何て事ないように呟いた。それを聞いていたイルナがキルスティに耳打ちする。
「ドレイクって何?」
「ん?えっとね、ドラゴンの仲間だよ」
「え…」
ドラゴンと聞いてイルナが目を丸くする。するとアルフは静かに考え込み、シルヴァとランナルに向かって問いかけた。
「お前達はドレイクに乗れるか?」
「当然でしょ」
「問題ないね」
「なら決まりだ。オヤジ、そいつを四頭貸してくれ」
「え、マジで!?嘘だろ~!」
あっさりと借りる事を決めたアルフにボリスはがっくりと項垂れる。どうやらキルスティとイルナは冒険者二人に乗せてもらい、シルヴァとランナルは一人ずつ乗るようだ。
「あの、ドラゴンに乗れるんですか?」
「ああ」
「そりゃあ乗れるよ。何せアルフは元竜騎兵だからな。あ、俺は違うけど!」
「竜騎兵…」
エミール王国の竜騎兵隊に所属していたらしく、竜に乗るのは問題ないそうだ。冒険者の素性は根掘り葉掘り聞いてはいけないと事前に教えてもらっていたので、イルナもそれ以上何も言わなかった。
「じゃあ行こう。ドレイクなら3日どころか1日で着く。しっかり掴まってろよ」
「はい」
アルフのドラゴンにはイルナが同乗させてもらうことになった。一番慣れている人物に一番守ってもらいたい人を乗せる事にしたからだ。キルスティは最後まで一人で乗りたいと騒いでいたが、どのみちドレイクは四頭しかいなかったので、最終的に諦めていた。ぶつぶつ文句は言っていたが。
こうしてドレイクに乗った6人は、あっという間に空へ飛び上がる。初めての感覚にイルナは怖くなり、アルフにぎゅっとしがみついた。この浮遊感が何とも言えないくらい気持ち悪い。
「大丈夫か?」
「はっ…はい…!」
返事をするのがやっとだ。ぎゅうっと目を閉じて恐怖に耐えていると、アルフが後ろからしがみつくイルナの手をポンポンと叩いた。
「は、はい?」
「大丈夫だから目を開けて見ろ」
「う……?」
恐る恐る目を開ける。すると眼前に広がる雄大な景色に一瞬恐怖を忘れて見入ってしまった。
「うわ…すごい…!」
「これが空からの景色だ。いいもんだろ?」
「はい…!」
「それと、目を閉じる方が気分が悪くなる。しっかり前を見ておけ」
そうなんだ、とイルナが視線を前に向ける。頬に当たる風や流れる景色を見ていると、確かに幾分か気分が良くなってきた。
「見えない恐怖は思いの他気分を悪くする。浮遊感も相まって、自分がどの方向にどう向かっているのか分からなくなると、余計に悪化するんだ」
「そうなんですね…」
「ああ。俺を信じて前だけ見ていれば気分なんて悪くならない。だからしっかり目を開けておけばいい」
「わかりました」
ぶっきらぼうだけど優しい人なんだな、なんて思うとイルナはちょっと嬉しくなった。自分の護衛をしてくれる人だから、少しは打ち解けたい。ボリスは人懐っこいが、アルフはよくわからなかったので、一緒に乗ると聞いた時は少なからず緊張していた。
「きゃっほう~っ!最高~!!」
「うわっ、ちょ、キルスティちゃん!暴れないでって!」
「ボリスへっぽこ~!」
「なっ、誰がへっぽこだ!よっし、見てろ!」
「イエ~!」
隣の二人は何だか暴れている。あはは…と乾いた笑みを浮かべて眺めていると、後方からエルフ二人がスムーズな操縦でドレイクを操っていた。
何だかみんな楽しそうだ。そういう様子を見ていると自分も楽しくなってくる。
こうして、ようやくドレイクに慣れた頃に一度着陸して昼食をとる事になった。




