エミール国王との謁見
エミール王国の王宮に辿り着いたテオドール一行は、一旦謁見の前に別室に通される。そこで護衛騎士数名と側近であるキーン以外は部屋の外に出され、室外で待機になっていた。
数刻後、案内された部屋で待っていたのは、この国の国王であるカーティス・ネル・エミールだ。どうやらこの部屋は国王の私的な部屋らしい。
「よく来たな、テオドール!」
「は、エミール国王陛下。突然の訪問、誠に…」
「堅苦しい挨拶はよせ!お前と私は従兄弟だろう?」
「…全く、謁見室ではないのはお前の差し金だな、カーティス」
ニヤリと笑う国王にテオドールも呆れたように笑う。この国の国王は一年前に急逝し、当時十九才だった王太子であるカーティスが即位したのだった。
先王の后、つまり今の皇太后はネストーレ王国の王妃であるクラウディアの姉だ。そういう理由でカーティスとテオドールは従兄弟にあたる。
「で、急な訪問の理由は書状であらかた聞いているが…」
「ああ。ヴァルデマー・ヴィンセントを知っているだろう?」
「勿論だ。元宮廷魔術師だったが、たいそう変わり者だった、くらいだが」
「その男が闇竜ゲアトルースの封印の杖を持っていた」
「ふむ…」
一応書状にはあらましを書いてある為、そういった内容はカーティスにも伝わっている。だが、わざわざテオドールが訪れたのはそれを口頭で伝える為ではない。
「闇竜ゲアトルースを封印から解き、自らを魔王と呼び、そして--」
「どこかの魔術師の命を狙ってるのだったな」
「……そうだ」
「そんな人物は本当にいるのか?」
「わからん。が、事実奴は我が国の領土で暴れている」
増幅術師に関しては、ネストーレ王国での重要機密事項と言ってもいいくらい、自国でも知られていない職業だ。さすがにカーティスには言えない。
こうして情報連携をしに来ている訳だが、隠さなくてはいけない事があっては意味がないような気もするが、王命なのだから仕方がない。
「…それと、エミール王国の守護竜の様子はどうだ?」
「それについては宰相から説明してもらおう」
カーティスが目配せをすると、後ろに控えていた妙齢の男性がスッと前に出た。
「この国の宰相を務めております、グスタフ・カーネルと申します。以後、お見知りおきを」
「テオドール・カーン・ネストーレだ。貴殿がカーネル公爵か。で、守護竜はどのようなご様子で?」
テオドールが訪ねると、カーネル公爵は静かに説明した。
エミール王国の守護竜は水竜だ。砂漠に囲まれた国で水源に恵まれているのも、ひとえに守護竜が泉を潤してくれているお陰だ。
ただ、ここの所泉の水位が下がっているらしく、原因を究明中との事だった。
「エミール王国もか…」
「という事は、ネストーレ王国の守護竜も弱っていると言う事か?」
「…あまり言いたくはないが、どうやらヴァルデマーが封魔の杖を使い、各地の守護をしている竜の力を奪っているらしい。我がネストーレは聖竜は王宮の奥深くの神殿にいるからか、直接力を奪う事ができないようだが…」
「では、エミール王国もそうでしょうな。何しろ守護竜であらせられるアイアース様は、普段泉の底におられる」
さすがのヴァルデマーも泉の底までは行けなかったようだ。
「ただ、呪いのようなもので力を少しずつ奪っているようだ」
「なるほど…」
結局、現時点でどうにかできる問題ではないのだ。ただ、これからの事を考えて、両国でやらなければならない事はある。
「カーティス国王。各地の守護竜達が眠りについた今、今後天災に見舞われる事象が起こりうる。いや、すでに小さな地震も各地で起こっている。どうにかして守護竜達を復活させ、ヴァルデマーの暴走を止める協力をしていただきたい」
「もちろんだ」
がっしりと固く握手を交わす。テオドールは一先ずほっと息をついたのだった。
※※※
晩餐の後、客室に戻ったテオドールは、キーンに向かって独り言のように呟いた。
「ルーメン侯爵令嬢は本当に旅行だったのだろうか」
「は?」
唐突な話題にキーンが訝しげな表情を浮かべる。
「だと思いますが」
適当に返事をするが、それからテオドールの返事はない。一体急に何を気にしているのか、キーンが不思議に思う。
「イルナ嬢は実家から出されて辺境伯の領地で世話になっていると聞いてます。ですのでわりと自由がきくのだと思いますが、気になるのでしたら調べますが」
「いや…」
歯切れの悪い物言いだが、それ以上テオドールが何か言う事もなかった為、この話は終了した。が、逆にキーンが気になりだす。
(確かイルナ嬢は第二王子殿下と婚約したと、テオドール殿下が言っていたな…。となれば確かに今旅行をするのはおかしいのか?)
そう考えるも、逆に言えば正式に婚約を発表する前に旅行をしておこうと思ったとも取れる。
(どちらにしても、彼女がいたからと言って、何かある訳でもないだろう)
結局、キーンの中でも大した事ではないと結論づけられた。




