エミール王国のギルドマスター
街に入ったイルナ達は、何故だか人々の注目を浴びていた。通りすがりの人達がこちらを見て何かを言っているのが聞こえる。とは言っても会話の内容はさっぱりわからないが、自分達の事を話しているのは間違いないようだ。
「またシルヴァをダークエルフとか言ってんじゃね?」
「バカじゃないの」
「え、シルヴァさんはダークエルフというか、ドラウ族?には見えないですよ」
「えっ」
急にイルナが口を挟み、シルヴァが驚く。
「だって日焼けですよね、その肌。それに綺麗なプラチナブロンドの髪ですし、間違うのがおかしいですよ」
「……」
確か前にキルスティから聞いていたドラウ族の特徴は、黒い肌に白い髪だったはず。それに比べてシルヴァは褐色の肌にプラチナブロンドの髪だ。知識として知っていれば間違う事はないだろう。
イルナの言葉に目を丸くしたシルヴァは、次の瞬間吹き出すように笑いだした。
「フフフ、あはははっ、イルナ様ってばおかしいっ、フクク…ッ」
「え、な、何」
「この肌は元々よ。まあ、日焼けも多少あるけど…でもそんな風に言われたのは初めてです」
「は、はあ…」
よく分からないがシルヴァのツボに入ったらしい。まだ肩を震わせている。
「そ、そんなにおかしかった?」
「いえ、そうじゃなくて、変わった人だなって思って」
「え!?」
「ああ、悪い意味じゃなくて、ですよ。そんな風に言われたのは初めてだったから」
そう言って笑うシルヴァの顔は、どこか嬉しそうだった。
「イルナ様は天然のいい人なんだね~」
「えっ」
「そうそう、イルナは天然の可愛い子なんだよぉ」
「ええっ!?」
「黙ってれば落ち着いていてちょっと神秘的なご令嬢に見えるのにね」
「え!?」
ランナルの感想にキルスティとシルヴァも続ける。何だかだんだん恥ずかしくなってきたイルナは、顔を赤くして下を向いた。
「も、もうあんまり喋らないようにする…」
悔し紛れに言ってみたが、三人はニコニコ笑ってイルナを見ていた。居たたまれなくなったイルナはキルスティを追い越して先を歩きだす。
「さ、さあ!早くギルドに行きましょう!場所どこ!?」
最後の一言で再び笑いが起こったのは言うまでもない。
***
そうこうしているうちにイルナ達は冒険者ギルドにたどり着いた。何を隠そうギルドが初めてのイルナは興味深々だ。
イルナが少しだけキョロキョロしていると、シルヴァがプッと小さく吹き出す。また笑われたとイルナが慌てて真顔で姿勢を正すと、今度はそれを見てランナルが笑った。
「もう、どうしたって二人は笑うのね」
「違いますよ」
「イルナ様が可愛くて」
シルヴァとランナルが答えるが、イルナはプウッと膨れている。そして自分達がギルドで視線を集めている事に気付いていないイルナは、スタスタとカウンターに向かうキルスティを見て慌てて後に続いた。
「こんにちは。ご依頼でしょうか?」
にっこりと受付嬢の女性が笑顔を向ける。それに対してキルスティも笑顔を向けた。
「ギルドマスターに会いたいのだけど、いるかなぁ?」
「ギルドマスターにですか?失礼ですが、アポイントは…」
「えっと、カジミールの娘が来たって言ってくれればわかるよ」
「…少々お待ちください」
不思議そうな顔をしつつもさすが受付嬢だ。嫌な顔は全く見せずに奥へ引っ込む。突然現れた余所者がギルドマスターを呼びつけたのだから、多少なりとも不審がられているだろう。
ちょっと不安になってイルナがキルスティを眺めるが、当の本人は平然としている。いつも思うがキルスティの堂々とした態度は、イルナを安心させる要素の一つだ。
そうこうしているとパタパタと奥から受付のお姉さんが戻ってきた。
「すみません、お待たせいたしました。お会いするそうですので、こちらへどうぞ」
ざわっと、その瞬間まわりが騒がしくなる。どうやらいきなりギルドマスターに面会するのが珍しいようだ。
「ありがとう。じゃあみんな行くよ」
「うん」
「ええ」
「はいよ」
イルナ、シルヴァ、ランナルの順に返事をする。そしてお姉さんに案内され、ギルドの奥にあるギルドマスターの部屋へ通された。
「失礼します。お客様をお連れしました」
「入れ」
許可が下り、室内に入る。するとそこには大柄で強面の男性が大きな椅子に座っていた。
「よく来たな。で、どいつがカジミールの娘だ?」
「私だよ」
「ほお、あんま似てねぇな」
「ママに似てるの!」
似てないと言われるのが嫌なのか、キルスティが言い返す。それを見てギルドマスターはガハハと大声で笑いだした。
「すまんすまん、怒るなって。っと、まずは自己紹介だな!」
そう言いながらイルナ達に座るよう促す。いつの間にかお姉さんが皆のお茶を用意してくれていた。仕事が早い。
「俺はここのギルドマスターをしてるビクト-ル・ロウエルだ。よろしくな」
「イルナ・ルーメンと申します」
「シルヴァよ」
「ランナルだ」
各々が名を名乗る。ビクト-ルが4人の顔を伺うように見ていたが、イルナに視線を向けてニヤッと笑った。
「事情は…まあ聞いてるぜ。で、アンタを無事にサラマンダーの巣へ連れて行けばいいんだな?」
「サラマンダーの巣?」
生命の木がある場所に案内してもらうはずなのに、なんだか物騒な名前を告げられてイルナが首を傾げる。するとビクト-ルは屈託のない笑顔でイルナを見た。
「ああ。カジミールから聞いている『消えない炎で人が立ち入れない場所』ってぇのはサラマンダーの巣しかねぇよ」
「そこに…その、植物は存在するんですか?」
生命の木と言いたかったが、カジミールがどこまで伝えているのか分からず、ぼんやりとした表現で訪ねる。ビクト-ルはイルナの質問に対して大きく頷いてみせた。
「ああ、あるぜ。とびきりデカイ木が何本も生えてる。神話の世界の『セフィロトの樹』ってヤツがな」
そう言ってニヤリと笑うビクト-ルは、どうやら何をしにそこへ行くのか知っているようだった。




