イルナの決心
翌日。朝食の後アミンを呼び、一応今日の予定を伝えた。
昨日の薬草園に一人で行くのだが、オーブを使って転移するなんて絶対に言えない。
だから、今日は工房に籠るから誰も入って来ないで欲しい事と、お昼も工房で食べるので何か軽い物を用意して欲しいと伝えた。
アミンは何も疑う事なく返事をし、半時程して昼食用の軽食を持ってきた。
「ありがとう、じゃあ工房に行くから後はお願いね」
「かしこまりました。お手伝いでしたらいつでもしますので、遠慮なく言ってくださいね」
「ふふふっ、ありがとう」
そう言ってアミンが退室し、イルナもお弁当を持って工房へ向かう。
ガチャリとしっかり中から鍵を掛け、ポケットからオーブを取り出した。
(そういえばどうやって使うんだろう?)
昨日キルスティに使い方を聞いてなかった事を思い出し、イルナはサーっと顔を青くする。
キルスティがここにいれば聞けるが、いないのでどうしようもない。
「うわぁ、キルスティの所に行きたいのに」
ガッカリしながら呟くと、突然オーブが光り出す。
「え?」
驚いてオーブを見つめると、光は段々大きくなっていき、目が開けられない程の輝きを放った。
「まぶしっ…!」
思わず目を閉じる。
そしてゆっくりと目を開けると、そこは昨日の薬草園の中だった。
「え…どうやって…」
驚いて目を擦ると、クスクスと笑うキルスティが側に立っていた。
今日は人間の姿だ。
「おはよう、イルナ」
「お、おはようキルスティ…。あの、このオー…オルビスってどうやって使うの?何か分からないうちにここに来ちゃったんだけど…」
毎回ここに来るのにやり方がわからないとまずい。今日はたまたま作動したが、明日も動くとは限らないからだ。
そう思ってキルスティに尋ねると、彼女はニコニコ笑いながら何でもないように答えた。
「会いたい人や行きたい場所の名前を言えばいいよ。でも、ちゃんと一度は行った事がある場所とか会った事ある人じゃないと駄目だけど」
「え?じゃあ別にここじゃない場所にも行けるの?」
「うん。イルナはさっき私に会いたいと思ってくれたんでしょ?だからここに来れたよ」
「そ、そうなんだ…」
何とめちゃくちゃ便利なグッズじゃないかと、イルナがちょっと興奮する。
これがあれば両親の所にもエーテルを直接届ける事ができるし、家族の様子を自分で見る事ができる。
…まあ、追放されたのに王都に姿を現したりしたら、多分怒られるだろうけど。
「とにかく来てくれてうれしい。さっそく案内するね」
「案内ってどこに?」
「私の部屋だよ」
そう言ってキルスティはスタスタと歩き出した。
販売所になっている建物に入り、奥へ続く扉を開ける。チラリと見れば今日は定休日の張り紙がしてあった。
「こっちこっち!」
入り口を見ていたイルナにキルスティが手招きをする。
慌ててキルスティについていき、奥へ続く扉を潜り抜けた。すると目の前には建物の外観からは考えられないくらい広い空間が広がっていた。
「え、ど、どうなってるの?広すぎるんだけど…」
「空間魔法を使ってるんだよ。イルナも使えるんじゃないかな。無属性だし」
「え、そうなの!?」
それはぜひとも使ってみたい。
ダメだ、キルスティに聞きたい事が山ほど出て来そうだ。何しろ本物のエルフなのだから、魔法に関しては人間とは比べ物にならないくらい知ってるはずだ。
イルナの考えている事がわかったのか、キルスティはクスクスと笑う。
「大丈夫だよ。ちゃんとイルナの知りたい事全部教える。それが私の役目だからね」
「役目…?」
「アウキシリアの教育だよ。イルナは自分の能力を伸ばしたくない?」
「自分の能力…」
そう言われて考え込む。イルナは両親の期待に答えたくて魔法を練習してきた。実は剣術だって鍛えていたのだ。
魔力だけは膨大にあるのに、魔法の腕は全然伸びない。それが辛くて何とか認めてほしくて、だから図書室で見つけたあの「無属性魔法の活用法」の本を必死で読み漁り、無属性魔法だけを伸ばして来たのだ。
でも両親には失望され、結局は一人辺境の地へ追いやられる始末だ。自分の努力は何だったんだろうと、初めの頃は随分落ち込んだ。
本当は今の自分に満足なんてしていない。でも何かせずにはいられない。だからポーションを作って兵士達に売っていた。エーテルを作りたいのだって同じだ。自分の能力を認めてもらいたくてやっているだけだ。
「キルスティと一緒に頑張れば、こんな私でも一人前になれる?」
「なれるよ~。一人前どころか唯一無二の存在になれるよぉ」
「唯一無二…」
ただ一人の、他にいない存在。本当になれるのなら――
「私、一人前のアウキシリアになるわ!」
「うん!なろう!そして世界を救ってね!」
「任せて!世界を……世界………って、え、世界を救う…?」
「そうだよ?アウキシリアの宿命だもの」
当然だよ、とばかりにキルスティが平然と言ってのける。
そしてイルナはそのセリフに目が点になり、一呼吸遅れてから…
「ええええええええ!!!!?」
今までないくらいの大声で雄たけびを上げたのだった。




