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9 魔王さまの数年前

 数年前。


 魔王城の一室、王座に座っているのはまさしく闇であり力の塊とも言える存在、魔王である。

 黒衣を着て、長い黒髪を後ろに流し、浅黒い肌でがっしりとした体型の魔王は鋭い目を不満そうに細めた。


「暇だ!」


 近くにいた部下、肩ほどに切りそろえた黒髪、どんぐり眼が特徴の彼女は主の叫びを黙殺した。

 視線すら合わせない完璧な無視である。

 無視された魔王は諦めずに部下に話しかけた。


「思うのだが、ミドリ」

「魔王さまの思うことはろくなことがないので、何も思わないで頂きたいです」


 ミドリと呼ばれた部下にすぱっと言い切られ、早々に先制パンチを食らった魔王だった。

 しかし彼はめげずに、うむむと眉をひそめながらも続きを言った。


「何故俺はこうも暇なのだろうか」


 長い魔族の命を生きているせいで、この人は多分もうろくしているのだろう。

 お爺さんに話しかけるような気持ちでミドリは魔王に言う。声の温度は絶対零度だが。


「……魔王さまがとうの昔に勇者を根こそぎ倒し尽くしたからじゃないでしょうか?」


 あー、とか悩ましい声をあげるのは魔王である。忘れてたのか。


「あれはほら……ほらその、魔王たるもの勇者に背を向ける訳にはいかぬと……」

「そのように喜々として魔王さま自らがまだ弱い勇者に戦いを挑むからいけないのです。ケルベロスですら待てが出来ますよ、魔王さま」

「うぐ……」


 魔王である以上、それを倒そうとする勇者が出現する。それはいい。

 しかしこの魔王ときたら、レベル一桁の勇者に戦いを挑むのだ。外道だ。まさに魔王。

 弱い魔物から順次戦わせて強くなるまで待つというのが暗黙の了解、定石であるというのに。

 当然勇者が勝てるわけもなく、現在百年単位で暇なのはミドリも同じである。

 それが魔王のポリシーならばいいのだ。だが違う。この魔王ときたら暇すぎて、勇者が成長するまで待てないのである。


「暇だ、ミドリ」

「知りません」


 よって無意味に部下に絡む暇をもてあました魔王さまの出来上がりである。


「何か趣味でも持ったらどうですか、魔王さま」


 呆れ顔でミドリが言ったのは、少しでも矛先を逸らそうとしたのであったのだが。





 ――数日後、魔王の部屋に大きな机と椅子、そして変な二つの箱が用意されたときに、嫌な予感がしたのは魔族の直感ゆえだろうか。


「ミドリ、どうだこの感謝の言葉の数々!」

「……(どっちにしても鬱陶しいことに違いはなかった)」


 自分が言い出した手前、魔王に手紙を見せられながら、いやいや手伝うことになる部下ミドリであった。



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