人間界から異世界へ、その壱
僕の言葉と共に、いきなり真っ暗になったかと思ったら周りの景色が一転した。
見慣れていた道場は跡かたも無くなり、ナラやミズナラなどの広葉樹が立ち並び足下にはこれまで季節の移り変わりと共に降り積もった広葉樹の葉が厚く堆積した様に柔らかな土から広葉樹の葉からこぼれ下りる日の光を求めて少ない日に光でも育つシダや苔が広葉樹のもとを覆っていた。
周りには生き物の息吹が満ち、その息吹に呼応する様に僕の体の細胞が目覚めが活性するのが分かる。
安直だけど、僕の居るべき世界に今、居るんだと体が教えてくれた。
その感覚に浸っていると、後ろから
「龍鬼様、如何なされました?」
と声がかかった、振り向くとそこには、大人の男が二人がかりでも持てない様な大きな荷物を背負った守麗ねいさんと裂嘉ねいちゃんがいた。
今まで生活の中では、見た事のない怪力ぶりの二人を見た僕は
「あの~、重くないんですか?」
と間抜けな問いかけをしてから、慌てていつもの調子で
「僕が持ちます!」
と言った・・・もののこの荷物の量は…と冷たい汗が背中に流れた。
しかし、二人からは
「いえ、主に荷物を持たせるなどもっての外、御気になさらずに。
それに、こちらの世界に戻って封印が解けて本来の「力」が戻っておりますのでこの程度の荷物などどうと言う事はありません」
「そうです、それに今はこちらの世界に着いたばかり、龍鬼様には此方の環境に早く慣れていただかなくてはなりません」
と、言われてしまう、しかし、此方の環境に慣れて、と言われても自分では特にに変わった様には思えない
ただ、空気の美味しい自然の多い所だなぁと思うだけで首をかしげてしまう。
すると、
「そうですね、ご自分ではお気づきになられていらっしゃらないのですね」
と言って、二人で相談していたかと思うと
「口で説明するより、体験していただいた方がご理解いただけると思います、この森を進むと開けた所がありますのでそこまで移動いたしましょう」
と言ってくる、僕には何がどうなっているのか分からないのでついて行くしかない
が先程からの口調が気になり
「それは良いんだけど、その前にぃ、そのかしこまった口調はなんとかならない、守麗ねいさんも裂嘉ねいちゃんも余りにも他人行儀で話しずらいよ」
と言うと、逆に
「私たちに『ねいさん』・『ねいちゃん』と敬称を御付けになるのはおやめ下さい。」
「そうです、私たちは終生、主だけに使える従者。名を告げていただくだけで結構です。」
などと言われてしまう。
僕も「いきなりそんなに畏まれても・・・」と言って、すったもんだの挙句
「二人は僕の家族なんだから」と言う一言が効いたのか(何故か二人して頬を赤らめたが?)口調はもとに戻してもらい代わりに二人には敬称を付けない事で治まった。
そんな話しをしながら、歩いていくと森の中にポッカりと開けた場所に出た
「それじゃ、この場で龍輝の「力」の変化を確認してもらうわよ」
「まず、私達が見本を見せるから、見ててね」
と僕から少し離れると、まず守麗が広場の端にある一抱えもある木に近づいたと思ったら、
「撥っ!」
と言う掛け声と共にその木を引き抜いてしまい
次に、裂嘉が自分の体よりも大きな石を掴む(指が石に食い込んでいる)と今度は掛け声まなくヒョイっと持ち挙げて
「まぁ、ざっとこんなもんです」
「それほど大したことはないですが・・・では龍輝行きますよぉ」
と、掴んだ石をボールの様に僕に投げてくる。
小さい頃のキャッチボールの様に余りにも当たり前に投げてくるものだから一瞬取ろうするけれど、どう見ても僕よりも大きな石で、慌てて飛び退いて
「無茶は止めてくれよ!」
と怒っても、裂嘉は何で避けるのか分からないと言った顔つきに
「守麗も何とか言ってくれ」
と、振り向いたら目の前には大きな物体が飛んで来ていて、慌てて手で飛んで来るものを振り飛ばすと
まるでビンボールゲームの玉の様に、遠くの森に吹っ飛んでいき落ちた先で、森に住む鳥や動物たちが大騒ぎする声だけが聞こえてきた。
「何をするんだ!」
と睨みつけるとその先には、満足げに笑みを浮かべる守麗がいた。
その笑顔に「?」と考え・・・手ぶらの守麗を見て先程引き抜いた木を投げて来た事に気付き
「危ないじゃないか、」
と抗議をしようとするものの、自分のした事に気付き絶句した。
手に残っている感触は、道端に落ちている枯れ枝程度の感触しかなく、とても一抱え以上ある大木が手に触れた感触は残っていなかった。
「少しは理解出来ましたか?それが今、貴方が持っている「力」の一端です。」
「もともと、今まで暮らしていた世界では此方の世界の住人が実体を持つのに多大な力が必要になります。」
「そのため、この世界に住む者たちはあちらでは、ほとんど見えなかったり触れる事が出来ないのです。」
「龍輝は内在する「力」が強くその身の内だけに留まらず、漏れて来ているためその力の影響で見えたり触れたり出来たんです。」
と、何故に僕にはものの化や妖しが見えて他の人には見えないのかまで説明されてしまった。
人間界で見ていたり遊んでいた、ものの化や妖し達はこちらの世界の住人だった、と言う事かな。
どうやら、さっきまで居た人間界はその世界に「存在する」だけで力が必要なようだ、
対して今いるこの世界は「存在」する事に対する制約はないため、以前「存在する」為に使っていた「力」を使い必要が無く、外部に対する己の力として使えるとの事らしい・・・
良くわかんないけど、僕はこの世界では力を持った強者と言う事になる様だ、自覚は無いけど・・・
しかし、今までの様な感覚で体を動かすだけで他の者にとってはある意味「災い」になってしまう。
その為に、自分の力に振り回されない様にこの森の中で力のコントロールを覚えてから人里に向うと言う事で
数日この森で野営をする事を決めていると、僕(不本意ながら)が吹っ飛ばした大木が飛んで行った方から大きな地響きをたてて何かが向かって来た。
僕は大きな地響きにオロオロしているが、他の二人は平気な顔で
「晩ご飯がやって来た」
などと言って喜んでいる・・・
木々をなぎ倒し向かってきたのは、強大なイノシシ!(ダンプカーくらい)
それが、真っ直ぐに僕へと突進してくる
「竜輝、晩ご飯はシシ鍋にするんだからしっかりね」
と守麗は当たり前の様に言われるも、「こんなモノをどうしたら?」と声を上げる間もなくイノシシの突進を受け天高く吹き飛ばされてしまった。
大型車両に追突された様なものだから「即死!」と想うも、全く痛くない。
むしろ、赤ちゃんの高い高いをされている様な空に浮かぶ気持良さがあるだけで、服は破れたものの体は無傷だった。
その事に安心し、落ち着いてゆっくり眼下のイノシシを見ると続けて突き上げようと待ち構えている、
下に落ちイノシシの鼻が僕を突き上げる瞬間に鼻を掴み飛ばされるのを回避、素早く地面に降りた。
イノシシは、一瞬僕を見失った様だが改めて突き飛ばそうと距離を取り、再び突っ込んで来た。
今度は吹き飛ばされない様に、地面を踏みしめ右手で突進をいなそうと左下に払うと、イノシシ自身の突進のベクトルが左下方向に変わり、僕の左脇の地面の突っ込みその勢いのまま体が仰向けに反転、首の辺りから鈍い骨が折れる音が響き、動きを止めてしまった。
余りの事に茫然としている僕を他所に、守麗は肉切り包丁を取り出し皮を剥がし解体して行く。
裂嘉は
「やっぱり力の使い方をしっかり調節しないと、大変な事になっちゃうなぁ」
と困った物を見る様に、目を向けてくる。
その夜の晩ご飯は豪勢なシシ肉たっぷりのシシ鍋となり大満足だった。(森の中には山菜がたっぷりと自生し、野生の白菜やキャベツの様なものあって食には困らない様だった)
シシ鍋を腹いっぱい詰め込み、食後の御茶(緑茶の様なもので口の中がさっぱり)を飲みくつろぎながらこの世界の事について聞く事にした。
暗くなったので、実際に体を動かすの明朝からと言う事で、まずはお勉強の時間って事だな。




