プロローグ、その六
その世界には、龍(竜)・鬼・魔獣(幻獣)、神獣・獣人・妖精・人間と様々な知恵を持つもの達が暮らしていた
ほとんどの者達は、その部族毎の集団に「律」が決められ集落を形成し、その集落周辺ではその集落を構成する主要部族の「律」を尊重し緩やかなまとまりを作り暮らしていた。
唯一、人間だけは自らの欲望に翻弄され「律」を形成する事が出来ず、より大きなまとまりと枠組みとして「国」を作る事に求め、その「国」を作る事に尽力した者達が支配層となり大きな権力を持ち「律」より厳密な「法」を作りだす事で、「国」としてまとまりを維持する事が出来た。
もっとも、人間は他の種族に比べて体も脆弱で、魔力・妖力と言った力も弱く寿命も短かった。
他の種族に互して行けるものは、その旺盛な繁殖力と無限の欲望のみだったため集団で自らを守ろうとする事はむしろ自然な流れだったかもしれない。
そして、人間は「国」に住み他の種族は緩やかな集落で生活をすると言った住み分けが長らく続いていた。
そんなある時、西方の人間の「国」で、ある「思想」が産まれた。
それは、
『「国」と言った集合単位を形成し「法」を作りだす事の出来た我々人間は全ての種族の上に立つ存在である』
と言ったものだった。
本来、人間自身のあまりにも大き過ぎる「欲望」を抑え込む為に作られた「法」が間違った捉えられ方をしただけなのだが、既にその時は「法」を「法」本来の目的のためにを作った人間達は死んでいて、その理念も忘れ去られてしまっていた。
もちろん、賢明な人間も多く「律」と「法」の違いはその種族が必要とする決まり事の差異ににすぎないと説いたのだが、本質的な部分で他種族に比べて劣等感を抱いていた多くの人間にとって、その「思想」は自らの劣等感を覆い隠し欲望を開放するだけの十分すぎる想いを与えてしまった。
人間はその「思想」に酔い、他種族を蔑む様になり、自分達の欲望のままに他種族の生活を害するようになっていった。
他種族は自らの「律」に合わせ人間の行動に対応していた
身体的にも魔力・妖力と言った種族固有の「力」でも、人間より遥かに強い力を持つ彼等にとって人間個人による行為など大した害にはならなかった。
しかし、西の「国」による「他種族隷属令」(人間はあらゆる種族の上に立つ存在であり、他種族の生殺与奪権は人間が持つ、あらゆる種族は人間の奴隷であると言ったもの)が出され、「国」として他種族に対し隷属化・大虐殺が行われる様になると他種族も看過する事は出来なくなっていった。
各集落・各部族毎に人間に対する抵抗は行われたが、人間の「国」よる圧倒的多数での集団敵対行動に対し他種族は各個撃破されて行った。
そんな中、龍族の姫巫女と鬼族の若き族長の呼び掛けによって連携し他種族合同で人間に対抗出来るようになった。
戦闘行為は主に鬼族の若き族長 須佐がにない、相互の連携は龍族の姫巫女 月嘉が支えた。
その結果、人間と他種族との戦は一進一退を繰り返し泥沼の様相を呈した
そんな膠着状態の中、妖孤の里が人間に襲われている言う知らせが届き、須佐は龍族の戦人 源 に彼の指揮下にある一軍をもって妖孤の里の救援と人間の撃退を命じた。
妖孤の里に急行した源は、神速の早さで人間軍を急襲、圧倒的な力で人間軍を粉砕し人間軍を率いていた指揮官を捕える事に成功した。
その指揮官は西の「国」の次期国王と目された王子だったっため、須佐と月嘉はこの王子の身柄交換に戦の終結を求めた。
西の国も次期国王の身柄と交換と言う事では無下にも出来ず、長い交渉が行われた。
その結果、人間による他種族集落及び生活圏への侵略行為の禁止と相互への不可侵条約が締結された。
ただ、西の国での他種族の奴隷制については撤廃されなかった。
不本意ながらも、今後の泥沼の戦回避が優先され条約は締結され王子は人間の元に解放された。
しかし、その捕虜交換及び停戦調印式が終わった直後、他種族を率いてきた須佐と月嘉が殺害された。
当初人間によるものだと思われていたが、既にその周辺から人間の軍は全て去った後だっため誰の仕業かは分からず。
月嘉を庇うようにして抱く須佐の背中から二人一度に刺し貫いた傷と、須佐の鎧兜と月嘉の愛刀が消えていた事実がその場に残された以外何も分からなかった。
月嘉のお腹に宿っていた彼らの御子も消えていた事に誰一人気付く事無く・・・
それから、長い年月が過ぎ・・・




