終結と始まり
声の方を向くとそこには、武早と猫人族の女が立っていた。
「剛弥殿もいつまで頭を下げているつもりかのう、いくら一族の盟主の血筋とは言えそれは既に千年も昔の話し、その様な話しを持ちだされても龍輝殿を困らせるだけではないかのう」
「武早殿にはすべてお見通しですなぁ、いや武早殿に精霊達が伝えたのでしょうか?」
「ふむぅ、何か大きな力の持ち主だとは思っておったが、龍眼とその身に纏う精霊達を見れば自ずと知れよう」
「いや、私達は精霊に想いを伝える事は出来ますが、精霊の「声」を聞く事は昨日まで出来ませんでしたから昨夜の騒ぎが収まり、龍輝様の「力」を浴びた事により古の術がその身に蘇ったばかりで事細かに話す事は出来ませんから、未だに精霊の訴える事をやっとの事で理解するのが精一杯でして、武早殿から全てをお話しいただけませんでしょうか」
「そうであったか、時間の流れ、里に住まう者と野に住む者の違いかのうでは仕方ない」
と、剛弥が僕等の前から下がり武早が進みで(猫人族の女は入り口付近に控えたまま)て
「竜輝殿、御主は須佐殿と月読殿の間に産まれるはずであった御子であろう。そして、守麗は須佐の鎧の付喪神《つくもかみ》、裂嘉は月読の守り刀の付喪神だな。」
「「それは・・・」」と二人が言いよんでいると
「今さら隠す事もあるまい、既に龍輝殿の目の龍眼も顕わになり精霊を見る事も出来るようになっておる様じゃ、その龍眼と御主らを見ればすぐわかる事、千年前まだ御主らは付喪神として産まれたばかりで幼く主を守り切れなかったと言う責任感と龍輝殿を慕う想いの狭間に言いだせなかった事は、即座に見当がつく事じゃが、だからと言って、御主らを龍輝殿が千年前の失態を理由に遠ざけようとする事などおきはすまい。恋は盲目とは言うがもう少し御主らの想い人の事を信用せねば、のう龍輝殿」
と言われ、二人とも顔を真っ赤にして困った様に下を向いた。
「これで弥生殿の懸念も晴れたかのう、弥生殿が思った通り先の鎧は須佐皇の鎧・鬼皇の鎧そのモノじゃ、その主が息子に変わっただけの事。正当な所有者の元にあるだけじゃ」
「しかし、千年前の皇の御子息と言われても・・・確か伝承ではお二人の死際に、御子は産まれて居なかったと伝わっておりますが」と弥生
「うむ、力のお強いお二人じゃお互いの力の強さによって御子はなかなか出来なかったのであろう、戦の最中でもあったしお二人とも正式な婚儀は戦が終わるまでせぬつもりであったようじゃ、もっともお二人が恋仲で在る事などその場に居た物なら一目見れば明らかになる様子だったらしいがのう、しかし一度宿った新たな魂を自らの死と共に冥府へ連れて行く事は余りにも不憫と思ったのであろう、お二人の力をそれぞれの鎧と太刀に宿らせ守らせて長い年月をかけこの世に産まれ出る事を望んだのではないかな、どうじゃな付喪神殿」
と振られるとハッとした顔で武早の顔を凝視した後一つ溜息をつき
「まるでその場に居たかのように話されますね武早殿」「ここまで言われて否とは申せません」
と吐露した。
「いやなに、我が一族に伝わる口伝でのう、千年前の現場に偶々居合せた風精霊が我が一族の者に教えてくれたのじゃよ、その事を知った我が一族はその事を連綿と伝え御子が現れた時には千年前の恩義に報いるべくその従者となるべしと「律」を定めていたのじゃよ」
「わしがまだ子供の頃、異世界にて龍輝殿の騎乗の練習に我が一族の者がお相手をしたと聞き及んでいたのでな、付喪神殿の事は伝わっておった。いつか龍輝殿が此方の世界に御渡りになっても良い様にと話しをしていたのじゃよ」
「あのぉ、その話しを伝えた飛雲虎は今は・・・」と聞くと
残念そうに「その者は今は既にこの世から去っておるよ、その話を伝えたのはもう二百年も前の事じゃし、天津地乃御世から異世界に渡るには膨大な「力」が必要で生涯に何度も渡るのは控える様に言われておったのだが、かの者は龍輝殿の元に長く居る事を望み、その生涯を閉じるまでかの地に居続け死の間際に龍輝殿達の事を言い残しこの世をさったのじゃよ」と教えてくれた。
僕が悲しそうな顔をすると「かの者は幸せだったと、龍輝殿と一時でも共に生きれた事を本当に嬉しそうに語ったそうじゃ、悲しむ事は無い。もしかしたら今頃黄泉の世界で【清鍛】を受けこの世に転生しておるかもしれんぞ」と励ましてくれた。
(天津地乃御世では、魂は輪廻転生を繰り返し死んで黄泉の國にて清められ・鍛えられて再び産まれ出るとされているらしい)
「我等が風精霊から伝え聞いた話しは以上じゃ、後は付喪神殿らが話しては如何かのう」と促した。
しばしの逡巡「ここまで明らかにされてはもう隠し事は無理なのでしょうね」と守麗が話し始めた。(裂嘉は俯いたままだが)
「武早殿ののお話しされた通り、私は須佐様の鎧『漆黒日月具足』の九十九神《つくもがみ》・守麗、隣に控えるは月読様の守り刀『龍鐡乃太刀』の九十九神・裂嘉でございます。
そして、我らの主・龍輝は須佐様、月読様の遺児でございます。」
と自分達の事、先の大戦からの事、僕が二十歳を迎えた事を機にこの世界に戻り、ゆっくりとこの世界に慣れて僕の本来の力が覚醒するのを待っていたのだが、そうした刻を措かず図らずも今回の騒動に遭遇した事などを話した。
僕の力とは・・・両親の力を受け継ぐ形で龍気・鬼気を纏い生きとし生きる物と意思の疎通を交わす、精霊と友誼を交わし精霊=自然の力を操る(精霊術?)・・・だそうだ。
なんだかいまいちピンと来ないが、精霊が見える様になったと言う事は此方の世界に来て少しは成長したのかな?
などと物思いに耽っていると、鬼族の男が「里の門前に白虎が駆けて来て、武早殿を呼べと叫んでおります」と息を切らせて走り込んで来た。
武早をはじめ剛弥など一同に里の門へ向うと、武早より若い飛雲虎が門の前に待ち構えていた。
「親父殿~!」
「旋嵐、この様な所で何をしておる、お主は捕えてある賊共を見張っておれと言い置いて来たではないか」
「すまぬ、親父殿。旋嵐一生の不覚!彼奴らの仲間に怪しげな術をかけられ気を失っている内に賊共に逃げられてしまった」
「馬鹿ものがぁ何時もの様に気ばかり急いて周囲に気を配らなかったのであろうがぁ」
「竜輝殿、申し訳ござらぬ。折角お手前に捕えていただいた賊を倅の失態で逃がしてしまった様だ、面目次第もござらぬ」
とまるで平伏するかのように武早は頭を下げた。
その武早の姿が目に入らぬのか若虎は、武早の言葉を遮る様に
「それと、俺に『術』をかけたと思われる男が、気を失う間際に『妹は預かっている、大事ならいらぬ手出しはするな』と言い放って去って行ったのだ、どうする、このまま千早を囚われの身にしておくのか」
と言いながら怒りをあらわにして武早に詰め寄って来た。
「ケスラー!」と今まで沈黙を守って来た猫人族が呟く・・・と。
「なんだと猫人!貴様何か知っているのか?」と旋嵐に詰め寄られあまりの迫力に武早の後ろに涙目になって隠れ
「賊徒の頭目で人間の魔術師です、私達の里に一番初めに訪れ里を地獄に叩きこんだ張本人」
と吐露すると
「貴様、奴らに仕えていた者だなぁ、ならば彼奴等が何処に行った分かるだろう、案内せい!」
と今度は猫人に詰め寄る
「まて、旋嵐!お主は奴の術に気付かず眠らされたのであろう、早まるでない」
「しかし、親父殿。千早が捕えられているのですぞ、このまま手を拱いているつもりか」
「そうではない」と釘を刺す様に言い放つと、徐に僕の方に向き直り
「龍輝殿申し訳ございませぬが御助成いただけまいか?今度の騒動の元凶はそのケスラーとやらの模様、乗りかかった船、どうか我等と共に元凶を取り除いてはいただけまいか?」
「何を言っているのだ、親父殿角の無い鬼などに助力など・・・龍眼!龍乃一族の御方か!!」
「たわけ!貴様は黙っておれ!どうかお願い出来ませぬか龍輝殿・・・」
僕は後ろに控える二人を見ると、二人は何も言わず黙って僅かに頷く・・・
その様子を確認し
「わかりました、僕がどの位お役にたてるか分かりませんが出来うる限りの助力を約束します」
「おぉ、ありがたいではさっそく。猫人の民、彼奴等の居場所を話してもえるかのう」
「分かりました、お話しします。ですが私も連れて入ってはくれませんか?」
「何故じゃ?彼奴等の元へ駆け込みご注進でもするつもりか?」
「いえ、向う先には私達一族も捕えられています、その者達を助けたいのです」
「何もお主が共に行かずとも、モノのついでじゃお主の一族も解放してくる。鬼乃部の里に残り迷惑をかけた償いをしながら待ってはどうじゃ、それともお主が行かなければならない訳でもあるのか?」
「人間達を里に引き入れる発端になった人間と婚姻を結んだ猫人族の娘、その者は私の姉なのです。
私達家族は里の長を務めておりましたが、その長の家族の者が一族を地獄に陥れる発端を作ったのです」
「しかし、それは騙されたまでの事お主に罪はなかろう」
「では、剛弥様・武早様であったらいかがいたしますか?」
「「それは・・・」」
「私は里の者に償わなければならないのです、どんな事をしても。」
その言葉に、周りに居る者からの言葉は続いて出てくる事は無かった。
「わかった、一緒に行こう!っとその前に、名前、聞いても良いかな?」
と僕は停滞する空気を一新する様に明るく声を発すると、それまで悲壮な顔付で話していた猫人はパッと顔を上げ
「霞澄、鬼乃部の里で導師として名乗った名はケスラーにそう名乗れと言われて・・・本当の名は霞澄、山霧の里の霞澄です。」
と嬉しそうに名乗った。




