猫の災厄・・・覚醒
今回の章は前回予告した様に、かなり痛いです。
残酷な物がお嫌いな方は、飛ばしてお読みいただければと思います。
「私達だって十年ほど前までは央山道の山間にある猫人族の里(奴隷となった今ではその名を呼ぶ事も憚るが)で豊な自然と緩やかな時の流れの中幸せに・・・今思えばあの生活が正に「幸せ」だったと分かる・・・暮らしていた。
我々猫人族は龍族の様な圧倒的な力や鬼族の様な頑強な体躯・膂力がある訳ではないが、それに代わる敏捷性と隠密行動性(夜間行動)で少なからず里を守る事が出来た、あの時までは・・・。
十年ほど前、山で遭難している人間を里の娘が助けた。当時、千年前の大戦の記憶も薄れ人間に対する警戒心もそれ程強く無かった里では、その人間を保護し看病した。
人間は数日で回復したが、お世話になった里に恩返しをと里で田畑の手伝いや家々の修繕などをし、手が空いた時には子供達と遊び里の者と交流して行った。
その内、人間を助けた娘と恋仲になり遂には、婚姻の儀が行われる事になった。
里に新たな住人が増え、里もより発展するかの様な期待が里中に広がり、里の者全てがその事を喜んだ・・・婚儀の夜までは。
婚儀の日、新郎の人間の身内と言う者達が里を訪れ、その者達と共に婚儀が盛大に行われた。
婚儀には山でとれた山の幸が並び、里のマタタビ酒と共に新郎の身内が祝いにと持って来た酒が振る舞われ里中が祝いに湧いた、私も新婦の綺麗な衣装と幸せそうな笑顔を眩しく眺めていた・・・。
祝宴が終わり、大人達は酒に酔い寝静まった夜、里に響き渡る叫び声がその日の祝宴の主役達の家から上がった。
その絶叫に目を覚ました時には全てが終わっていた。
成人に達した男と年老いた者は全て殺され、まだ幼年の男児と女は全て縛り上げられていた。
里の祝宴に湧いた広場に集められた私達が見たのは、血まみれの武器を手に持った新郎の身内と称していた男達と、新婦の首を掲げる新郎の姿だった。
新郎は男達を従え、この世のモノとは思えない笑顔を浮かべていた。里は男達の手で焼かれた。
その光景は今でも忘れる事は出来ない・・・。
が、本当の絶望・地獄はそれからだった。
私達は男達に連れられ里から離れた、連れられた先は男達の野営地の様な場所、そこで全ての者に手枷足枷が着けられ年頃の娘は身形の良い太った男に引き渡された別の場所へと去って行った。
残った者は男児は、野営地の使役として働かされ女は給仕と夜の使役を強制された。
ある時、夜の使役をさせられた猫人族が人間の子を孕んだ。私達にとっては新しい仲間の誕生だったが人間達にとっては違っていたらしい。忌むべき子として、母親から乳を与える事も許されず生後間もなく命を落ちした。
間もなく、猫人族の男の大半と女の半数は売られ、残った者は男は新たな奴隷を生み出す種馬として、二人以上の子を産んだ女は強制的に避妊手術を受けさせられ男達の慰み者となった。
最初の頃は逃げ出そうとする者もいたが、手枷足枷に何かの魔法が掛けられているのか本来の敏捷性が発揮できず、子供を質にに取られてしまい諦めるしかなかった。
私達は、奴隷を生み出すだけの道具、あるいは奴隷という「物」として生きる事を強制された。
本来喜ぶべき子供の誕生も、自分と同じような苦しみしかない世界に生み出さなくてはいけない苦痛・絶望。
男は、繁殖力が落ちたと判断されると男達と共に野営地の外へと仕事に連れていかれたが帰ってくる者はほとんどいなかった。
唯一帰った者の話しによると、連れていかれた先で狩りを行う際の撒き餌の代わりや戦での矢や魔法の楯として命え落として行ったと聞いた。その話しをしてくれた男も次に出かけた時には帰って来る事は無かった・・・。
そんな、生き地獄を過ごす中私も間も無く子供を産める年頃になり奴隷製造の道具となる時期に差し掛かっていた、そんな時今回の話しを男達から持ちかけられた。
鬼の里を襲撃するのに強力したら、猫人族の者を開放すると。
私だけでなく、一族の身柄を解放すると約束してくれた。
また、騙されるかもしれない、だが一族の解放に一縷の望みが持てるなら、例え鬼の一族に災難が降り掛かろうとも自ら否と言う事は出来なかった、いや、そんな事は考える事も出来なかった、この生き地獄から抜け出せるなら・・・」
猫人族の女はそこまで言うと押し黙った・・・。
鬼乃部の里の者達も余りの無い様に声が出せないようだった。僕も、世界・次元が違うとはいえ同じ人間がそんな事をするなど思いもよらない話しの無い様に絶句し、胸の中にドス黒い何か嫌な物が渦巻いている気がした。
「馬鹿が、本気で解放されるなんて思っていたのかぁ?」
沈黙を破る様に、突然声が上がった。
「おめでたい奴だ、鬼の奴隷が手に入ろうがお前等は全員死に絶えるまで奴隷だ、もっとも死に絶えない様にこれからも奴隷を製造してもらうつもりだがなぁ。
鬼が手に入ったら、鬼と猫の混血を作ればもっと良い値で売れると思ったんだがまぁしかたないか」
「おい、そこの黒髪の男!ちったぁ力が有るからっていい気になるなよ、我らが頭目があの場に居れば貴様なんぞ一撃でケシ炭だ、今この縄をほどいて俺を開放すれば半殺しにするだけで済ませといてやる。
ささっと縄を解き開放しろ」
と里を狙った男が厭らしい笑いを顔に貼り付けながら声をあげた。
この言葉に、猫人族の女は唖然となりそして亡者の呻きの様な声を漏らし嗚咽した。
人間とはこの様な醜い生き物だったのだろうか?
否!違う!こんな醜い生き物は今まで僕の周りには決していなかった!このモノは本当に人間なのか?
人間は欲望の生き物だ、少しでもより良い生活を求めてしまう。
病気や怪我などで命を落とす事も容易く、長くても100年と言う寿命を少しでも謳歌する為、自らの子孫を後世に残す為、自分の欲望に忠実に生きてしまう事もある。
だが、ここまで他の命・思い・存在を踏みにじる事など決してしない、許されない!
この様な事が容易くできるなど・・・人間とは思えない。
それとも、これが人間と言う生き物の本質なのだろうか?
自ら今まで生きていた環境、思想などから考えても有りえない、この世界の人間の考えに会い僕は自分に対する嫌悪感と憎悪が心の内に渦巻いた。
そんな心の葛藤が心の内に留まらず、気の膨張として体の外へと漏れだす。
そんな僕の様子に気付いた守麗・裂嘉は
「「龍輝、瘴気に飲まれないで!身の内に留めて昇華して」」と駆け寄り僕を両側から抱きしめながら僕の気の膨張を自らの気の力で抑え込む。
その異変に、鬼乃部の者は僕から離れ、武早は猫人族の襟首を加えて遠ざかった。
僕等の周りには縛られたままの人間だけが残った。
事態を把握出来ない男は皆が一斉に離れたのを不審に思いながら辺りを見回し、僕等の方に目を向けた。
その時には、守麗・裂嘉の気の壁から漏れ出した不の気=瘴気とかした僕の気が男を飲みこむ寸前だった。
僕等を中心に草木が徐々に枯れていく異様な光景、それが自分へと近づいてくる状況に何が起きているのか分からないものの自分に危機が迫っているのだけは分かった様で、縛られたままで体をくねらせながら逃げようとするが思う様に行かず、自分の履物が瘴気に触れて蒸発する様に絶叫をあげる。
その時、弥生が飛び出し男を掴み引きずりながら離れようとするも、大男の部類に入る男の体重に足を縺れさせ倒れ瘴気に覆われそうになった事に気付いた守麗・裂嘉
「「ダメぇ~!!」」
と言う絶叫に、僕の中で何かが目を覚まし龍眼の発現と共に瘴気とは違う、別の「力」が一気に膨らみ僕の身に溜まり漏れ出した瘴気を全て喰らい尽くし爆発的に広がりながら、瘴気で枯れた草木を再生させその場にいる全ての者を包み込んだ・・・。
そして、僕はそのまま気を失った・・・。




