鬼虎の災厄・露見
導師-弥生一行は、里から真っ直ぐ山に向かったが、途中何度か休憩を入れたっぷり時間をかけての行程となった。
弥生達里の娘達は、里の者の代表として獣達への謝罪の為に奉仕し許しを乞いまた以前の様に、里で必要な分だけの食料を得るために成すべき事を成すのだと言う毅然とした態度を示していたが、その姿は痛々しいほどの里への重責とこれから獣達の中で過ごさなければならないと言う心細さ・寂しさを覆い隠そうとしても隠しきれない焦燥感が漂っていた。
その為、何度か取る休憩に際しても談笑する事も無く何か思いつめた様な、それでいてお互いの気持ちを確認すている様な眼差しを交わし合うだけだった。
それに比べ、導師の従者として供をして来た二人の男達は、娘達の様子を見ながら何か嬉しのか、口の端に笑みを滲ませ、舐める様な目付きで娘達を眺めている。
鬼族は男性は大抵人間よりも屈強、剛硬な体躯を持ち、その剛碗は通常一般的な人間の数十人力にも匹敵する。
が、それに反し女性の鬼族は一般に体躯は細くしなやかで出る所は出ている、人間界で言う所謂モデル体型の者達が多く、その体系に見合った腕力(人間の男と同程度)しか持たない。
また頭に一ないし二本の瘤の様な角がある程度の差異しか人間とは異なる所は無く、その差異を気にしなければミスユニバース並みの美人揃いだ。
(千年前の大戦時、鬼族の村々もその美貌に目が眩んだ人間達に襲われた、その多くは男達によって撃退されたが、中には人間の奴隷・性玩具として連れ去られた鬼族の女性も少なからずいた)
その美貌に、自然と目が言ってしまうのも分からなくもないが、従者達の舌舐めずりをする様な視線には嫌悪感すら覚えてしまった。
その従者の反応に、ますます僕の抱える「嫌な予感」は膨らんでしまう・・・。
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一方、守麗の追う男達の集団は、里から離れると大きく迂回する様なコースを取り山へと向った。
この集団は、集団の統制が行き届き休憩する事無く山へと進んで行き、山の麓にある野営地にらしき場所に到着する。
野営地にはテントらしき宿泊具と、竈代わりか焚火の上に鍋などが吊り下げられていた、その周りを猫人族と思われる猫耳・尻尾を持つ女性子供が働いている。
その首と手首・足首に鉄で作られているらしい輪っかが着けられていた。
(守麗にとって初めて見る見る物だったがそれは奴隷として売られた者達に付けられる身分証の様なものだった)
猫人族達は本来可愛らしい容貌をしているのだが、総じて暗く沈んだ生気の無い瞳で動きも緩慢だった。
着る物も粗末な肌着の様な物しか着ておらず、髪の毛も絡まり薄汚れていた。
野営地に到着した男達は、猫人族の用意した食事をとり各自割り当てられたテントに解散して行った、がその夜各テントからは女性の嬌声と嗚咽が漏れ、野営地一帯を不の気配に覆た。
翌朝、再び男達は身なりを整え、各々武器などを確認し野営地を撤収し山の麓の森へと分け入って行ったが、猫人族は、数人の男達に連れられ別の方向へ向って行った。
守麗は自分自身は男達の集団をそのまま追跡したが、その前に自らの人差し指を噛んで血を滲ませ、その人差し指で紙に血文字で鴉と書き、折り紙の鶴を作って息と共に呪を吹きかけて自らの血と妖力を混ぜ合わせて式神を産みだし猫人族の後を追わせた。
後に、この機転が思わぬ幸運を龍輝達一行にもたらすことになった。
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裂嘉の追う一団は、里から一路、山に向かいその麓の岩肌に草や苔に隠れる様にしてある洞窟に消えて行った。
獣の隠れ家になりそうな洞窟で、洞窟の周りにはその場を住処にしていたと思われる獣の骨が転がっていた。
その骨には焼かれた様な煤で汚れた物・炭化した物や鋭利な刃物で立ち切った様なきれいな断面のある物があり、明らかに人為的に殺害されたであろう痕跡を留めていた。
一晩、洞窟の入り口を監視していたが特に変わった事は起きず翌日洞窟から荷馬車や荷車を引いた男達が出て来た。
その中には、前日洞窟に入っていた者以外に足首まであるフード付きローブで顔を隠した何人かの者も共に現れ盛んに周囲を警戒していた。
荷馬車には、一台格子のはめられた檻が備え付けてある物まであり不穏な雰囲気が増していくようだった。
その一団も、そこから森を迂回し龍輝の追跡する鬼乃部の娘達の方へと向っている様だった。
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鬼乃部の娘達一行は、導師の案内の元山の麓へと続く森の入り口でその日は一泊し、翌日山へ向う事となった。
一行は、携帯した干し魚や乾燥果物などで食事を済ませると早々に就寝した。
深夜、娘達が寝入っているのを確認した様に導師が起きだし、少し離れた巨木の近くやって来るとその裏側から導師と同じ様にフードを被った男が現れた。
導師はその男の前でひざまづいた。
フードの男が導師の被り物を取ると、そこには顔のあちこちに青アザを作り猫耳は裂けて血が固まった激しい暴行を受けたであろう猫人族の女性の顔が現れた。
男はその顔を一瞥すると、再び被り物を被せ
「ここまでは上手く運んでいる様だな。今後も与えられた策に沿って間違いなく事を果たせ、さすればその顔の傷がこれ以上酷くなる事もあるまい、だが、事をしくじる事があれば・・・分かっておるな」
と、氷のように冷たい声色で告げ、何かの呪文を唱えたかと思うと一瞬でその場から消えてしまい、その跡には導師と何かしらの力(妖しやものの化達の使う、魔力・妖力の様な)の残滓が残されただけだった。
その場に残された導師からは、嗚咽と共に怨嗟の声が僅かに聞こえて来た・・・。
翌日、携帯食で朝食を済ませ導師の案内で山へ登る様に進んでいく一行の前に白虎ではなく三十人以上の武装を整えた男達が現れた。
弥生を始め里の娘達は、まるで待ち構えていた様に目の前に現れた集団に驚き、導師に詰め寄ろうとするも既に導師は男達の元へ歩み寄る所だった。
僕は山麓に差し掛かった辺りで合流した守麗・裂嘉に事の経過を聞き、最悪の予想が的中してしまった事を確信していた。
何の事は無い、今回の事は男達による自作自演の虐殺・誘拐劇だった訳だ。
きっと他の里でも同じ様な手口で他種族の者を攫っていたのだろう、その被害者の一部族が猫人族の者でこの男達に自由を奪われているのかもしれない。
もっとも、猫人族は俊敏さならば人間を凌駕するが力はさほど変わらず魔力・妖力と言った物も強力と言うほどではない為、多人数による力技でも襲えただろうが、鬼族はそうも行かず一計を案じたのだろう。
弥生は導師や男達に毅然とした態度で、事の真意を訪ねていたが男達はニヤニヤと醜い笑いを顔に張り付けているだけで何も語らない。
そうしている間に、弥生達は男達に周りを囲まれ逃げ場を失ってしまった。
事態がここに至っては仕方ない!と弥生達の助けに入るべく穏業術を解き木の陰から飛び出す一瞬前に、男達の背後、山の方から大地を揺るがす咆哮が上がり武早ともう一人の飛雲虎が姿を現した。




