怪しき災い、里の言
「事の発端は三か月ほど前、里の裏手にそびえる山「槍が岳」に住む白虎が突然、里の者を襲った事から始まります。
元々、槍が岳は里の者の狩猟の場として、里の民に必要な分だけの獣を捕っていました。
槍が岳に住まう獣の主・白虎もその事は理解していた様で、必要以上の殺生をすればした者にそれ相応の報いを与えるだけで、私達里の者と白虎とは一定の距離とバランスを取って生活しておりました。
それが、急に三か月ほど前から山に入った里の者は理由の如何に関わりなく襲われ、山には入れなくなったのです。
もちろん、食料調達の場は槍が岳だけではなく、禊ぎの湖でも漁が出来ましたし周りの森でも狩猟は出来るので問題は無かったのですが、一か月ほど前になると白虎が里の近くまで降りて来て里から人が出事さえ許さないかの様に唸り声をあげる様になり、里の若者が武器を持って追い払おうとしても逆に打ち払われて里へ追い返されてしまったのです。
こんな事はこの里が始まって以来初めての事で困ってしまいまして」
と、剛弥殿の話しを続けようとするのを守麗が
「お待ち下さい!何故その様な事をするのか白虎に直に聞いてみれば良いではないですか?」
と問う、僕も幼いころから、魔獣・幼獣と呼ばれる、黒い巨大な狼「地雷狼」や雲を掴み風を駆ける白虎「飛雲虎」、同じく雲に乗り天を駆ける獅子「天駆獅」などと会話し遊んでいた、乗馬術の鍛錬の為に狼や獅子・虎に乗っていたけれど、一番良く付き合ってくれたのは「飛雲虎」でとても知能も高く優しく気高い獣だった、だから知恵持つ獣とは話せるのが当然だと思っていたので槍が岳に住む白虎は話せない虎族なのかなぁ?と思っていると
「獣と話しが出来たのは、千年も前の大戦の頃まで話し。今ではその様な「業」は一部の者にしか伝わっておりません」
との言葉…どうやら僕が産まれる発端となった人間との戦が終わり守麗達が「天津地乃御代」を離れ人間界に渡って数百年を過ごしたと思っていたものが、既に千年の年月を重ねていたらしい。(でも、妖孤の里の葛葉さんは特にそんな話をしていなかった様だが???)
思っていたよりも時が経っていた事に唖然としている守麗・烈嘉を余所に剛弥殿は話しを続ける・・・
「困り果てていた所へ先程のフードの人物、猫人族の導師・智影殿がこの里に訪れてくれたのです。
天の助けとはこの事、猫人族には虎族を自らの上位種として敬いその言葉を解する「業」が伝わっておるらしく智影殿とその郎党で槍が岳に赴き、白虎様に話しを聞いてくれたのです。
智影殿によりますと、
最近槍が岳で余りにも多くの獣達が殺されて、その場に打ち捨てられいる様で白虎様は。
『今まで、古の約により必要な分の獣の殺害は認めていたが今回の所業は、悪戯にまるで楽しみの為に獣達を殺している様で、槍が岳を治める槍が岳の盟主として捨て置く訳にはいかぬ。』
『それ相応の報いを受けてもらう!』
との事、なんとかとりなしていただけないかとお願いしているのですが、白虎様からは『里の者全てをこの地より叩き出す』と言われてしまいまして・・・。
智影殿の交渉の結果、『里の長と主だった者の身内から若い女性を数人を槍が岳に差し出し、今まで無意味に殺された獣の御霊を弔い、その子供達がいるのでその子達が独り立ちするまでの世話をせよ!』と言う事になりました。
その勤めの為、弥生は山へ行かなければならないのです。
例え里の「律」をたがえても里を守るため弥生には白虎様の勤めを果たす為、龍輝殿に命を奉げる訳には行かないのです。どうか、ご理解下さい。」
との事だった。
業弥殿の言い分は理解出来る、もともとただ単に助けただけで、その後の人生を命諸共捧げようとする弥生に対してどうすれば良いか悩んでいた所だから渡りに船なのだ。
が、弥生を襲ったあの男達の連れの導師と呼ばれている者の言がどうにも胡散臭く納得できないだけなのだが、この里の事に確たる証拠・確信も無くこれ以上首を突っ込んでも良い物なのか・・・新たな悩みが出来てしまった。
僕が何と答えていいのやらと一人思案していると、裂嘉が
「で、いつ弥生さんは白虎の元へ赴くのですか?」
と、訪ねると明日この里を起つと言う。
その為、明日に備えて各家々でしばしの別れの家族水入らずの時を過ごしているのかと納得した。
僕はその事に気付くと、慌てて、
「ではこれにて部屋に戻らせていただきます。剛弥殿も弥生ちゃんも色々とあるでしょう。それでは、」
と割り振られた部屋へ引き込む事にした。
部屋に入り、守麗に
「獣の言葉を解するのはそんなに難しい事なのだろうか?」
と問うも、以前、守麗が知っている限り山の主になる様な獣は大抵が魔獣・幼獣など知恵ある獣達で言葉を解していたものなのだが・・・千年も時が経つと変わってしまうのか?と首を捻るばかりだった。
酔いを醒ます為に少し体を動かそうかと部屋にあった六角棒を手に外に出ると、空には星が輝き何とも穏やかな夜で、六角棒で杖術の動きをしていると、突然里の外から
「千早ゃ~」と名を呼ぶ声が聞こえて来た。
その声に、剛弥殿など各家の家長らしき男の鬼人達が家々から顔を出し、ある者は落胆し、ある者は忌々しげに里の外を眺め直ぐに家々の戸を堅く閉ざした。
守麗・裂嘉も名を呼ぶ声に外に出て来て、里の者がその声に見向きもせず戸を閉ざすのを不思議そうに見るしかなかった。
僕達は、声のする里の外へと門まで出ると、そこには名を呼びながら里から去っていこうとする白虎の姿が見えた。
その姿を追って、里から出て山の麓で追いつき僕らは白虎に声をかけた。
白虎は驚いて、威嚇の唸り声をあげ今にも飛びかかる構えをとったが、意に介さず手に持った六角棒を地面に突き立て手ぶらで近づく。
余りにも自然体で近づく僕を見て警戒しつつも、飛び掛れない白虎。
そのままスッと近づき、そっと手を出して白虎が余計な動きを取る前に額へ手を置いた。
突然の事に、何も出来ないでいる白虎は額に置かれた手から伝わる力の波動に、観念したのか静かに地面の座り込み。
「大いなる力を持つ方よ、私は貴方様に一切の危害を加えようとする者ではございません。我が名は飛雲虎の武早どうか御名をお聞かせ下さい。」
と丁寧な礼儀を持った言葉で話しかけてくる。
「我は皇 龍輝、後ろに控えるは守麗と裂嘉。我も御主に危害を加えるつもりは無い、先ほど誰ぞの名を呼んでいたのを耳にし如何したかと思いそなたを追いかけたが、そのせいで驚かせてしまったようですまぬ事をした。良ければ仔細を聞きたいのだが。」
と言うと、
「龍輝様と仰いますか。驚いたとはいえご無礼いたしました、最近は我らの言葉を解する者もいなくなり寂しく思っていたのですが、まことにありがたい事、是非私の話しをお聞きください」
と、話し始めた。




