鬼族の娘、その壱
やっとプロローグ壱の場面に繋がりました。
普段なら聞こえない様な小さなかすれる様な声だったが風が運んで来たのか、それとも僕の力が強くなった影響なのか分からないが、確かに僕の耳の奥に届いた。
いきなり立った僕に驚いていた様に見上げていた二人に構わず悲鳴の主の元へと駆け出した。
地上を駆けて行くと、森の木々が邪魔になり木の先端まで飛び上がると、まるで猿の様に木から木へと飛び移りながら急いだ。
少し後方を、少し遅れて向って来る二人の姿が見えたが、それよりも悲鳴の主に事が気がかりだった。
僕たちが滞在していた森から離れた処に湖があり、その対岸の方から生き物の動く気配と微かな声が聞こえる。
僕は湖を素早く迂回し、その蠢く気配の方へ駆けて行った。
そこには、五人の人間らしき男達と、その男達に囲まれるように一人の少女が蹲っていた。
少女は見た所、濡れていて服を着ておらず。一人の男の足下にきれいに畳んで置かれた服があった。
どうやら、人気がないと思い不注意にも服を脱いで水浴びをしていた所を男達に見つかってしまったようだ。
男達は厭らしい笑みを浮かべ、少女に一番近くにいる男は手に幅の広い直剣を持ちにじり寄っている最中だった。
僕が様子を確認している間に遅れて二人も到着し、男達のもとに駆け寄った。
男達は、僕らの姿に一瞬緊張するものの優男の僕と女性二人だというのを確認すると、ニヤニヤ厭らしい笑みを浮かべながら
「小僧、何を見ている。お前もご相伴にあずかりたいのか?エェ」
「それとも、隣にいる女共を俺達に恵んでくれるのか?」
「お~それは良いなぁ、俺達五人に一匹を廻すだけじゃ物足りないからなぁ」
などと口々に言い始める。
男達に詰問しようかと口を開く一瞬前に守麗が
「お前たち何をやっている!まさか剣を振るかざして不埒な事を考えているのではあるまいなぁ!」
と守麗なら言うだろうと予想した通りの言葉を男達に叩きつける、続けて裂嘉が
「私達の事まで厭らしい目で見て汚らしい!その少女は私達がお身内の元へお連れします。貴方達はさっさとこの場から失せなさい!」
と本当に汚い物を見る様な目で言い放った。
瞬間はポカーンとしていた男達は言われた言葉の意味が理解できたのか、どいつも顔を真っ赤にして唾を飛ばしながら騒ぎ出し、次々と剣や手斧などを振りかざして威嚇してくる姿に、僕は如何にも小悪党らしい振る舞いに寧ろ感心してしまう。
男達をたき付けるだけたきつけて、後は「よろしく!」とばかりに僕を前に押し出す二人・・・えぇ、もちろん後片付けはやりますよ、と溜息を吐く。
男達と僕らのやり取りを聞いていた少女は怯えながらも此方を見た。
大きな瞳に涙を溜めながら、流れ落ちるのを必死にこらえる様に唇を噛んでいる少女の姿に一気に怒りが沸騰する。
僕の溜息を、舐められたと思ったのか一番近くにいた痩せてネズミ顔の男が叫びながら剣を上段に構えて飛び掛って来た。
僕は横に交わし、足を払い転ばせ起き上がろうとする所を腹部に蹴りを入れ昏倒させる。
それを見た男達は、中でも一番大きい体の手斧使いの指示で、左右から一度に斬りかかってる。
今度は避けず、素早く前に出て振り下ろしてくる剣の柄を腕ごと掴み、振り下ろす勢いを殺さずに他の男達の邪魔になる様に投げ、鳩尾に突きを一発。
突きを入れている後ろから、斬りかかって来る手斧を握っている指を振り向きざまに殴って指をへし折り、体を反回転させて顎に蹴りを叩きこむ。
僕の動きに、焦りを感じたのか一瞬動きが止まるも今度は両手にナイフ(刃渡り30㎝ほど)を持った男が、素早い動きでナイフを煌めかせて襲って来る。
喉元や目など急所を突いてくる動きに、熟練の技を感じるものの今の僕にはスローモーションの様なもの。
喉と心臓を正確に狙った突きを人差し指・中指・親指の三本でそれぞれ抓み止めて、手前に引っ張りながら顎へ膝をかち挙げ、歯もろとも顎を粉砕した。
四人を倒し、最後の一人と目を向けると手斧を持った大男が、裸の少女を楯にする所で駆け寄ろうとする僕を見て少女の喉に手斧を突き付け
「止まれ!動くな!」
と叫んだ。
咄嗟に止まるが、少女が人質になっていては動くに動けずにいると、大男はニタニタと笑いながら
「良くもまぁ、派手にやってくれたもんだ、続きをしたかったらすれば良いが、こいつの首と胴が離れ離れにするのが嫌ならそのまま動くなよ」
と言って、ゆっくりと近づいてくる。
それまで、静観を決め込んでいた守麗・裂嘉も顔色を変え近づこうとするのを僕は手信号で押し留めた。
男に首を掴まれて、今まで我慢していた涙をその瞳から溢れさせ悲痛な顔つきで僕を見た少女は、一瞬の間に覚悟を決めた様な顔つきをした。
「死」を選ぼうとする彼女に僕は小さく笑い掛け、心の中で「大丈夫」と彼女に届けと想いを飛ばす。
その想いが届いたのか、驚いた様な顔をするも一つ小さく頷いてくれた。
その様子に、安堵しつつも怒りの波動が腹の奥から湧いてくる。
怒りに合わせ両目の瞳が縦に裂けて龍眼になり暗闇の中で月の光を反射して光りを放った。
龍眼を見た大男は
「そんな馬鹿な!龍の目を持つ人間なんて!!」
と、とり乱し悲鳴にも似た大きな声を上げながら、手斧を僕の頭と振り下ろす。
僕は左腕を上にあげ手斧を受け止めると、手斧の方が硬い岩に当たったかのような音を立てて砕けた。
その様子に、呆気にとられる大男の喉に手刀を放ち血が噴き出す前に少女を抱えてその場から離れた。
大男は、奪われた少女を掴もうと空中に手を伸ばそうとするものの喉から噴き出す血の勢いに押されて力無く後ろへ倒れた。
大男が倒れるのを感じ、緊張の糸が緩んだのか少女は僕の腕の中で胸元を掴んだまま号泣した。
それに気付いた守麗・裂嘉は慌てて駆け寄り、裂嘉の羽織っている一枚を彼女に被せて僕から放そうとするのだが、まるで万力の様に握られた指は僕の胸元から放れず、そのまま泣き疲れて寝てしまった。
仕方なく、守麗・裂嘉に気絶している男達を近くの木に絡みついている蔦で縛り上げてもらい少女が目を覚ますのを待つしかない。
守麗のよると、この少女は鬼族の娘の様だが、鬼族は家族の繋がりが強くこんな夜更けに森の中で一人でいる事は珍しいそうだ。
何か事情があるようだが、明日の朝、少女が起きたら聞くしか手は無い、この夜は湖の近くで一夜を過ごす事にした。




