第四章 第四幕 ~冒険者ギルド
第四幕 ~冒険者ギルド~
「どうじゃな、彼方。今宵の〈饗宴〉がいかなるものか得心しえたのかな、なのじゃ」
「えっと、水蓮さんのお陰で何となくわかったつもりになれました」
「めでたいのじゃ。では……」
トワはぐるりと顔を巡らせて、全員に見渡します。
「〈ブルーブラッド家〉の血の子と、さらにその血に連なる者よ! いざ、我らいずれより来たれりを解き明かし、時の座興に戯れるがよいのじゃ! 求めよ! さらば、与えられん!」
「おう!」
「けっ」
「ああ……」
「はいなのです!」
「御心のままに……」
「え? ええっ?」
トワの宣言に、それぞれがそれぞれのままに応えていました。
彼方のみ右を見て左を見て慌てていましたが。
「あの、あの、すみません。わかったつもりになっていました……」
涙声めいて、身を翻して彼方は水蓮に助けを求めます。
「今の……何でしょうか?」
「〝我ら何者なるか〟を問うただけですよ」
「あ、『RPG』って〝ごっこ〟なので誰を演じるかってことですか?」
「ええ、そのままです」
「それって、どうやって決めたら……」
「『ルールブック』の最初を開いてごらん?」
「これですか?」
彼方は、促されるままに手にしていた『異世界RPGルールブック』を改めて見返しました。
そしてその最初を開くと、他のページとは別格に、ひとつの空欄だらけの表が浮かび上がりました。
「これって、何でしょうか?」
「キャラクターの全情報を書き込む紙――キャラクターシートだよ。自分について書き込んだ情報のことをステータス表と呼びます。『RPG』は〝ルールのあるごっこ〟なので、まずはルールに則って〝自分〟がどのような存在なのかを決める必要があります。まずは『名称』『クラス』『ランク』かな」
「クラスって何でしょうか?」
「彼方さんがコスプレと評した『魔法使い』とか『戦士』とかの分類のことです。これで何ができるかが決まります。彼方さんは何がしたいかな?」
訊かれて、彼方は今までに見たあまり多くはないゲーム経験のキャラクターを思い浮かべます。
そうしてみると、何となくの方向性はいつの間にか知識として擦り込まれていたことに気付きます。
「えっと……ゲームのキャラクターを演じるなんて機会は今までになかったので、せっかくなので他ではできないことがしたいかも。魔法が使える人とか。でも、人を攻撃する魔法ではなくて癒しの魔法が使えたらって思います。あ、けど自分が絶対にしない戦う人もしたいかも。演じるのでしたら自分と逆でもよいので、誰かを守るべく戦う役もよいかなって」
「回復系+防禦系だったら『パラディン』を選ぶとよいだろうな。あとは一番重要な〝ランク〟だけど……トワ、どうする?」
水蓮は首を廻してトワに伺いを立てます。
「無論、全員〝Sランク〟開始なのじゃ」
トワはそれが自然なこととして頷きますが、彼方は首を捻ります。
「〝えすらんく〟って何でしょうか?」
なのでこっそり小声で水蓮に訊ねます。
水蓮は、訊かれるがままに流れるように説明します。
「ランクは『RPG』での格を表す指標だよ。このゲームの場合、下から〝Zランク〟〝Cランク〟〝Bランク〟〝Aランク〟〝Sランク〟となっている」
「つまり、頂点…………無理無理、無理です!」
「そうかな? Sランクスタートは、よくあるけど?」
「なぜじゃな? 彼方に高みを堪能してもらいたいのじゃがな」
「だって……」
彼方は、トワの手を引っ張ります。
「皆さんが〝Sランク〟なのはもっともだと思いますけど、私がそれと同じなんて恐れ多いし」
「これは恩寵なのじゃ。甘んじて受ければそれで良いのじゃな。わらわは是非にも、彼方に悦楽の境地を贈りたいのじゃ」
「無理!」
かたくなに、首を振ります。
「それって、〝えこひいき〟みたいな気がして厭です!」
「ふ……む……?」
心底不思議がって、トワは全身を横に傾けます。
そして、瞬間移動めいて、するりと彼方の後ろに廻りました。
そのまま、がしっとその両肩を掴み、自分といっしょにゆるやかに全身をぐるりとひと巡りさせて、ひとりずつそこに立っていた者たちを彼方の目に映してゆくのです。
「見よ! あの者らを見るのじゃ。あれらは傲岸不遜なまでに我と我が身を豪も疑わず、不羈として独行し続ける者たちなのじゃ! あれらが、たかがえこひいきごときに動ずることなど時の果ての果てまでありえぬことなのじゃ」
「でも……」
彼方はどうあっても、それについては聞き入れません。
「『RPG』の目的は〝全員で楽しむこと〟と伺いました。えこひいきされたら私がつまらないけど、トワはそれで楽しいの!?」
彼方は、いつしかトワが気圧されるほど感情を露わにしていました。
ふつん……と、今まであった遠慮のし過ぎが自分でも不思議なほどに溶けて消え去っていました。
その様子に、たじろぐことはないにせよ、トワも心打たれるものがありました。
「……ふむ……それは……よろしくはないのじゃな……」
「でしょう? だったらやめて!」
「では、どうするのじゃ?」
「あまり下過ぎても皆さんの足を引っ張るので、真ん中あたり?」
「では〝Bランク〟とするのじゃ」
「はい……って、この〝ステータス表〟ってどう書くの?」
「設定とその変更は、すべてギルドハウスで行うのじゃ」
「ギ……ル……ド?」
「あれなのじゃ」
「え……?」
トワの目線に合わせて後ろを見ると、そこにはいつの間にか神殿めいた不思議な館が建っていたのです。
その脇には何ものも心やすらけくあるような風情として、ハンスが礼を尽くして佇んでいたのです。




