第四章 第三幕 ~異世界RPGルールブック~ その1
第三幕 ~異世界RPGルールブック~
「さて、顔合わせも済ませたところで、開幕とゆくのじゃ! ふむ……。今宵は『万聖節‐ハロウィン』じゃったのう」
トワが今やっと気付いたみたいに彼方に振るので、彼方はあっけにとられた仕草をします。
「今日はハロウィン一色だと思います。ふつうは繁華街とかにコスプレして繰り出したりしますけど、トワさんほどの家だと何か凝った仕掛けがあるのでしょう? 楽しみにさせていただきます」
「うむなのじゃ。では〈饗宴〉の幕開けじゃが、物事の開始には歌がつきものじゃな? 彼方にもひとくさり願いたいものじゃな」
「え? 歌? 私が? 無理無理、無理です」
思いもしない要求に、慌てて首を振ります。
「ハロウィンの歌なんて知らないし。トワさん、お願いします」
「ふむ。客人に請われて返さずば無作法の極みなのじゃ。では……」
トワは一歩進み、両手をひろげました。
そして、静かに、長く歌い上げます。
「♪万~の~ 聖~の~
節の~会~に~~~
甘菓子 ねだり~て~ 進み~ゆ~く~~~
往古~の~ 御霊~よ~
今こ~こ~に~~~
明日~の~ 我が身~を~
照らし~ま~せ~~~」
三拍子の、聞いたことの無い歌でした。
歌い終わったトワは、周りを見渡します。
「扉は開かぬのじゃな? よそゆき過ぎたのじゃ」
「左様に存じます」
斜め後ろに控えたクレアがひっそりと頷きます。
「では、アンコールなのじゃ」
「ご自分でアンコールとは申しませんが」
「よいのじゃ」
トワは、まるで指揮者のように右手をゆるやかに掲げ、その下に左手を添えます。
「♪世界~の~ 果~て~で~ 大い~な~る~~~
鐘~の~ 音~が~ 響い~て~る~~~
あ~し~た~ 世界~は~ 終わる~と~さ~~~
世界~の~ 果~て~を~ 目指し~つ~つ~~~
歩い~て~ ゆ~こ~う~ あした~ま~で~~~
辿~り~ 着~い~た~ その時~に~~~
あした~は~ ど~こ~に~ ゆくの~だ~ろう~~~」
今度も三拍子でした。
そしてその歌が終わった時、「ゴォオオオオオオン」と、彼方はたしかに世界を揺り動かす天の上でおごそかに鳴り響く鐘楼台の鐘の音を聞いたのです。
それと同時に、いつの間にか折り重なって頭上に集まっていた白い雲が突如金色に輝き、その切れ端が光の梯子に乗ってふわふわと、降りてくるのでした。
彼方は、ただ啞然としてその光景を見上げていました。
日蝕の日などに、却ってあらゆるものが明度を落としたくすんだ金色に包まれることはありますが、今は全世界が黄金の輝きに塗りこめられているのです。その下を、白い綿毛のように、ふらふらと降りてくるものが次第にはっきりと形を表していました。
それは、誰もがひと目見ただけでそれと知れるありふれた、端の丸まった長方形をしていました。
それがいくつもばらばらに、下にいる者たちの頭上に浮かんでいたのです。
「本……?」
光を反射させた本を、彼方がそれと認めた時、突然日の光が数倍にも跳ね上がりました。
金色は白色となり、まばゆいまでに煌々と炸裂していました。
「あ……」
目を閉じ、開けると、雲のかけらめいた本たちは燃え尽きたかのように蛍火の乱舞を残して消えていました。
ですがひとつだけ、一冊だけがぽすんと手の中に収まったのです。
彼方は目を円くして、自分の両手に乗った本を見詰めていました。
その本の表題には『異世界RPGルールブック』と書いてありました。




