第五話:黒き夜明け
深夜の東州新聞社。
有馬 遼の指先は、キーボードの上で一瞬だけ止まった。画面には、数日間に及ぶ執筆の末に完成した記事が、冷たい文字の列となって浮かび上がっている。
山下速夫の不正。五人衆の失脚。
しかし、遼が書き上げたのは、単なる「悪い議員の退治劇」ではない。
なぜ地方の政治家が、不正という泥をすすらなければならなかったのか。
綺麗事の裏で地方を切り捨て、議員たちに「怪物」になることを強いる、議会そのものの底知れない構造の闇。
そして、そのシステムに振り回され、白から黒へと染まり、最後は身内の保身に走りながら情けなく散っていった大人たちの『生き様』を、ありのままに世間へ突きつける告発記事だった。
「これで、いいんだな」
背後から低い声がした。
振り返ると、編集長の高根が、眼鏡の奥の目を細めて画面を見つめていた。その顔には、深い安堵と、遼への確かな敬意が滲んでいる。
「……はい」
遼がエンターキーを押すと、記事は印刷所へと送られていった。
翌朝。
東州新聞の朝刊一面には、山下の顔写真とともに、この議会の歪んだ利権構造を白日の下に晒す大反響の記事が躍った。
世間は騒然となり、ネットやテレビでは、失笑を買った五人衆の記者会見とともに「政治の仕組みそのものの腐敗」について激しい議論が巻き起こった。
しかし、トップを引きずり下ろしたはずの遼の胸には、達成感など微塵もなかった。
数日後、山下は静かに政治の世界を去り、議場にはポッカリと空席ができた。
だが、あの席が空けば、また次の「白い正義」を掲げた新参者が入り、やがて自らの意志で黒衣をまとうのだろう。この世界(黒い議場)の現実は、何も変わりはしない。
夕暮れ時、遼は県庁前の交差点に立っていた。
捜査を終えた県庁の白い建物が、冬の曇り空の下で、酷く不気味に、そして巨大に見えた。
世界がどれほど黒く染まっていようとも、その暗闇の中で、泥を被りながら誰かのために生き、術なく汚れていく人間の泥臭いドラマを、このペンで写し、記録し続ける。
それが、この現実を受け入れた、自分自身の「黒衣」の纏い方なのだと、遼は気づいていた。
「……さあ、次の現場だ」
遼は、胸のポケットにあるペンを強く握り締めると、歩き出した。
誰もが黒衣をまとうこの世界で、有馬遼は再び、一歩を踏み出し、ペンを握る。
(『黒衣 ― 白の記憶 ―』 完結)
『黒衣 ― 白の記憶 ―』を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
悪徳議長だと思っていた山下の、かつての「白き記憶」。
そして、そんな大人たちを「本当に情けない奴等だ」と吐き捨てながらも、黒い現実を受け入れてペンを握り直した記者・遼の覚悟を描き切りました。
世界がどれだけ黒く染まっていても、その中で泥を被りながら誰かのために生きる人間がいる。
山下議長がなぜ「黒衣」をまとうようになったのか、その理由がここにありました。
そして――この物語のすぐ後に、山下議長が絶望の眠りから異世界へと旅立つ本編『黒衣の議長、異世界へ ―根回し無双の成り上がり―』『黒衣のバーテンダー ― 異世界の夜を満たす―』へと繋がっていきます!
異世界で山下議長がどれほどイキイキと楽しそうに大暴れしているか、まだお読みでない方はぜひそちらもご覧ください!
面白いと思ってくださったら、ぜひブックマークや評価で応援していただけると、今後の新しい執筆の大きな励みになります!
ここまでのお付き合い、本当にありがとうございました。また次の物語でお会いしましょう!




