第四章 校庭の砂を集めて教頭先生を助けよう!
月曜日の四時間目、四年一組は体育の授業でした
いつも教えてくれるのは、教頭先生です。子どもたちは、教頭先生の体育が好きでした。陽気な音楽に合わせて変なたいそうをしたり、時間の半分を使ってドッジボールや鬼ごっこをさせてくれたりするからです。時には、体育館いっぱいにマットを引いて、ヨガのまねごとをしました。
この日は、校庭でキックベースをすることになっていました。子どもたちは教室でさっさと着替えると、走って校庭に出ていきました。
ところが、チャイムが鳴ってしばらく経っても、教頭先生がやってこないのです。心配になった学級委員のコウヘイとスズナが職員室に先生を探しに行ったけれど、そこにもいませんでした。別の先生によると、教頭先生は朝から学校に来ていないらしいのです。
がっかりした二人に、その先生は
「教頭先生の代わりに、他の先生が教えにいくから」
と言いました。
二人が校庭に戻ると、クラスメイトたちはタイヤ跳びでじゃんけん競争をしていましたが、教頭先生の不在を告げるとみなしょんぼりしてしまいました。
「先生、病気なのかなあ」
「金曜日は元気だったよ。お家に帰る時も旗振ってくれたもん」
「先生のかわりにだれが来るんだろう?」
それからわいわいと、どの先生が来るのかあてっこをしました。担任のミヨコ先生だと言う子がいれば、いつもジャージを着ているサワミ先生だと言う子もいます。
けれど、やってきたのは、だれも知らない女の先生でした。
その先生は、真っ黒なジャージを着て、長い黒髪を背中にたらしています。とても美人ですが、目をつり上げて怒っているようです。子どもたちは、自然と固まってその先生をまじまじ見つめました。
女の先生は、つかつかと子どもたちに近づくと、こわい声で言いました。
「教頭先生は、わたしが捕まえました」
子どもたちはびっくりして、ささやき交わしました。けれど先生がぎろりとにらみつけ、また言いました。
「今は、だれにも見つからないところに閉じ込めています。だから、あなたたちの授業にはもう来れません」
スズナが、勇気を出して手を挙げました。
「先生はだれですか? どうして、教頭先生を捕まえたんですか?」
先生が答えます。
「わたしは、魔法の先生です。ふだんは、あなたたちの前に出てくることはなく、魔法使いや魔女の子どもたちに授業を教えています。けれど、先週の金曜日、酔っぱらった教頭先生がわたしのたいせつな水晶玉を粉々に割ってしまいました。教頭先生を捕まえたのは、その罰です」
「水晶玉で、未来を見るんですか?」
本を読むのが好きなミユウが質問しました。
「そうです。未来だけでなく、何でも見ることができたのです」
「教頭先生は、どこに捕まっているんですか? もしかして、鏡の中?」
と、体育が大好きなユウトがたずねました。
「それは、秘密です。だれにも見つけられないでしょうね、ほっほっほ」
魔法の先生は、声をたてて笑いました。子どもたちはぞっとして、押しくらまんじゅうをする時のようにぴったりとくっつきあいました。
コウヘイが、おそるおそる手を挙げました。
「どうしたら、教頭先生を許してくれますか?」
魔法の先生は、じろりと子どもたちを見回しました。
「水晶玉が元通りになったら、考えてあげましょう」
子どもたちは、ほっとしました。希望が見えた気がしたのです。ああ、でも、どうやって壊れてしまった水晶玉を元に戻せばいいのでしょう?
魔法の先生は、子どもたちがまた質問攻めにする前に、宣言しました。
「では、わたしはもう魔法の学校へ帰ります。黒猫やコウモリに、跳び箱を教えなければなりませんからね」
そして、くるりと背を向け、校舎へ帰っていきました。
コウヘイとスズナは言いました。
「水晶玉を、見つけよう!」
そこで、子どもたちは校舎の周りに散って、めいめい水晶玉らしきものを探しました。何人かは、ガラスのゴミが捨ててあるゴミ置き場を。頭がよく回るタケシは、先生たちの駐車場を探しました。先生たちはよくそこに車を置いて、近くの居酒屋に飲みにいくからです。
けれど、水晶玉らしきものは、ちっとも見つかりませんでした。
大人しいミキが、校舎の前のたんぽぽの茂みや石段の下を探していると、不意にやさしい声がしました。
「わたしたち、水晶玉がどこにあるか知ってるよ」
はっとして見上げると、そこには男の子と女の子の銅像が立っていました。二人はまっすぐに校庭を見つめ、指を差しています。
「よっぱらった教頭先生は、粉々になった水晶玉をごまかすために、校庭にばらまいたんだ。わたしたち、それを見ていたよ。きらきら光る透きとおったかけらがたくさん散ばっているから、それを全部集めるんだよ」
ミキはおどろいたけど、
「ありがとう」
と言って、みんなを呼びに行きました。
さあ、そこからは、みんなおおいそがしです。三年一組の三十人で、校庭をいっしょうけんめいに探しました。茶色や灰色の砂を、さらさらっと手ですくって、その中にきらりと光る粒を少しずつより分けます。
「がんばれ、がんばれ」
応援するのは、学校で飼っているハトや、ノラネコだった。みんな、教頭先生が好きなのです。
どんどん時間がたって、このままだと給食の時間が来てしまう――そう不安になったコウヘイが、校舎の壁の大きな時計を見上げました。だけど、不思議なことに、時計の針は、ちっとも動いていません。時間が止まってしまったようでした。
「がんばれ、がんばれ」
きらきらのかけらは、水でぬらしたタオルの上にのせました。それを手先が器用なサエやユメノ、ユイカたちが、なんとか玉の形に組み立てようとします。かけらは米粒のように小さく、ちょっと風が吹いただけでもすぐに飛んでいきそうでした。
「あー、もうやだ!」
ヒロシがとうとう、砂の上にだらんと寝転がりました。かけらを探すことに疲れてしまったのです。つられて何人もの男子が、まねをします。
「ちょっと、まじめに探して!」
女子が怒りました。でも、彼女たちも本当は休みたいのです。
コウヘイは、にらみ合う男子と女子を見て、言いました。
「疲れたら、ヨガだよ。ヨガをしよう」
そこで、みんな休憩して、教頭先生が教えてくれたヨガをしました。ヘビのポーズ、ネコのポーズ……。
ヨガの後は、またひたすらみんなでかけらを探し続けました。いつのまにか、応援していたハトやノラネコたちが集まって、かけら探しに加わってくれていました。
どれくらい時間が経ったでしょう。子どもたちがすっかり汗だくになったころ、タオルの上に水晶玉のかけらの山ができていました。
「もう、全部集まったかなあ」
「きっと大丈夫だよ!」
「でも、どうやって元の水晶玉に戻すの?」
だれかの言葉に、みんなはっとしました。割れたかけらを集めることはできるけど、そこからさらに元の玉にするのは、めちゃくちゃに難しいことです。
「パズルが得意な人!」
スズナの問いかけに、何人かが手を挙げました。でもその時、ふとナオがあたりを見回しました。
「あれ、イノリがいない」
イノリという、元気の良い女の子が、いつのまにかいなくなっていました。
みんな何となく不安になって、イノリを探したり、大声で呼んだりしました。そうしているうちに、イノリが校舎から帰ってきました。
なんと、あの魔法の先生も一緒でした。
魔法の先生は、急に静かになった子どもたちを見下ろして、たずねました。
「水晶玉は、見つかりましたか?」
「は、はい」
スズナとコウヘイは、タオルにくるんだ水晶玉のかけらをおずおずと差し出しました。
「これです」
魔法の先生は、じろりとそのかけらを見て、おもむろに右手をかざし、一瞬でかけらを水晶玉の形に変えました。
つるんとした水晶玉は、すきとおっていて、地面に光る影を落としています。みんな、思わず「おおー」とためいきをつきました。
「まあ、水晶玉は元に戻ったのだから、許してあげましょう」
魔法の先生の言葉に、子どもたちはわっと歓声を上げました。
「教頭先生は、どこにいるんですか?」
魔法の先生は、微笑みました。
「自分たちで見つけてごらんなさい」
そして、子どもたち一人一人を呼んで、水晶玉をのぞかせてくれました。何も見えない子が大半だったけど、昼寝が好きなトモヤと、おしゃべり好きなアヤだけは違いました。
「牛乳びんがいっぱい並んでいるのが見えます」
二人ともそっくり同じことを言ったので、子どもたちは連れだって給食を作る部屋に行きました。そこに、すっかり洗って後は業者に出すだけの牛乳びんが、ずらりと並んでいます。
並んだびんの中で、ただ一つだけしっかり栓をしめたびんがあったので、力持ちのユウタが代表して栓をあけました。
すると、ポンと軽い音がして、子どもたちの目の前に教頭先生が現れました。先生はネクタイをゆるめた、だらしないかっこうをしていましたが、すっかり酔いがさめた顔で、照れくさそうに頭をかきました。
「みなさん、ありがとう」
子どもたちは大喜びで、教頭先生を取り囲みます。そして、みんなで校庭に出て、残りの時間いっぱいキックベースをしました。
それ以来、教頭先生はお酒を飲みすぎないよう気をつけているようです。子どもたちは相変わらず、教頭先生のことが大好きです。そして時々、学校であの魔法の先生を見かけると、元気よくあいさつをするのでした




