第五章 教頭先生の忘れ物
朝、六年生のチホとリクヤが登校してくると、学校の玄関に黒い財布がおちていました。
職員室にいた先生に財布を届けると、先生は財布の中身を調べてくれました。
「わかった。これは、教頭先生の財布よ」
教頭先生は、今日は朝から出張で学校にいないのです。
「財布がないと、こまるよね」
チホとリクヤは、なんとかして財布を教頭先生に届けてあげたいと思いました。そこで、先生は裏天神杜小学校のマリコ先生に頼んで、魔法で財布を届けてあげることにしました。
マリコ先生はこう言いました。
「せっかくだから、あなたたちが魔法を使ってごらんなさい」
二人は、銀のたらいにきれいな水をはり、声を合わせてマリコ先生に教わった呪文をとなえます。それから、水の中に財布をぽちゃんと落としました。財布は一瞬光って、消えてしまいます。あとには、二人の顔を鏡のようにくっきりと映したいっぱいの水があるばかりでした。
「さあ、うまくいっていれば、教頭先生のもとに財布が届いたはずだけど……」
その日の中休みに、教頭先生がもどってきました。
「あれ、先生。どうしたんです?」
「いや、財布を忘れてしまったみたいで。学校にないかなと思ってちょっと抜け出してきました」
「財布なら、魔法で先生のもとに届けたはずですよ」
「え? そうなんですか?」
たまたまその会話を耳にしたチホは、魔法が失敗したのだと気づきました。教頭先生にバレる前に、なんとか財布を取り戻さないといけません。
マリコ先生に相談すると、水晶玉を貸してくれました。のぞくと、財布が学校の裏にある小さなほこらの中に置いてあるのがわかりました。
「ええっ、なんでそんなところに……」
「あなたたち、さっきたらいに財布を入れるとき、ほこらのことを考えなかった?」
「そういえば、ちょっとだけ考えました」
昨日の放課後、ほこらと鏡にまつわる怖い話を聴いたのです。そのせいで、財布がほこらに行ってしまったのです。チホはリクヤと一緒に、財布を探しに行きました。
ほこらには道祖神がいて、財布に入っていたお札を数えているところでした。
「あーっ! 先生のお金が!」
「どろぼう!」
さけぶと、道祖神は財布をもったままぴょんぴょんと飛びはね、逃げていきます。チホはとっさに物置の前にたてかけてあった木のほうきをつかみ、またがります。地面を蹴ると、ほうきはひゅんと浮かび上がりました。チホは一瞬ぎょっとしましたが、じきにへっちゃらになりました。――竹馬や一輪車と同じようなものです。
「待ちなさい!」
チホは空から、リクヤは地上を走って道祖神を追いかけます。なんとか、校庭を出る前には捕まえることができました。
「先生の財布、返してください」
「……はい」
道祖神はうなだれました。
「このお金で、おまんじゅうやお花を買おうと思ったのに。最近はだれもおそなえをしてくれないんだ……」
二人は、少しかわいそうに思いました。
その時、マリコ先生と教頭先生がかけつけてきました。
「あ、俺の財布が」
指をさした先生に、道祖神はちゃんと財布を返しました。チホとリクヤは、先生にお願いをします。
「ねえ、先生。神様に何かおそなえものをしたいんです」
教頭先生は、笑いながらうなずきました。
「わかったよ」
そして、出張の帰りに、おまんじゅうとお花を買ってきてくれました。




