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役職

半導みことにカノジョの役職を与えた翌日。


朝のホームルーム前、いつものように教室の自分の席に座っていると、みことが静かに近づいてきた。彼女は眼鏡をかけ、オリーブグリーンの短い髪を耳にかけて、控えめに立っている。


クララなみに座っている姿オンリーだったからか、妙に新鮮に映る


「…おはようございます、秀石くん」


久しぶりに聞く声。


昨日まではクラスメイトとして聞こえていたその呼び方が、今日は妙に重く響く。


おれは慌てて顔を上げた。


「あ、おはよう……半導さん」


みことと呼んだほうがよかっただろうか?


朝の挨拶はもっと優しくした方がいいのか?


肩を軽く叩くような親しげな仕草は、まだ早いのか?



みことはおれのそんな様子を、伏し目がちに見つめていた。


口元に、ほんの少しだけ笑みが浮かんでいる。



休み時間になると、みことは自然におれの席の近くに来た。ノートを少し寄せて、なんらかんやで初めて一緒に勉強を始める。


「ここ、わかりませんか?」


「…勉強の話だよな?」


おれはノートを覗き込みながら、つい声を少し低くしてしまった。



肩と肩が触れそうな距離。今もクラスメイト♂とクラスメイト♀でしかないはず。なのに意識してしまう。


「ああ、うん。ここはこうやって……」



みことは小さく頷きながら、時折おれの顔をチラチラと見上げてくる。


その視線に、おれはさらに意識して背筋を伸ばしてしまう。



「ああ、お前は完全に役職に引きずられているよ」笑いながら、でもどこか確信めいた顔で言うのは友人の野村聡である。



「彼氏とか彼女とかさ。名前ついた瞬間、急にそれっぽく振る舞わなきゃってなるじゃん」



言われてみれば、その通りだった。



野村は机に肘をついて、両手を組む。


「母も十五歳で女子高生をすっ飛ばしてお母さんと呼ばれるようになったからな」


掟ゲンドウスタイルには相応しい話題かもしれないが、あっさりしすぎではないか?ドラマを作れるくらいの重い話題が



「そうやってお母さんと呼ばれるようになり、中学生ではなく、母親として振る舞わなければならないと思うようになった。母親としてまずは相手の男を強く叩いたり、出産間も無くの体で二輪車を運転して引き摺り回すなどの強い衝撃を与えて父さんを肩書きに相応しい血の滴る良い男にしたらしい」



「聡んとこの両親はともかく、彼氏彼女の役職はニコイチで俺は彼氏という役職に引き摺られてると言いたいんだな?」



「彼女」という役職を与えたことで、なんとなく彼氏になってしまった。おれはまだ本当の気持ちで向き合えていない。まぁ、「彼氏としてこうしなきゃ」という義務感だけで動いているし血を流していないだけまだ良いかもしれないが、しかしみことみたいなタイプほど滅多に殴らない分たまのバイオレンスが生死に関わるレベルの


「お前が本当に聞きたいの、そっちじゃないだろ」



野村がニヤッとする。図星だった。



「……みことってさ」



名前を出した瞬間、少しだけ声が詰まる。



「誰にでもあんな感じなのか?」



「……あんな、って?」



「いや、その……距離感というか」



野村は一瞬だけ考える素振りを見せてから、あっさり言った。



「いや」



間を置かず、はっきりと。



「半導がああなるのは——お前の前だけだよ」

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