#19 「僅かなズレと衝突」
※2026/6/8 誤字の修正
月末恒例勝ち抜き戦団体の部。初戦で無事に勝利を掴み取ったチームノインヴェルトは、その後も勢いは止まることなく続いた。
敵チームの作戦は悉く叩き潰し、個人の戦いは全て実力でねじ伏せ、誰一人として一度も撃破されることなく勝ち上がり続けた。
そして迎えた決勝戦も難なく敵コマンダーを討ち取り、チームノインヴェルトの優勝で月末恒例勝ち抜き戦団体の部は終わりを迎えたのだった。
感覚を掴む為の初戦を除き、あっけなく勝利し優勝したノインヴェルト。当初の予定通り優勝出来たことに一年生たちが安心するその一方で、満足していない者もいた。
「……三年生頼りになっている、ですか?」
「そう! いつまでも私たち頼りじゃダメだって、羅兎だってそう思うよね?」
「確かに思うところはあったが、今回に関してはまだそこまで気にしなくてもいいんじゃないのか」
勝ち抜き戦団体の部の翌日。チームルームに集まり、勝ち抜き戦の振り返りや今後についてノインヴェルトの少女たち。
更なる連携力強化のため、勝ち抜き戦の反省点を洗い出す会話の中で、美環が口にした言葉が一年生たちに厳しい現実を突き付けた。
先の戦いで多く見受けられた、神威刹那機による逆転の起点作り。これがなければ勝てないなら、このチームに未来はない。
それは美環が本気でこのチームで勝ちたいからこその言葉だった。
「最初が肝心だって言うでしょ? 優花里からも何か言ってよ!」
「そうですね……では、こうしましょう。次の目標がある五月中旬までの間、この約二週間で皆さんには特別なトレーニングをしていただきます」
「特別なトレーニング……ですか」
「はい。勝ち抜き戦と同じペアで決闘掲示板に潜っていただきます。最初に十勝を達成したペアには特別なご褒美を、達成できなかったペアにはちょっとした罰を。いかがでしょうか?」
美環から言葉を求められた優花里。コマンダーとしてチームのために彼女が考えたのは、神威重工主催ロボットスポーツイベントに向けて特別なトレーニングを行うことだった。
明確な目標に向けてという理由付け、そして競わせるための褒美と罰。分かりやすい優花里の言葉は、それを聞いた少女たちの心を動かした。
「……それで強くなれるなら」
「まあ、断る理由もないし……私だって、情けない姿とか見せたくないし!」
「そうですね。この機会に皆さん一緒にレベルアップいたしましょう」
「もっとマニュアルコントロールを自分のものにしたいし……うん、私もやります!」
「皆、やる気だね。……うん、それじゃあ私も少し頑張ろうかな」
優花里の言葉は少女たちの心に響き、その一言は一瞬にして火をつけた。思うことがあったからこそ、作られた目標を見る意識が生まれていた。
マニュアルコントロールという壁を超えるために一致団結する一年生と二年生。しかし、その中でも茜だけは納得していなかった。
「……でも、それだけで勝てるんでしょうか。ナインエレメントに」
単に強くなったところで、ナインエレメントに勝てるのか。どこか一人だけ、違うところを見ながら一言呟いた茜。
その呟きに反応した美環は席を立ち、茜の横に立って机に手を叩きながら口を開いた。
「それ、どーいう意味?」
「……そのままの意味です。ナインエレメントはチーム全員のコアシステム第二段階解放を目標に掲げていますが、ノインヴェルトはそうではありません。果たして、それで彼女たちに勝てるのでしょうか?」
美環の粗暴な行動に怯まず、自分の考えを話し始めた茜。それは現状意識するべき相手と自分たちを比較した上での話だった。
ノインヴェルトが最も意識すべき相手、ナインエレメント。そのコマンダーである陽咲焔はコアシステムの解放こそ勝利に繋がると考えており、全員の第二段階解放を目指して日々研鑽を積んでいる。
九人全員が第二段階を解放しているとなれば、当然その対策はチーム全員が出来なければまず戦いに勝利することは難しくなる。
マニュアルコントロールは、相手を出来る人が相手をすればいい。その戦い方が出来なくなることを茜は恐れていた。
「マニュアルコントロールの相手が出来る人がどれだけいますか? 三年生三人、百井先輩と私。マニュアルコントロールを使わずに相手が出来ると、十分に戦えるとそう言えますか?」
「それは……そう、だけど……」
「……黄乃さんの言う通り、現在の私たちでは厳しいと思います」
茜の正論は尤もだった。事実、勝ち抜き戦団体の部で神威流星と神威天華は支援に回ることが多く、直接相手をすることは最後まで無かった。
どうにかしなければいけない。それは誰しも分かっていた。だからこそ、それを一年生なのに実力者な茜に言われたことが許せない少女がいた。
「……皆、どうにかしないといけないなんて分かってるから。あなたに言われなくたって、分かってるし頑張ろうってしてるのに、なんで水差すの?」
「……それ、は…………」
流石に我慢の限界が来たのか、言いたかったことを思い切り吐き出した清奈。その言葉は誰よりも悔しさを感じていた少女が胸に秘めていた、嫉妬や焦燥といった感情の塊だった。
茜は清奈の言葉に何も言い返せなかった。何故なら茜もそんなことは分かっていたからだ。分かっていたのに、茜は言わずにはいられなかった。
「セイちゃん、そういうことを言うのは――」
「…………すみません。少し頭を冷やしてきます」
「あっ、ちょっと茜ちゃん待って!」
「黄乃さん、今は待ちましょう。きっと、大丈夫だと思いますよ」
このままでは話し合いどころではないと思った黄乃が二人の間に入ろうとしたが、それよりも早く茜が席を立ちその場から立ち去ろうとする。
黄乃は茜を止めようとしたが、皆のことを思った優花里が黄乃のことを止める。そのまま茜は静かにチームルームを退室してしまった。
「……何してんだろ、私。ほんと、昔からバカで変わらない……」
皆から逃げるようにチームルームの外に出た茜。そのまま何をするでもなくただ屋外を歩き続け、気づけば茜は運動場に迷い込んでいた。
そのまま休憩スペースまで歩き、自動販売機で水を買ってベンチに座り込む。口もつけずに持ったまま俯いていたその時、茜に近づく人影があった。
「……何か考え事でもしてる? 俯いてるなんて、茜ちゃんらしくないね」
落ち込んで俯いているところを急に背後から話しかけられ、その聞き覚えがある声に肩を震わせながら慌てて振り返った茜。
そこに立っていたのは茜の幼馴染であり、チームココノエザクラのコマンダーであり、トップアクトレスを惜しくも逃してしまった少女。桜木夜だった。
「…………夜ちゃん」
「久しぶりだね。元気……って聞こうとしたけど、そんな感じじゃなさそうだね」
話しかけながら茜の隣に座った夜。それはまるで本島に居た頃と同じように、最狂の優等生と呼ばれていた面影を感じさせるように。
その雰囲気は中学生の頃から変わっていないようでどこか大人びたような感じがあったが、それでも芯の部分は変わっておらず自然と茜は耳を傾けていた。
「最近、ずっと茜ちゃんの話を聞いてるよ。勝ち抜き戦団体の部、優勝おめでとう」
「……ありがとう、ございます」
久しぶりに会えたことに喜びながら、最近聞いた茜のことを話す夜。その様子はとても楽しそうで、それでいて少しだけ寂しそうな様子。
しかし、夜が話している間もずっと茜の顔は俯いたままだった。反応と様子から思い悩んでいることに何となく予想がついた夜は、茜の心に踏み込むような一言を口にした。
「……もしかして、悩んでるのはチームのこと?」
「…………はい」
何をそんなに思い詰めた顔をしているのか、それを一発で言い当てた夜。当てられたことに少し驚きながらも、茜は思っていることを全て話した。
このままではノインヴェルトは勝てないこと、自分が言いすぎてしまったこと、悪いとは思いつつも何を言ったらいいか分からないこと。
分かっているのに分からない茜の話に、口を挟まず頷き続ける夜。全てを受け入れてくれる夜を頼るように、茜は気持ちを吐き出した。
「……そっか。チームのことを思って言ったことだったけど、想いが強すぎたんだね」
「分かってるんです。これはチームスポーツで、皆勝つために頑張ってるって。……それでも、認めたくない自分がいるんです」
「勝ちたいならやれることは全てやるべき、口を動かすより手を動かす。……変わらないね、茜ちゃんは」
「変われないですよ、人なんて。……変われないから私はまだここにいるんです」
茜のことをよく知っているからこそ、茜の言葉を全て受け止めた夜。全てを聞いた上で、昔から変わらないと言う夜。
変わらない、変われない。その言葉は茜も分かっており、だからこそここにいるという言葉は夜の心に酷く突き刺さった。それは二人の大切な過去、茜の今を縛る夢の鎖。
「まだ、考えてるの? あの日のこと」
「……あの日を考えない日なんて、一日だってありません。夜ちゃんは、そうじゃないんですか?」
「……私もだよ。忘れられないから、まだこの学園に縋り付いてる」
過去に触れられ、思わず聞き返す夜。過去に縛られた茜は答えながら夜にも同じことを返し、夜もまた同じく忘れていないと返す。
それは過去の物語。二人がまだ本島で暮らしていた時のこと、今から語られるのは中学生の二人がロボットスポーツに参戦した春のお話……
――とあるアクトレスのちょっとした話#3
「今回はチームココノエザクラのコマンダー、桜木夜先輩についてのお話だよ!」
「……えっと、それは構いませんがどうして私がここに?」
「まあまあ、話し相手がいないと成立しないのがこのコーナーだから。ってことで翠ちゃんは夜先輩のことはどれぐらい知ってる?」
「噂を聞いた程度ですが……トップアクトレスに最も近かった最強のアクトレス、そう聞いております」
「その通り! その実力は正に最強……だったんだけど、高校一年生の時にあった事故でトップアクトレスを惜しくも逃しちゃったんだよね」
「試合中にコックピット内が高温状態になり、火傷を負って大会から棄権した。というお話ですよね」
「そうそう。コアシステムの第三解放に耐えられる機体へ換装する前に到達した結果、放熱に機体が耐えられなかったんだよね」
「そんなことが……それほどまでに危険な物なのですか? 第三段階は」
「ちゃんとしないとかなり危険だね、その分リターンもちゃんとあるんだけど。それじゃあ今回はここまで! 次回も涼凪ちゃんの落書きコーナーをよろしくね!」




