#18 「戦場の支配者」
「まずはこの二機を落として、その次は後衛の二機とコマンダーです!」
「誘い出して、確実に。さあ、どちらが戦場を支配しているのか教えてさしあげましょう」
中央の広場と西側の森林地帯。遂に始まった戦いは二つの場所で繰り広げられる。その流れを掴むのは果たしてどちらなのか。
大方の予想通りノインヴェルトが一つ目の勝ち星を掴み取るのか、それとも九五式制隊が番狂わせとして栄光への第一歩を踏み出すのか。
「茜ちゃんとの初戦闘、しっかりやらないと!」
「この戦闘で掴んでみせる。新しいチームの戦い方を……!」
「恐らくあの赤い機体に紅坂茜が搭乗している……動きの一つ一つに警戒して対処を!」
中央広場、その中心から西部に掛けてを大胆に動き回る神威赤桜。敵機を引き付けるようにして動くその姿は、例え目的があると分かっていても注意を誘う。
「別に、倒してしまっても構いませんよね?」
「援護と誘導とは言われたけど……まあ、余力があったら狙ってみようか」
「くっ、青い機体の援護射撃……後方からの攻撃は遮蔽物と立ち回りで防いでください! まずは赤い機体から、次に青い機体を狙います!」
同じく中央広場、東部から敵を挟み込むようにして戦う神威流星。神威赤桜に集中する敵機の裏を取ることで、護衛の撃破と狙撃地点への誘導を狙う。
「さて、それでは私たちも役目を果たしましょうか」
「やれるだけやってみよっか。ついでに勝てたらなおよし、そのつもりで!」
「黄緑の機体は恐らく汎用型。ある程度のダメージは受けるものと割り切って考え、速攻で片を付けてください!」
森林地帯、中央から進行してくる敵機の対処に当たる神威天華。豊富な射撃武装で敵機の動きを制限しながらダメージを与え、ゆっくりと確実に敵機の撃破を狙う。
「ねえねえ、どっちもやっちゃっていいよね?」
「それではチームの訓練にならないだろう。一機は残しておくぞ、いいな」
「赤黒い機体は装備からして近接戦闘特化型。まずは盾を使って時間を稼ぎ、合流してから反撃を!」
同じく森林地帯、コマンダーを狙う敵機の対処に当たる神威刹那。スピードを活かした接近戦を得意とし、圧倒的な技術から繰り出す予測不能な動きで敵機を追い立てる。
「撃破した者から味方機と合流し、最後にコマンダーを全機で叩きます! この戦いで私たちの進化した力をみせましょう!」
「「「「了解!」」」」
「……さて、戦いの準備は整いました。全ては勝利を掴むため。皆さん、手筈通りにお願いしますね」
「「「「了解!」」」」
両チーム共に作戦の指示は全て出された。九五式制隊が技と力で押し通すか、それともノインヴェルトが標的を撃ち抜くか。
『さあさあ、なんと二箇所同時に激しい戦いが繰り広げられているぞ! 中央広場と西部森林地帯、これは一体どうなってしまうのか!』
『先に墜とされるのはどちらの機体となるのか、目が離せませんね』
「撃ち続けろ、隙を与えるな! レーダーの確認も忘れず、ポジションチェンジを怠るな!」
「くっ、これじゃあちょっと反撃は厳しいかな……美宙ちゃんそっちからいける?」
「何とかしてみる……って言いたいところだけど、流石の連携だね。これじゃあ射線を通すことにも苦労しそうかも」
ノインヴェルトにとって最も大事な戦場である中央広場での戦いは、大方の予想を裏切り九五式制隊が完全に支配していた。
神威赤桜は反撃を許さないほどの弾幕によってただ動き続けることしか出来ず、神威流星の攻撃は徹底されたポジショニングによって届かない。
かなりの苦戦を強いられている神威赤桜と神威流星。しかし、苦しめられていたのはこの二機だけではなかった。
「怯むな、押し通せ! ただの射撃で我々を止められる者など居はしない!」
「うぐっ、流石はラージシールド……射撃主体の天華は分が悪いかも……!」
一方、森林地帯の戦いも九五式制隊が優勢となっていた。シールドに物を言わせて突撃する敵機を、神威天華は止めることが出来ずにいた。
爆発武装であれば構えの上からダメージを与えることは出来るが、持ち替える動きを見せる事は明確な隙となる。被弾を抑えるため、翠と黄乃は後退を選んでいた。
「このままなら負けはしないけど……どこかで隙を見つけて、武装の全切り替えさえ出来れば……!」
「このまま押し通して見せる! 勝利を掴むのは我々だ!」
「あっちは問題なさそう。だったらこっちも――」
「ねえねえ、そろそろいいよね?」
「……ああ、そうだな、では、私たちから動くとしよう」
ひたすらに下がり続ける神威天華。その様子を見た九五式四番機も仕掛けようとしたその時、先に動いたのは神威刹那のほうだった。
「確かにシールドは強い。だが、全てを防げるわけではない!」
「なっ、急に動きが……これじゃあ全部は防ぎ切れない!?」
「あははっ! そんなただシールドを構えてるだけの防御じゃ、防いでる意味がないよ!」
両手のブレードを使い、左右から連続で攻める神威刹那。その攻撃は九五式四番機の防御を揺さぶり、小さな隙を生み出していた。
そしてその隙を突いた一撃が両腕へ確実にダメージを蓄積させていく。一撃、また一撃と両腕に攻撃を与え続け、遂に明確な隙が訪れる。
「なっ、しまっ――」
「腕部破壊、今だ!」
「これで、おしまいっ!」
両腕の耐久値を全て削り切り、機能がダウンしたところで叩きこまれる怒涛の連続攻撃。神威刹那が魅せる、二刀のダガーによる剣舞。
神威刹那の猛攻を前に、ただ受け続けることしか出来ない九五式四番機。胴部耐久値は瞬く間にすり減り、あっという間に四番機は膝を着かされた。
『ああっと、まさかの先に撃破したのはノインヴェルトの神威刹那! 劣勢の状況が広がる中、先に勝利を掴み取った!』
『これは良い追い風になるかもしれません。この調子で果たしてどちらが勝つのか、楽しみです』
「くっ、やはり油断なりませんね……! 二番機は合流を最優先に撤退を、三番機と五番機はこのまま――」
「今が好機っ! 茜ちゃん、行くよ!」
「了解! システム解放、狙い撃つ!」
遂に最初の撃破が起こり、大きな動きに実況席と会場が盛り上がりを見せる。完璧な作戦で展開されていた戦いを、神威刹那が崩したのだった。
先に撃破を許してしまい、油断ならない状況に大きく作戦を変更した睦海。だが、戦いの流れを掴んだ百井と茜が遂に動き始めた。
「ぐっ、ここに来てマニュアルコントロール……! それならこっちも!」
「作戦変更確認! ポジションチェンジ、コマンダーに続け!」
この勢いに乗っかり、マニュアルコントロールを解放した神威赤桜。同じく睦海もマニュアルコントロールを解放し、コマンダーを主軸とした戦いに作戦を切り替える九五式制隊。
しかし、状況は九五式制隊の劣勢だった。赤桜を追えば流星の攻撃に襲われ、流星を意識すれば赤桜の攻撃が襲い来る。二機の連携は、徐々に九五式制隊の三機を追い詰める。
「くっ、これ以上は地形的にも流石に……!」
「守るだけでは……なら、このまま」
「状況に合わせて作戦を変えるのは良い判断だと思うよ。けど……」
「それが出来るのは、果たしてそちらだけなのでしょうか」
このままでは押し切られる。そう思った睦海は守るだけの動きから攻めも考えた動きに変え、勝利するために神威赤桜を捉えようとする。
だが、このほんの少しの焦りが仇となった。攻撃するための移動で彼女は踏み込んでしまった。一点を見つめていた死神の視界に。
「ロックオンアラート!? しまっ――」
中央広場でたった一つ、森林地点から真っ直ぐ視界が通っている場所。そこに入った瞬間、少女の視界に映ったのはロックオンされていることを知らせる警告アラート。
警告音と方角から狙撃であることを察し、咄嗟に体を動かした睦海。なんとか体を逸らしたその時、蒼い光が深い森の中から放たれた。
「ぐぅぅぅ!? なんて攻撃……一撃で、全部持っていくなんて……!」
「……まあ、あの一瞬で胴部への被弾を避けるとは。一先ず、片腕を落としただけでも良しといたしましょう」
森林地帯から中央広場に向けて放たれた蒼い光。戦場に突如走った蒼い光、その出元にあったのは戦機神威丁式穹界の姿だった。
反動を抑えるためにサブレッグを展開した戦機神威丁式穹界。戦機穹界が構えていたそれは、大砲かと見紛うほど超大型の狙撃銃だった。
第四世代専用超長距離狙撃銃。チャージ段階によって性能が変わり、長い時間を掛けることで最強の魔弾が込められる。
全てを貫く魔弾。威力は最大で十点、有効射程は最大チャージで端から端まで届き、弾速は既存の武装を大きく上回る。
「ここまで全く動きがなかったのは、この狙撃を狙っていたから……くっ、次の一撃が来る前に何としても片付けないと!」
第四世代の力を見せつけられて尚、まだ勝利を諦めていない睦海。先の一撃はチャージ武装であると仮定して、片腕が破壊されたというのに臆せず動き続ける。
動かなければ勝つことは出来ない。時間を掛けては勝つことは出来ない。だが、この驚きと動揺が勝敗を分ける決定的な分かれ目となった。
『さあ、先の撃破で戦いの流れは大きく変わり、一転してノインヴェルトが優勢な状況となったが果たしてここからどうなっていくのか!』
『ここからは狙撃を警戒しなければならない以上、九五式制隊はかなり動きが制限されるはずです。どうやって勝つのかは、コマンダーの腕の見せ所ですね』
神威赤桜と神威流星の相手をしながら、丁式穹界の狙撃を警戒して立ち回る。常に位置取りに気を付けなければならない戦いは、確実に九五式制隊を追い詰めていった。
最も現実的に勝利を狙えるはずの作戦ですら、疲労と焦燥感から機体の動きが段々と対応しきれていない様子が見え始めた頃。遂に中央広場でも動きが起こった。
「動きの甘いところが出始めたね。清奈ちゃん、狙える?」
「任せてください。このまま追い込めば……そこっ!」
「くぅぅぅ、このままじゃ――」
「茜ちゃん、今なら!」
「ブレード起動、はあっ!」
「なっ、きゃあぁぁぁ!?」
『ああっと、ここに来て中央広場でも神威赤桜が一機撃破! ノインヴェルト、勢いが止まりません!』
激しい戦いの中、神威流星の射撃で崩された九五式三番機。その隙を逃さぬ神威赤桜の追撃が決まり、遂に二機目の撃破が起こった。
三番機と四番機が撃破され、かなり危うい状況となった九五式制隊。その後もノインヴェルトの勢いは衰えず、茜たちは確実に敵機を落としていく。
ノインヴェルトのコンビネーションを前に一機、また一機と撃破され。残すは睦海の搭乗する九五式司令機のみとなった。
「これが、ノインヴェルト……くっ、ここで諦めるわけには!」
『おおっと、ここに来て九五式司令機が前に飛び出した! まさか、この状況から直接コマンダーを狙っているのか!?』
絶望的な状況でも諦めず、勝利のためにコマンダーである優花里が登場する丁式穹界へ特攻を仕掛ける九五式司令機。
完璧に把握している地形情報とマニュアルコントロールと単機であることを活かし、最も安全に且つ最も素早くたどり着けるルートで走り抜ける。
「このまま行けばまだやれる……まだ!」
「ちっ、流石に当たらないか……!」
「ちょっ、あんなの止められないんですけど!?」
走り出した九五式司令機を止める為に射撃する神威流星と神威天華。しかし睦海の動きとルート選択に隙は無く、誰も攻撃を当てられずにいた。
「優花里、任せてみてもいいんじゃないのか?」
「……そうですね。神威赤桜、敵機の対処をお願いします」
「了解! 行こう、茜ちゃん!」
「はい。期待に応えてみせます!」
誘導切りに苦戦する中、傍観していた羅兎が優花里にあることを提案した。全く同じことを考えていた優花里は神威赤桜に通信を繋ぎ、そして二人に九五式司令機の相手をするよう伝えた。
第二段階の解放者として期待されていることを察した茜と百井。その期待に応えられるように返事を返し、全速力で九五式司令機を追いかける。
高い走破力とブースト性能を活かした力業で九五式司令機に追い付いた神威赤桜。躱されるリスクを考えて茜はブレードを選択し、最高速を保った状態で接近戦を仕掛ける。
「来ると思っていましたよ。神威赤桜、紅坂茜!」
「私たちが勝利するだけなら、足を止めさせるだけで済む。けど!」
「……私たちの手で、勝ってみせる!」
接近する神威赤桜を前に、同じくブレードを構える九五式司令機。振り切れないと考えていた睦海は、慌てず神威赤桜の相手をすることを選ぶ。
神威赤桜と九五式司令機。マニュアルコントロールを使う者同士による二機の攻防は、とても激しい様子だった。
常に一手先を考える読み合い。お互いにブレードの攻撃と回避を繰り返すが、ブレードがお互いの装甲を掠めるばかり。
この戦いを制するのはどちらなのか、誰も分からないまま戦いが繰り広げられる。しかし、神威赤桜は勝利の兆しを掴んでいた。
積み重ねた特訓を思い出して焦らず冷静に動く百井と、抜群のバトルセンスで常に相手の行動を予測しながら攻撃を行う茜。
二人の連携はかなり完成しており、二人の動きは睦海を上回っていた。度重なる先読みを、遂に睦海は捌き切れなくなっていた。
ブレードで防ごうとしても読まれ、回避してもその先を読まれ。何をしても踏み込まれる度に胴部へ被弾してしまう九五式司令機。
「まだ、行ける……! 私と茜ちゃんなら、まだまだやれる!」
「このまま押し通る……絶対に、通してみせる!」
「くっ、これ以上は……押し切られる……!」
「「はぁぁぁぁぁ!!!」」
迫りくる神威赤桜のブレードを何とか防いだ九五式司令機。しかし、ブースターの性能差で押し負けてしまい、遂に最後の一撃が九五式司令機の胴部を切り裂いた。
『き、決まったー! 逆境を覆し、見事勝利を掴み取ったのは……チーム、ノインヴェルトー!』
『反撃の狼煙から勢いを掴み、その流れに乗って勝利も掴みましたね。お見事です』
九五式司令機が膝を着き、それと同時に実況席から大きな声が上がる。不利な状況を覆し、チームノインヴェルトは見事に勝利を掴み取った。
各会場からも大きな歓声が上がり、両チームを褒め称える声も上がった。凄まじい熱狂を巻き起こした戦いは、多くの少女を魅了したのだった。
こうして、チームノインヴェルトの初戦は勝利を飾りその幕を閉じた。
――とあるアクトレスのちょっとした話#2
「今回は九五式制隊のコマンダーである周防睦海先輩についてのお話だよ! ということで実際にご本人をお呼びしましたー!」
「こうした場に呼んでいただけるのは光栄なのですが、勝ち抜き戦で負けた身としては何とも複雑な気分ですね……」
「まあまあ、そこは一旦置いといて。二年生の睦海先輩はミリタリーオタクということで、なんとお父さんは元陸上自衛隊、おじいちゃんが元海上自衛隊の人なんだって! やっぱり、興味を持ったのはそういう部分があるからだったり?」
「そうですね。子供の頃からそういう物が近くにあって、目にしたり耳にしたりしている内に気になり始めて。それが今ではこういった形になった、という感じですね」
「なるほどなるほど……ちなみに、戦術論とかそういった部分は実際に教わったこともあったり? それともそういうのは自分で考えて?」
「基本的には自分で考えた物が殆どです。でも、基礎的な考え方はかなり参考にしています。自衛隊の兵器と装動戦機、異なる部分も多いですがやはり通じる部分もありますから」
「ふむふむ。自分で勉強したことをしっかり活かしていると。これまでの話から睦海先輩って結構真面目でお堅い感じだけど、実際軍事関係以外で好きなこととか興味があることは?」
「け、結構はっきり言いましたね。もちろん何も軍事関係だけというわけじゃないですよ。実は日本刀も好きで、刃付けはしていないのですが実家に三本あります。あとは茶道と華道も少し――」
「……うーん、やっぱり睦海先輩は睦海先輩なんだね」
「……? えっと、何かおかしかったですか?」
「ううん! 睦海先輩は素敵な人だなって思っただけだよ! そ、それじゃあ今回はここまで! 次回も涼凪ちゃんの後書きコーナーをよろしくね!」




