決着――20.始まり②
「ヤミが生まれた理由、ご存知の通り彼女が死んだからだよ」
「………」
「それもただの人間が死んだわけじゃないし、老衰で息絶えたわけじゃない。死神の力を持って生まれた半端者が悪魔の生贄として捧げられ死んだ。それによって、エルピスという存在はこの世から抹消され、代わりにヤミと言う全く新しい人間がこの暗闇で生まれた。まるでジークを殺した罪を背負うかのようにね。でも、実際は違う。彼女はむしろ称賛されるべきだよ」
「なんで?」
「人間には殺せないし、神は干渉ができないから」
そういうことか、と納得する。
「人間が殺すことはできない。できるのは、エルピスのような半端者。そう考えると、種族を越えたハーフが生まれた理由もわかりやすいだろ」
「ジークを殺すために生まれたってことか」
「そういうこと。これも全てジークが種族の壁を破ったことでできあがった結果なんだけどな。もし壊されなかったらそう簡単に事が運ばれなかっただろうし」
そう言われると、エルピスが可哀そうに思える。生まれたときから死神の力を持っていたからこそ、世界を破滅へと導き救ったジークを殺すために生まれた存在だと考えてしまうから。
「なら、エルピスが死神の力を持った理由はジークを殺すためにあったってことか」
「そういうこと。物分かりがいいな」
アーミラは背を伸ばした。
言われたことを考えたが、見えない目的が2つある。1つ目は、アーミラの目的だ。どうして彼女がジークに話を持ち掛けるだけでなく、ここまで尽くすのかという点だ。神という絶対的存在で居るのにもかかわらず、たった人間1人にここまで働く目的が知りたい。
2つ目は、初めてヤミと話したそのとき彼女は知っていた。900年後の世界であるにもかかわらず、ドラグネス王国のこと、カルミアのこと――記憶を失っているのに、最初からわかっているよう話していた。
「…………」
アーミラに聞けばいいか、目の前にいる概念的存在へと顔を向ける。
「聞きたいことがあるんだけど……」
「ジャンジャン聞いて。まぁでもあまり時間はないけどな」
「時間の概念ってないんじゃないの?」
「それはアタシにね。アンタがいくら英雄の生まれ変わりと言ってもただの人間だし、負荷がかかるのよ」
それなら急ぐ必要があるだろう。
「まず……アーミラの目的は一体何なんだ?」
「何って、それは?」
「いや、アーミラがここまでする必要ってあるのかなって思った」
「あぁそれなら、アタシとしても都合がよかったから」
「都合……?」
「まぁ出世だよ」
「…………」
役職が上がるためか。
「世界を助けた英雄を裏から支援するだけでなく、壊された壁によってバラバラとなりかける世界を束ねればすごい認められるからな。自分のためにやっただけさ」
そんな理由で――身勝手すぎる。一体それでどれだけの人間が、生命が犠牲になったと言うのか。許せる発言ではない。
海斗が怒りの矛先を向けようとしたとき、アーミラが遮った。
「恨んだっていいけどさ。アタシ以外の神は新しい世界を作ろうとしていたよ」
「なんで?」
「なんでって増えすぎた世界を統一するために。あっちなみにその世界は、海斗が居る世界な」
「まじか!!」
ついで感覚で作られるって一体どれだけ強力な力なのか――怒りを引っ込めた。
「そのままだと、あっちの世界が滅ぶからな。滅んだら何兆体という生命が一瞬にして消える。それってあまりにも悲しいじゃん。だから、助けることにした」
今も存在していると言うことは、世界の滅亡から救えたと言う事だ。
前世の自分がしたんだけど、他人事のように感じる。
「ジークの戦いが壮大すぎて、海斗の戦いがちっぽけに感じてしまうけど、全然そんなことないからな。もし助けられなかったらこの世界は『アンデッド』だらけになっていたわけだし」
嬉しいフォローを入れられる。
「他に質問は?」
「あぁえっと、ヤミは記憶を失っていたのにカルミアのこと、ドラグネス王国のことわかっていた理由を知りたい」
「それは、普通に見てたっぽいからな。ただそれだけさ」
ふたを開けてみればそんなこと無かった。全然、考えればわかることだ。
「あぁもう時間か。これ以上、アンタと関わり続けるわけにはいかない」
「そうなんだ」
「ガッカリするなよ。神と人間なんて元々干渉しちゃいけない決まりなんだからさ」
そんなこと言っていた――ような気もする。
「じゃあ、というわけでアタシはもう行くよ」
海斗に背中を向ける。
「最後に一つ!」
海斗は言葉をかけた。
「色々とありがとう。おかげで全部解決したよ」
クスッとアーミラは笑顔を向ける。
「嬉しいことを言ってくれるな。ジーク……いや、諸星海斗」
右手に光を持ち、それはうねうねと動いていた。
見覚えがあり、懐かしい感じもする。
まさか、
「お気づきの通り、これは『ドラゴンスレイヤー』だ。まぁ原型だけどな」
プカプカと浮かぶ光があんな鉄板のような分厚く、たくましい剣になるとは想像ができない。
「本当になるの。それ」
海斗は指をさす。
反応が悪いからなのか、アーミラは強く訴えた。
「なるよ! 今アンタが持っている『ドラゴンスレイヤー』にちゃんとなるから!」
「はあ」
「信じて!」
そう言われても、想像ができない。
「まぁいいや。とりあえず、今からこれを渡してアタシの仕事は終わりだから、じゃあもう行くな」
それじゃ、アーミラと暗黒の空間は全て消え去った。




