決着―20.始まり①
「全て終わったな」
気付けばアーミラが立っている位置が光に照らされていた。頭上から注がれるこの光は暖かく、ゆったりとした気持ちになる。
彼女が立っていない場所は変わらず暗黒ではあるが。
「終わったと思ったらお腹空いてきた。帰って何食べようかなぁ」
この後のことを計画しているアーミラの隣で、海斗は困惑した表情のまま突っ立っていた。
「900年前の事件が終わったんだぞ。喜べよ」
「まぁそうなんだけど……なかなか喜べなくて」
ユリは死んで、エルピスは消滅。果たしてこれは喜べる状況なのか。いや、喜んでいいのだろうか。犠牲があって生まれた結果を手放しで、ガッツポーズで、噛みしめていいのかと考え素直に喜べない。
そんな海斗の背中をアーミラは叩いた。
「いいんだよ、喜んで。ユリもエルピスもようやく自由になれたんだ。彼女たちを思うなら明いっぱい喜べ。さぁ手を上に向けて」
困惑したまま両手を上に向ける。
「そして、【俺はやったぞーーーーーー!!】って」
「?」
「アタシが言ったやつを叫ぶんだよ。さあ、さあ」
言われるがままに、流されるがままに、
「俺は、やったぞーーーーーーーー!!」
大声で言った。
実感があまり湧かないけど、それでも言葉にすれば、安心感が生まれる。もう戦う理由が無い、戦わなくてもいいという平和的思考が少しだけ芽生える。
「さて、全て終わったわけだし話そうか。ここは時間なんて関係ないんだし」
「はあ」
「まず、何を話すか……戦争が始まった理由は知っているよな」
「うん。戦争を仕向けた人も知っている」
「あぁそこまで知っていたか……。なら戦争によってもたらされた結果をお話ししよう。これは知らないでしょ?」
海斗はうなずいた。
「ジークが起こした世界戦争によって何が生まれたのか、それはせかいの壁が壊れたことだ」
「はあ」
「壁――というのはつまり、人間、動物、魔物、魔人、悪魔……と神を除いた5つの種族の隔たりを壊し、入り乱れるようにしたこと」
「今までなかったの?」
「無かった。まぁ同じ世界で住んでいたし、交流はあった。ただ暗黙の了解と言うべきか、人間は人間、動物は動物と種族のみのテリトリーで生活すると、大昔の神がそう決めたんだ」
「………」
「で、それによって1つだけ問題が生じた。それは何か、世界が広がりすぎたってことなんだよ」
「広がると何が起きるんだ?」
「広りすぎるとアタシたちの管理がおろそかになり、世界が破滅する」
「破滅……」
「空気を入れすぎた風船が爆発するでしょ。あんな感じだと思えばいい」
少し歩いて、上を向くアーミラ。
「で、それに危機感を感じたアタシは、義信の魔人化とエルピスの死神で悩んでいたジークをそそのかした。結果、世界を巻き込む戦争へと姿を変え、彼は自分の力で止めた」
英雄と呼ばれたジーク。だが、実際は自分の手で始めた戦争を止めたに過ぎない。
「なら、止めた理由は何なんだ?」
「何って、それはもう世界の壁が壊れたから、必要なくなったんだよ」
エルピスが「利用した」と言っていたが、こういうことなのだろう。
彼女は知っていた。アーミラを含め神たちはただただ自分たちの行いによって生まれる悲劇をただの人間に押し付け、最後はしっぽ切りのように殺した――これが全貌なのだろう。
怒りが湧いてくる。どこまで人を馬鹿にするのか。
それに気づいたのか、アーミラは
「まぁ怒りたい気持ちもわかるけど、アタシらじゃどうにもできないんだよ」
「なんで?」
「言ったじゃん。アタシらは存在しているが、存在していないって。つまり、本来は干渉できないんだ。ただ干渉できることがあって、例えば真澄の悲鳴によってライラを呼び出したんだけど、これって彼女に神の力があったからだよ」
「神……?」
「まぁ厳密に言えば神ではないけど、城ケ崎真澄は神の存在に近しい人物の血筋である」
「俺が知ってたりする?」
「知ってる。ロバートだよ」
「ロバートって、まさか……」
「ジークと共に旅をしていた人間――それが彼女の先祖さ」
疑問が晴れる。
「あっちなみにブレイヴは初代ドラグネス王国の国王。たぶん居ない者として扱われているから、カルミアは知らないだろうけど」
「まじかよ……」
「超マジだよ。まぁ仕方ないよ、だってジークと共に戦ったんだから、当時はその名前を呼ぶことが禁忌的な扱いだったし」
「はあ」
「そう。だから受け継がれることはなく、ジークという存在をカルミアは知らない」
念を押すようにアーミラは言った。
「他に知ってる人はいるみたいな言い方だな」
「そう聴こえたか。まぁ事実だから否定するつもりはないけど」
で、アーミラは話しを続けた。
「話を戻すと、我々神が管理しきれなくなった莫大なる種族を統一するために戦争を起こした。ただ結果として、それはあまり意味が無かった」
「?」
「アタシとしては2つの世界を繋ぐ管理職になったわけだし、こうして人間と話すことを特別に許可された唯一の神だからなんとも思ってないんだけど、他の人は嫌だったらしい」
何というか、アーミラは一度深く考える。
そして、思いついたのか沈黙の後喋り始めた。
「種族の壁は壊された――って言ったよね。それはどういうことかと言うと、ジークが神の領域まで踏み込もうとしたんだよ。するとどうなるか、自分の家にゴキブリが出た時のことを思い出してほしい。なんて思う?」
「不快」
「そう。神は人間が来たのが嫌だったんだよ。だから怒って、戦争を終わらせた彼ら――特にジークを生かさず、殺さずの状態にするために殺すよう仕向けた。その手先となったのが半分神であるエルピス」
「………」
「エルピスは、自分を責めていたけど、実際は傲慢な神が居たからなんだよね。ほんと彼女には、申し訳ない事をした」
悲しそうな顔をするアーミラだが、海斗を思い出して、元の表情に戻る。
「それから、ジークを逃がすためにアタシはこことまた違う無の空間で閉じ込め、諸星海斗として転生させた。まぁその道中、彼の魂があまりにも大きすぎて世界の扉が開いちゃったんだよね。で、どうなったか。異世界人が数万人行っちゃった」
「はあ」
話が大きすぎる……。
「ジークをそのままにしていたら、地獄の日々を送っていただろうからね。いやぁほんと苦労した。上を説得し、彼を生まれ変わるように何度も話に行って、そのたびには帰され、いやぁ時間がかかった。……たった900年だけど、アタシには2000年の気分だった」
「…………」
「まぁそんなことがあって転生するが、影響は莫大だった。どうやら、異世界人の先祖を持つ人間は特殊な髪色で生まれた。幸いにも、北米? とか、まぁそっちのほうでその多くが生まれたから混乱にはならなかったけど、もしアジアでその多く生まれたら社会的大問題になっていただろうな」
だから真澄の地毛が金色なのかと海斗は、このとき知った。
「ジークが生まれ変わり、転生するまでの話は終わり。今からは、どうしてヤミが生まれたのかを話ししよう」




