決戦――13.魔王カルラート
でも、助けるってどうすれば——考えを巡らせながら、エカルラ―トの猛攻を避ける海斗。
「ジーク。生まれ変わってもなおこうして戦えるとはな。ワレ思わなかったぞ」
エカルラ―トが微笑む。
楽しんでいると言うのか、少しばかりムカつく。
「あぁそうだな」
バックステップで避け、『ドラゴンスレイヤー』を振る。しかし、それは刃がついていないほうで、平べったい面を押し付ける形となった。
「甘いな」
『レイヴの剣』で防がれてしまい、カウンターとばかりに海斗の腹部へと強い蹴りを入れられた。
「……ッ!」
口から涎を吐きだし、2歩後ろに下がる。
彼女に甘えが存在せず、本気で殺す気だ。だからと言って、自分も殺す気で――はできないいくら魔王エカルラ―トと言っても、海斗からすればカルミア・スカーレットだ。一緒に暮らし同居人の異世界人でしかない。
本気で戦えない。
葛藤に苦しめられる。その間、エカルラ―トは猛攻を続けた。臆することなく、ビビることなく、手加減もせず、本気で刃のついた剣を振る。
「…………」
どうにか、どうにかできないか――『ドラゴンスレイヤー』の能力で彼女を呼び起こすことができれば、と考えていたさ中、固い塊が飛んでくる。それはエカルラートと海斗にめがけられており、もし何もしなければ両方当たることになる。
「…………」
咄嗟に彼女の剣を弾いて、前蹴りをした。エカルラートの体は、軌道から外れ石の欠片に当たることはなかった。
しかし、海斗はと言うと
「……ッ!」
少し前に動いたことで、全身を打たれてしまった。
「海斗、申し訳ない……」
隣でロザリオと戦っているロビンがそう言葉を漏らす。
「……大丈夫。なんとかな」
ジリジリとした痛みが迸る。
それでもなお『ドラゴンスレイヤー』を構える海斗。
「…………」
だが、エカルラ―トの猛攻がいつの間にか止んでいた。それどころか、彼女は拳を握りしめ、怒りに震えている。
「なぜ、なぜ庇った……」
「まぁ、だってねぇ……カルミアの体傷つけるわけにはいかないじゃん」
きさま、瞬間エカルラ―トが目の前で消える。
「………」
彼女の姿を探す。そして、視界に入れたころにはもう下に居た。
ただそれは、前にやられたことがある。だから、わかっていた。どうすればいいのかわかっていた。
海斗は振り上げられる『レイヴの剣』を交わし、地面に押さえつけた。
傷つけるわけにはいかないけど、このときは許してほしい、と自分に言い訳しながら行動する。
「お前は、生まれ変わってもなおそうするのか!」
「はぁ? 俺は諸星海斗で、ジークとは関係ねぇよ」
「でも、お前は生まれ変わりなんだろ。その証拠に『ドラゴンスレイヤー』がある。お前はジークだ」
ジークでしかない――彼女の意思の強さが、言葉に詰まっている。話し合いで解決できるとは到底考えられない。
海斗は、『ドラゴンスレイヤー』を手放した。
「えっ」
エカルラ―トは驚き、言葉が詰まる。
それをいいことに、海斗はつづけた。
「俺は、俺だ。日本生まれの日本育ち。界英高校に通う15歳の諸星海斗。900年前の英雄ジークとは関係ない。全て自分の意志で行動している」
空気を吸い込み、まくし立てた。
「前世でどんなことがあったのか知らんが、俺はカルミアを助けたい。そのためには、どうすればいい? 教えてくれ」
彼女の意思が弱まる。
やはりと言うべきか、エカルラ―トもカルミアもどこか精神的にもろい。少し強がれば、すぐに子犬のように丸くなる。
「……それなら、ワレが引っ込むしかない。でも、それだと……」
エカルラ―トが突然絶叫に近い悲鳴をあげる。
「それだとダメじゃないか。お前は、お前のようにやるんだ」
上空に浮かぶ人影。見ると、それはラモンだ。
彼は不気味な笑顔を貼り付け、見下ろしていた。
「何をした?」
「別に。ただちょっといじっただけだ」
下に居たエカルラ―トが暴れ、海斗はつい手を離してしまう。そのとき、彼女は馬乗りとなって、『レイヴの剣』を突き立てる。
「前世との決着付けさせてやってるんだ。真面目にやれよ魔王」
ラモンはそう言い残し、消えた。
「……………」
振り下ろされる『レイヴの剣』。『ドラゴンスレイヤー』を呼び寄せ、ぶつけたことで剣の軌道は外れ、横に着地する。
「…………」
無言のままエカルラ―トが殺すように行動してくる。
狂気であり、暴虐だ。
最初であったころと同じ気持ちになる。しかし、違う所があるのはあのときよりも強い事だ。
海斗は、エカルラ―トを蹴飛ばした。後方へと飛ばされるが、地面に着地し、そのままステップで距離を詰めてくる。
『ドラゴンスレイヤー』を掴んで、全ての攻撃を捌く。だが、今の魔王は迷いが無い。勢いがのり、防げない攻撃が増える。
本当にどうするか――強く念じたそのとき、エカルラ―トの胸元に黒い光が見えた。いや、それは炎と呼ぶべきか。メラメラと燃え上がる黒い炎はまさに魔王を連想させる。
そうか、海斗は理解した。これは魔王の魂で、『ドラゴンスレイヤー』で触れれば破壊できるのだろう。ただそうしたとき、魔王はどうなるのか。彼女も死ぬのだろうか、それとも生きるのか。
わからない。
「…………」
エカルラ―トは悪い人ではないのだと薄々わかっていた。だから、死んでほしくはない。それでも、カルミアを救うためにはそうするしかないのか――悩んでいた海斗の頭に流れる記憶。
「…………」
顔はうり二つで、髪色が黒色の女性――魔王エカルラートなのだろう。彼女は涙を流しながら戦っている。
何かを訴えているようで、悲痛な表情だ。
――なんで、悲しんでいるんだ。
唇を噛みしめたくなる悔しい気持ちが芽生える。
もしかして、ジークはエカルラートも救おうとしていたのではないだろうか。でなければ、エカルラートの涙を流す理由が見つからないからだ。
けれど、失敗して、救うことができなかった。
記憶から感じる悔しい気持ちが今でも響いているし、戦うことになっている。
なら、次に持ち越さない方法は、これで終わらせる方法は、エカルラ―トを殺して、カルミアの魂を全面的に出すしかない。
「…………」
決心がついた。
『レイヴの剣』が1筋の黒い光となって放たれる。それを交わし、黒く光る炎――エカルラートの魂を『ドラゴンスレイヤー』で突く。
『レイヴの鎧』にヒビが入り、少しばかり血が垂れる。と、同時に黒い炎が割れ、白く光る。
「………」
エカルラートの証でもある顔の模様は消え、いつもの彼女――カルミア・スカーレットへと変わる。
「………海斗?」
カルミアは腰が抜けたのか、力なく前傾姿勢で倒れる。地面に付く前に抱えた。
「戻ったのか」
エカルラ―トの炎が見えない。つまり、魔王は消えたのだろう。
「大丈夫か?」
海斗の声掛けにカルミアが縦に頷く。
「ワレは、一体何を……」
「大丈夫。大丈夫だからな」
本当のことを言うべきか迷ったが、答えないことにした。カルミアのために、そして、エカルラートのために。
「………」
ロザリオとロビンが戦い、ライラと真澄がユイを抑え込んでいる。
どちらに行くべきか、距離的にロビンが近いから彼にしよう。
カルミアを背負い、近くの居酒屋の扉を蹴って壊した。
「カルミア。ここで休んでろ」
本来であれば近い所に置いていたいが、それだと戦いに巻き込まれてしまう、と考え、少し離れた位置にカルミアを隠した。
「傷……どうしよっか」
胸元から流れる血を考えていると、
「これは自分で治すから、海斗はロビンたちを助けてくれ」
でも、と言いかけたが、自分ができることは何一つない。戦う事しかできないのだから、ここで出しゃばれば余計に時間がかかり、取り返しのつかない事態を招きかねない。
海斗は、たちあがる。
「……わかった」
気を付けて——カルミアの言葉を背に、海斗は走る。
ロビンを助けるために。




