決戦――12.集合
「契約者様の願いを叶えてあげたのに……どうして悪者になるのか」
困っちゃいますね、と言ったのはラモンだ。
彼は尖った牙を見せる。
「どこが叶えったって言うんだよ! ユリは俺に手を差し伸べていたじゃねぇか。助けを呼んでたじゃねぇか」
「そこなんだよ。生まれ変わり」
この際、触れることはしない。
「ユリは手を伸ばした。それはつまり、誰かに掴んでほしかったと言うこと。だからその願いを叶えるために、腕を生やして、掴んであげたんだ。それも大量の腕で」
悪魔だというだけあって、身震いするほどに嫌悪感が湧く。
「掴める手は多ければ多いほどいい。安心感がある。そうだろ、生まれ変わり」
「だとしても………あれだとユリは死んじゃうじゃねぇか」
「死んじゃう? あぁ」
ラモンは顔の近くで手を広げる。
「アイツは、もう死んでるよ」
「えっそれじゃあ……」
そこで気付く。
ユリの首を切り落としていることに。
「………」
じゃあ最初から死んで居たと言う事だろうか。
海斗の中で浮かぶ疑問を読んだのか、ラモンは喋り始める。
「オリジナルのユリはとっくの昔に死んでいるのさ。そこにいるユリは、ドール――死体なのだよ。それも赤の他人の」
「じゃ、じゃあなんでユリと同じなんだ」
「作り変えた――ただそれだけ」
眼鏡を外し、眉間をつねった。
「ついつい喋りすぎちゃった。契約者はちゃんと選ぶべきだなぁ、その人の人格が移っちゃうし」
さて、眼鏡をかけ直したその瞬間、指の先から棘が伸びる。
いや、よく見るとそれは爪だ。まるで串のように尖り、剣のように長いそれは初見だと判断できなかった。
「さて、生まれ変わり、そろそろ始めよう――契約者の続きを」
「ウゴオオオオオーーーー!!」
ユリが変わり果てた化け物は雄たけびを上げ、海斗に向かって走ってくる。
「……ッ!」
『ドラゴンスレイヤー』で切ることを考えたが、彼女の記憶が流れて、戸惑ってしまう。そこでユリは後回しにして、まずは上空に居る悪魔と戦うことを決意した。
だが
「俺に向かってくるなんて、自信あるようだ。嬉しいねぇ♪」
見透かしていたようだ。
「…………」
いや、だからと言って怯むわけにはいかない。
『ドラゴンスレイヤー』を力いっぱいに握りしめ、ジャンプする。目的は空に浮かぶ1人の悪魔。
海斗とラモンが同じ高さになる。剣先が届く距離だ。『ドラゴンスレイヤー』を振り下ろした。
「……ッ」
――切っていない……?
ラケットでボールを叩いたような感覚があった。
やつは生きている。
下から立ち上る砂煙を観察しつつ、地面に着地し、構える。
「まいったなぁ」
砂煙の中に浮かぶ影は、パタパタと服を叩いていた。
「汚れちゃったじゃないか」
眼鏡をクイっと上げ、海斗を睨みつける。
「………」
予想通り彼は生きていた。
悪魔といい、魔物といい、彼らを倒すには一筋縄ではいかないようだ。
瞬時に距離を詰める海斗。
「オラぁ」
『ドラゴンスレイヤー』を振り回しつつ、相手の出方を伺う。
ラモンは身を横にして交わしたり、爪で攻撃を流すばかりだ。
ならば――悪魔の胸部に蹴りを入れる。
くの字に体を曲げたところに首に目掛けて肘を打ち込んだ。
「………」
義信のときは何もできなかった。だが、今はできている。
『ドラゴンスレイヤー』でラモンの体を貫いた。
「……ガハッ!」
口から血を吐き、倒れ込んだ。
辺りには湖のように血が広がる。
ここまで出血するのであれば死んでるとは思えるが、念には念を。
『ドラゴンスレイヤー』で刺そうとした瞬間、
「英雄殺しを贄に貰ったんだ。これぐらいじゃ死なないよ♪」
周りの血がラモンの体に戻される。逆再生のように彼の体が修復され、悪魔は立ち上がった。
「次は、俺の番だ♪」
ギザギザに輝く歯を見せる。瞬間、伸びた爪で海斗の体を切りつけた。
攻撃が早く、防御ができない。かろうじて、体を後方に下げることで致命傷を避けることができた。
「………」
ラモンと海斗が距離を置く。
そのときだった。
「ブラック・ショット!」
その声と共に空から降ってくる4つの黒い影。しかし、それは地面を突き刺し、明らかに海斗を狙っている。
「………」
名前と声は知っていて、聞き覚えがある。ただそれは信じたくないし、視界にも入れたくならない。
だが、視界に入れないと次の行動が見れない――苦渋を舐める思いで、空を見上げる。
「カルミア……」
金色の髪を持ち、赤い瞳を輝かせるドラグネス王国の王女――カルミア・スカーレット。ただ顔に炎を連想させる紫の模様が浮かんでいる。
別人か、そう考えた彼の考えを見透かすようにラモンが
「生まれ変わりが想像した通り、彼女自身だよ」
と教える。
「……な、なんで」
声が上ずる。
裏切られた――『ドラゴンスレイヤー』の剣先が地面に向く。
「彼女は、900年前の魔王――エカルラートの生まれ変わりだ」
天を仰ぎ、大笑いをする。
「ただそれだけじゃない。魔獣ロザリオ!!」
黒い影が落ちてくる。
「……ッ!」
まるで鬼のようで、もし桃太郎に出演していれば一行を全滅させていただろう、と思わせる威圧感だ。
「彼もまたジークに倒された」
「……そんな」
魔獣ロザリオの正体がわかってしまった。
『ドラゴンスレイヤー』を介して頭に流れるある人物。それはマリーだ。
「どうして」
なんて疑問は風と共に消える。そのかわり、現れたある声。
「立て、海斗」
振り向くと、そこには3人の人影が月に照らされていた。
1人目は、弓を手に持つロビン。2人目は、杖を持ち金髪となった真澄。3人目は、お初だ。青色の服を身にまとう青の髪の女性は、異世界人だ。
「お前、海斗なんだろ。カルミア様のこと守ってくれてありがとな。感謝してるぜ」
その喋り方から、彼女はジークの生まれ変わりだと知らないようだ。つまり、900年前の人間と接点が無いと考えていいのだろう。
「あぁ自己紹介がまだだったな。オレは、ライラ。カルミア様と共に戦っていたただの騎士だ。よろしくな」
「えっと、よろしく……」
彼女はどうも苦手だ。なんというか、喋りにくいと言うか、近づきにくい何かがあった。
「お喋りはそこまでにしろ。敵が来る」
ロビンの指揮と共に、三人が構えた。
真澄は戦えたのだろうか。彼女にそんな力は無いように思えるが。
「………」
ただ真澄は臆することなく、杖を構えている。怖くて逃げだしてもいいはずなのに、戦う決意を持っていた。
それなのに、自分が間抜け面で疑問を抱えているのはどうか、と海斗は考え向きなおし、『ドラゴンスレイヤー』を突き立てる。
「オレは、戦わないけどね♪」
ラモンは闇夜と姿が同化する。
「待て!」
ロビンの訴えを無視して、見えなくなってしまった。
残された元ユリ、ロザリオ、エカルラ―ト。彼女たちを倒すのではない。救うための戦いへとシフトされた。




