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決戦――11.ユリ

 アンデッドがじっと固まる。まるで時間が止まったかのように、海斗を取り巻く全てのものが動かなくなった。

 最初、カルミアと出会った時を思い出す。あのときも同じように心の隙間に入り込んで、殺されないようにしていた。

 昨日のように覚えている記憶から抜け出して、いま目の前に立っているクロユリと対峙する。


「お前、ジークと一緒に行動したユリなんだろ」


 もう1度言った。

 今度は、彼女だけに向けて。


「そんな……わたしは、わたしは……」


 クロユリ――その言葉はか細く、聞こえるか聞こえないかギリギリであった。

 

「いいや、違う。その黒い髪に黒い瞳はジークと一緒に旅をしたユリだ」


 頭の中に流れる記憶は、ジークのものだ。どうやら『ドラゴンスレイヤー』を介して流れてきてるようだ。

 過去の彼女は、笑っていた。それも高貴に美しく、まるで花のような笑顔を浮かべている。

 まさか目の前にいる相手と同一人物だなんて信じられないが、『ドラゴンスレイヤー』から伝わる気持ちがそう告げていた。

 彼女がかつての仲間だと――悲しそうに訴えている、と海斗は感じとる。


「ユリ……ユリ……」


 荒く息を吐き、顔びっしりに汗をかく。そして、苦痛の表情のまま海斗を睨みつけて、否定し続けていた。

 

「違う!! わたしは、クロユリ!! ユリじゃ……ない」


 その瞬間、瞳から動揺が見えた。それはなんとなくだが、海斗も気づいていた。

 いま彼女の目に映っているのは、確かに海斗である。しかし、黒い瞳に映っているのは、英雄ジークだ。つまり、クロユリがいま見ている現実は、思い出である。それを『ドラゴンスレイヤー』に介した海斗が見ている。

 だから何を見ているのかわかったのだった。


「あぁジーク。そこに……」


「………」


 クロユリの笑顔が、ジークに向けたものと同じになる。


「ごめんなさい。わたしは、あなたを生き返らせたかったの。だって、だって、あなたの事が好きだったから」


 ある情景が浮かぶ。大きな木の下、聖母のような純潔を纏ったユリが涙を流している。肩を揺らし、顔を隠し、黒くて長いストレートの髪を下に垂らして、大声で泣いていた。


「…………」


 胸がつらくなる。あまりにも残酷で、報われないその気持ちに同情が増す。

 ジークも同じような気持ちになっていたのか、海斗はわからない。ただ張り裂けそうな気持を彼も抱いていたのだろう、とは感じた。


「わがままなのはわかっているけど、わたしをまた昔みたいに仲間と言ってくれるかしら」


 海斗――自分の名を呼んでドキッと心臓が跳ねる。何かしたのか、と考えたが、自分は何もしていない。

記憶と同じ顔になるクロユリ。いや、そこにいるのはもうクロユリではない。ユリだ。前世のジークと一緒に冒険し、彼に思いを寄せている1人の女性だ。


「…………」


 心の中で彼女を許す気持ちが芽生える。

 ただそれと同時期に許すべきではない、という自分もいた。

 どうするか瞬時に考えた。

 そして、


「きっと言ってくれるだろうな」


 許そうと思った。カルミアにしたことは、許せることではない。けれど、それを裁くのは自分ではない。彼女を思うならば、気持ちを汲むならば、いまここで切るべきなのはわかっている。でも、自分にはそれができなかった。

 いまそこにいる彼女がクロユリではなく、ユリだからだ。


「フッ……」


 自分が答えたとき、彼女はクスっと笑う。


「それだといいな」


 両目から涙を流して泣いていた。けれど、報われた――そう言いたげな雰囲気も纏っている。

 これで終わり――そう確信したそのとき


<終わらせない>


 突如としてどす黒い声が辺りを響かせたその刹那、ユリは喉を抑え苦しみ始める。


「ウッ……ウッ」


 前傾姿勢となり、大きく開けたその口で酸素をかき集める。肺いっぱいに集めたのか、胃が大きく膨らんだ。

 だが背中を冷やす気持ち悪さがある。大きく膨らんだお腹をモゴモゴと蠢く何か。


「だ、大丈夫か……」


 微妙に距離を取りつつも、彼女の心配をした。


「か、海斗……助け」


 ただ彼女のその言葉、その声音から危険を察知する。

 すぐに駆け寄る海斗。それに応えるようユリは手を伸ばした。

 まさにそのときだった。ユリは体を上に伸ばし、目をかっぴらく。そして、苦しい声を空に吐きだしながら、現れたのは1本の腐った手。それは彼女の口からキノコのように出てきたのだ。


「……アガッ」


 自分の喉から手が出たことに驚いたのか、声が出ていない。

ただ手はお構いなしに、2本、3本とユリの喉から出現し、海斗に向けて伸ばしたその手を掴んで包み込む。


「ユリ!!」


 彼女の名を叫んで、手を伸ばす。

 ユリは泣きながら手を掴もうとするが、その手を腐った手が掴んで紛れ込んでしまい、手はおろか彼女自身も触れなくなっていた。

 

「ユリ!」


 もう一度叫んだ。

 こんどは、『ドラゴンスレイヤー』を握りしめて。

 だが、


<無駄だ>


 一瞬にして後方へと吹き飛ばされる。


「……ッ!」


 建物に背中を叩きつけられ、苦しむ。

 一瞬怯んだ間に、今度はユリを中心として辺りに居たアンデッドが彼女を取り囲む。ぺったりとくっつき、吸収されていくアンデッドたち。まるでそれが理のように、躊躇なく彼女に自分の身を捧げて行った。


「ンンー! ンン!」


 ユリは暴れ、逃げようとするが、彼女の口から出る手によってその行動は叶わない。

 海斗は立ちあがって、走った。彼女に吸収されるアンデッドを切って、切って、切りまくった。

一心不乱に、無我夢中で。

 だが、数が多すぎて、全てを切ることはできず、どんどんどんどんユリの体積が増えていく。ぶくぶく太って、気球のように大きくなったころにはもうアンデッドは姿が消えていた。全て、彼女の体に吸収されていた。


 手を吐ききった彼女は、涙を流しながら


「助けて、海斗……」


 と言葉を最後にして、手に埋もれた。


「ユリーーッ!!」


 助けることができなかった。

 彼女の最後の顔が脳にこびりついて、逃げられない。


「…………」


 悔しさに明け暮れている暇はない。球体の肉塊は動いた。中から突き上げながら、その姿が変わっていく。

 体長は3メートルと言ったところか。4本の腕、2本の足、首からなめくじのような2つの顔を持つ化け物となる。


「さて始めましょうか」


 上からシルクハットの男性が降りてくる。ギザギザの牙を唇の間から見せ、眼鏡を指で押し上げる。

 彼もまた異世界人だ。

 いや、人間なのか――疑問を思い浮かべる海斗に向けて、


「ユリと契約した悪魔――ラモンだ」


 ご丁寧に自己紹介をしてくれた。

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