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決戦――09.縋り

 風切り音の中に聞こえる金属の音を中央に、アンデッドたちが囲んでいた。

 まるでそれは、闘技場である。


「……ッ!」


 鞭は手のように縦横無尽に動き回り、近づくことができない。


「海斗! お前を殺して、ジークを解放する!!」


 とうとう鞭の姿を目で追うことができなくなり、背景と同化する。

 しかし、振る音はしっかりと耳で補足していた。


「あぁジーク。待っててね」


 艶のある声を出した瞬間、音が一瞬止まる。


 ――今だ。


 体を斜めに逸らすと、鞭は真っすぐに伸びた。場所は心臓だ。本当に殺す気で彼女は振るっている。ただそれは海斗も同じだ。支配されている感情がそう思っている。

 伸びた鞭を掴み、腕に巻き付けた。そして、力いっぱいに引っ張る。


「あっ」


 クロユリは間抜けな声を出し、前傾へと姿勢を崩した。

 そこを手に持っていた『ドラゴンスレイヤー』でぶった切る。狙いは首――ここを切れば生き物が死ぬ、と海斗は知っていたからだ。

 はねられた首は宙を2回まわり、地面を転がる。生気のない目が海斗を捕らえ、首が無い体が膝から崩れ落ちる。

 黒い液体を切断部分から流し、地面を染めた。


「終わり……か」


 戦いに勝った。やったんだ、と怒りの感情が鎮まる。

 だが、


「………?」


 ポタポタと垂れる液体と胸に広がる熱。

 これは一体なんなんだ、と顔を下におろしたときゾッとした。

 胸を貫く鋭い何か。槍のようにも見えるが、しかし、それは槍と呼べない。刺しているものが細くて薄いのだ。そして、なんと言っても赤い。

 見覚えがある形だ。


「……グッ」


 口から血を吐き、自然と力が抜ける。ぼんやりとする視線のまま地面に座り込み、荒い呼吸を繰り返した。


「わたし死んでるから死なないんだよ」


 へへっ、後方の声へと振り向くと、そこには首だけとなったクロユリの開いた口から、何かが伸びている。

 それは舌だ。味覚を感じるために備わっている舌が、海斗の体を貫通させていた。


「ヒャハハハハハハ」


笑いながら海斗の胴体から舌を抜く。血が両側から流れ、全身に熱が伝わる。


「ジーク。もうすぐだ。もうすぐ貴方と出会える」


 首のない体が起き上がり、クロユリの頭を掴む。切断部分に合わせて、くっつけたのだ。

 ぴったりと、綺麗に切れ目が無くなる。

 カツカツと音を立て、海斗の前に立った。


「じゃあ始めようか」


 ジーク、クロユリは海斗に恍惚な笑顔を向ける。しかし、それは中に眠る英雄に向けたものだ。


「………」


 手にもつ鞭を地面に叩きつけるクロユリ。

 しかし、それが恐怖になることはなかった。魔人のときと比べれば、足元にも及ばない。


「諸星海斗。死んで」


 鞭は弧を描いて伸びるが、体を横にずらした。行き場を失った鞭は顔の横をかすめ、そこを『ドラゴンスレイヤー』で切り落とす。


「まだ死ぬわけにはいかないんだ」


 ぽっかりと胸に空いた痛みを堪えて立ち上がる。アドレナリンのせいなのか、それとも怪我に慣れたからなのか、海斗は平気な表情であった。


「死んでもいいはずなのに……」


 クロユリが一歩後ずさる。


「どうして、どうして死なないのよ! あと少しなのに!」


 血相を変え、怒鳴りつける。


「死にたくないからに決まってんだろ」


「そんな理由で……」


 クロユリの顔の半分が笑顔で埋まる。

 不気味だ。


「なら、生きる理由を全て壊せばいいんだね♪」


 アンデッドの動きが変わる。今まで円となっていたのが、突然動きだし、隊列が乱れる。どこに行くのか、その先を目で追い、息を呑んだ。


「そっちの方向は……」


「そう王女様がいるところ♪」


 高くジャンプするが、足を掴まれ、地面に叩きつけられる。

 頭を手で抑えたことで致命傷は免れたけど、それでも十分なダメージであった。

 口から血を吐き、仰向けに倒れた。


「やめろ」


「どうして? わたしからすれば、どうでもいいもの。ジークに会えればいい――ただそれだけなのよ」


 不気味な笑みをこぼすクロユリ。

このままならカルミアと真澄が死ぬかもしれない。焦りが塵のように積もっていく。


 もし自分が英雄の生まれ変わりなら、その英雄は何をしたのか。英雄はどういった行動を起こすのか。

 自分の中に眠る英雄へ縋った。諸星海斗としてではなく、ジーク・フリングルスに問いかけた。

 まさに、そのときだった。クロユリの背に、突如として黒いものがぽっつりと浮かび上がる。

 暗黒と言うべきか、暗闇と言うべきか、まるでブラックホールのようなそれは、海斗の赤い瞳を釘付けにし、吸い込んで行った。


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