決戦――07.毒
パリン!
甲高い割れた音と共に颯爽と入る海斗。
「やっと来たね」
地面に横たわる2人の少女は手と足を縛られ、顔の下半分を布で隠されていた。
その後ろに立つ女は、見覚えがある。大事な部分だけを隠した黒の服、黄色の結膜、ツインテールの黒髪はあのとき、美術館で会った人物だ。
海斗は、彼女の存在を報告していないのだ。すっかりと忘れていた――それしかない。
「何時間ぶりだろうね」
手で口を抑え、ひゃはははと笑い声をあげる。
「あぁ英雄ジーク。そんなただの人間になって……。今すぐ解放してあげるよ」
絶望してね、左に横たわる少女——真澄へと手を伸ばす。
「止め……!!」
ろ……。
その言葉は言い終えなかった。
海斗は体勢を崩し、地面に倒れ込んだ。
全身がビリビリと痺れ、力が入らない。
「『ドラゴンスレイヤー』を持っていても毒は効くよね。よかったあのとき体を舐めておいて♪」
体を調べていたというのか。
そう言って女は舌を出した。
手は、真澄の布に触れている。
スッ。
結び目をほどかれ、布は床に落ちた。
瞬間、
「ンッ!!」
首を掴んでもがき始める。足をジタバタ動かし、白目をむきながら泡を吹いた。
「………!」
真澄を助けようと海斗は動くが、動けなくなっていた。
毒——それも『ドラゴンスレイヤー』によって上げられた身体能力でさえも消すことができない、猛毒だ。
真澄を助けなければならないのだが、助けるための行動ができない。強くなったと思っていたが、毒には勝てなかった。
「次は、王女様だよ」
カルミアが必死に拒絶する。しかし、体の自由は奪われ、できることとすれば精々顔を動かすのみだ。
「あんまりジタバタ動かないでよー」
顔を踏みつけ、自由を制御する。
本当にどこも動けなくなっていた。
「や……め………」
ただただ見ている事しかできない海斗。必死に声を発するが、それは弱く脆い。
女は耳に手を当て、
「声が小さくて聞こえない」
と茶化した。
何もできない無力さに苛まれ、その光景から目を離そうとする。
しかし、
「今から絶望してもらわなきゃ困るんだから、目を逸らさないでよ」
女の右目が異様に大きく開いた。
瞳と視線が合う。
外すという行動が奪われ、カルミアに釘付けとなっている。
「ちゃんと見てるねー。魂の解放を早めるには、これが一番最適だから」
ちゃんと絶望してね、上がった口角が顔の半分を埋める。
そして、ついにカルミアの布を取った。
「ングッ!」
真澄と同じく、彼女もまた苦しみ始める。喉を抑え、バタバタと足が動く――ここまでは一緒だった。しかし、突然、カルミアの口から吐しゃ物をまき散らし、目から血の涙を流し始める。
症状が明らかに違う。
何をした――という言葉が吐けず、かわりに睨みつけた。
「王女には、少し毒を流させてもらったよ」
人差し指で口を開き、尖った犬歯を見せる。そこから1滴、2敵とぽつぽつ垂れる水滴があった。
「これを流し込んだから毒の効果が増幅され、彼女は苦しんでいる。理解したかな?」
「………」
頷くことはできなかったが、女は察したようで「それならよかった♪」と言ってルンルン気分のようだ。
このままじゃどうにもできない――目の前で大切な2人が苦しんでいるのを黙ってみている事しかできない自分に嫌気がさす。
あの特訓は何だったのか。
強くなったと思ったが、全然そんなこと無かった。
悔しさに苛まれたそのとき
「れ、『レイヴ』……!!」
苦しんでいるカルミアが叫んだ。
「バカな王女! 叫んだって来はしないさ!!」
キャハハハハ、と笑っていた女が突如として顔の表情を変える。口をぽかんと開き、目を真ん丸大きくさせる。そして、その目の前に起きている現実を受け止められず、思考が停止しているようだ。
それもそのはず
「カルミア……ありがとう」
彼女が言った『レイヴ』は、腕輪の事ではない。
マリーが修復していたヘルメットの事である。
光となって飛んできたヘルメットが海斗の頭に装着された。その瞬間、体から毒が抜け、痺れが無くなる。それだけではない。全身の自由が効き、戦うことが可能となったのだ。
「クソが!!!」
女は絶叫に近い声を発し、しかめっ面となる。
「やっぱ今のアンタ嫌いだわ!!」
カルミアの腹を強く蹴る。
「ウッ!」
蹴られた彼女は口から血を吐き、腹部を抑えてうずくまった。
「……ッ」
血の流れが速くなり、鼓動が強く叩かれる。
怒り――海斗の心を、体を支配している感情だ。
『ドラゴンスレイヤー』を構え、強く睨みつけた。
「お前を絶対に倒す」
最終決着の火ぶたが切られる。




