決戦――06.魔獣ロザリオ《後編》
「さて、仕事しますか」
最終兵器――魔獣ロザリオが解き放たれた。
ロザリオは、目の前にいるアンデッドを睨みつける。
「あぁめんどくせぇ。なんで俺はこんなことしなくちゃならねぇんだよ」
全く、900年前は世界を終焉にもたらす最高の魔獣として崇められていながら、恐怖の象徴として人々から恐れられていたのが、今じゃただの人間――139年も生きる女の中で生かされていた。
「さっさと解放すればそんなに苦しまなかっただろうに。バカだなお前」
(アンタが何するかわからないからよ)
マリーはロザリオが大嫌いだ。もし彼が居なければどれだけ自分は幸福な人生を歩めたのだろうか。
マリーは、魔獣を閉じ込める器として生かされたことによって生まれた問題。
夢を持つことが許されない。
人生が固定されている。
900年間ずっと受け継がれていた器を、たまたまその日に生まれたマリーに押し付けた。
どうしてこうなっているのか――きっとあの儀式をしていた人たちもわかっていないだろう。
「今じゃ従順な子犬だっつーの」
適当っぽく、冗談っぽく、ロザリオは言った。
「で、あいつらを殺ればいいんだな」
(そう)
「楽勝だぜ」
「俺が来たからお前らの好きにはさせねぇよ」
英雄ジークと渡り合っただけのことがあって、脳と力がない腐肉の塊をいとも簡単に砂へと変化させる。
全てが900年前から変わらない強さ。
恐ろしい、闇の中でその光景を見ていたマリーが言葉をこぼした。
「…………」
ロザリオの足をスコットが噛みつく。しかし、
「効かねぇな」
肉に侵食する前に、歯が折れてしまう。
そのままロザリオは、スコットの頭を踏み潰した。まるで虫を踏むようになんの躊躇もなく、さも当然のように、足の裏で砕いた。
「………」
マリーの口から言葉が漏れない。ただそれでよかったかもしれない、と考える。
「…………」
ロザリオはとにかく暴れ、次々と殺していく。元々死んでいるただの肉塊をさらにグチャグチャに、粉々に、機能しなくなるまで潰した。
だからなのか、アンデッドたちの行動が少し変わる。今まで1人1人の単独行動であったが、今は集団行動へと変化していった。
しそれは1か所のゴールを目指して突き進むと言うものだ。
(行動が変わってる。気を付けて)
「あいよ」
返事をした。しかし、見てる限り一切変化が見当たらなかった。魔法を使い、己の肉体をフルに活用し、破壊活動をしていく。
(……わたしの話、きいてた?)
とうとうマリー本人からそのような言葉が飛んでくる。
せっかく楽しんでいたところなのに、邪魔されたからロザリオは不機嫌となった。
「言われた通り、気を付けてんだろ」
どこが、マリーの目から見て変わってなどいない。むしろ破壊が余計に進んでいるように見えた。
だが、ロザリオ本人は変化を加えて戦っているつもりだ。
それは、魔法による遠距離攻撃を加える――というもの。それまでは己の肉体で、筋力だけで、好き勝手暴れ回っていた。ただマリーから言われた「気を付けて」からは、魔法による攻撃を新たに加えた。それによって、遠距離からの攻撃が増え、アンデッドの行動が1目でわかるようになっている。
本人にしかわからない変化。あるいは、攻撃だ。
そうこうしているうちに、戦いを終えたのか、ロビンがやってきた。彼は浮遊し、暴れているロザリオを見下すようにして見ていた。
「よぉ坊主。元気だったか」
「この惨状を見るまでは」
「……相変わらずつまらねぇやつだな」
空中に浮いているロビンが辺りを見渡し、そして、見つける。
「アンデッドが向かっている先は、まさか……団子屋!」
それは、カルミアと真澄が捕らわれている場所。
「毒の発生源もあそこだ。おい、ロザリオ」
破壊を楽しんでいる所、今度はロビンに呼び止められる。
「いまオレはいいとこなんだよ。邪魔するな」
「人の生き死にがかかっているというのに……お前ってやつは」
まぁいい、ロビンは勝手に喋り始める。
「『GI06』はどこにある?」
「『GI06』? なんだよそれ。番号じゃわかんねぇよ」
「あぁえっと、『ハイルくん』だ」
「『ハイルくん』? あぁあれか。知らん。出てきたときには無かった」
「なんだよそれ」
「なら、マリーにきけ。早く!」
「わかったよ。『ハイルくん』はどこにあるのかってさ、マリー」
(『トベルくん』に引っかかっている)
空中を浮遊する箒の先に、紫のボストンバッグがあった。
「あそこにあるってさ」
ロビンに知らせると、すぐさま彼はそこまで飛んで行く。
ロザリオはそれからまた暴れ回った。
「俺が最強だ」
と、決め台詞を吐いたころには終わりが見えていた。数が減り、あとは適当に空から魔法を放てば終わり――そう感じた瞬間、何者かが背後に立つ。
ただならぬ気配と聞いたことのある息遣いで、本能的に距離を取った。
「…………」
今まで暴れ回っていたロザリオが下がるぐらいだから、只ならぬ者だとマリーは直感する。
「久しぶりだから、よく顔を見せろよ。ロザリオ」
「その声は」
黒のシルクハットが特徴の男性――悪魔ラモンだ。
姿かたちは人間と変わらない。まんま一緒だ。しかし、彼は悪魔だ。それも、人間を模倣した厄介なタイプ。
「なんで、お前がここにいる」
ロザリオの引きつった声は、初めて聴いた。
(何者なの?)
「………」
ロザリオは答えない――いや、答えられないのか、ずっとラモンに目が釘付けとなり、離れない。
「久しぶりの再会だから、歓迎してくれよ」
「一昔前ならしてた」
ラモンにめがけて拳をぶつける。
「……ッ!」
頬が凹み、歯が四方八方へと砕けた。
「いってぇなぁ!!」
ロザリオの首を掴んで、地面へ叩きつける。
「でも、昔と変わってないようで安心した」
マリーが見ている映像に、ラモンの目が映る。血を思わせるほどに、赤い。ずっと見ていると、目の奥にある凶暴性に呑まれ、自分自身を失いそうになった。
「…………」
だからなのか、ロザリオはマリーとの意識を切った。彼女まで影響が及ぼさないように、自分が見ている光景を黒くした。
(ロザリオ!! ロザリオ!!)
見れなくなった黒い空間で、マリーは叫んだ。
(大丈夫なの。お願い返事して‼ ロザリオ)
「…………」
言葉が返ってこない。
どうなったのか――身を抱きよせて、不安を押し殺す。
彼なら大丈夫、と言い聞かせながら。
――――――
「中の人まで届かなかったか」
惜しい、舌打ちをするラモン。
「まっロザリオが味方になったし、問題ねぇか」
隣に立つ魔獣はだらんと力なく立っている。
彼の洗脳に成功したラモンは、にやっと笑顔を見せ、
「さぁ次のステップに行こうじゃねぇか♪」
目指すは団子屋。
ラモンは歩いてそこまで向かった。




