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決戦――05.魔獣ロザリオ《中編》

 毒を防ぐため、口と鼻を布で防ぐ。

 それから、マリーはステッキで石ころを触れる。すると石ころは数が増え、地面の上を転がした。

 何も考えてないアンデットは一切警戒せず、そのまま歩いた。石ころの上を瞬間、爆発した。

 それは『GI20』——『バクハツくん』である。ただの石のような形をしているが、実は爆弾で、中に爆薬が込められている。点火させる必要が無く、地面を転がる摩擦が熱となる。スイッチは簡単で、ある一定の重量が乗っかれば爆発する仕組みだ。

 ただの腐肉の塊となったアンデッドは、砂となる。

 ただデメリットもあり、それは黒煙の量が多い事だ。実際に今のマリーは、『バクハツくん』によって生まれた黒煙によって、視界がジャックされている。

 黒煙が空に消えるまで数十秒を要し、いつの間にか視界が晴れた。スコットのアンデッドは、足が吹き飛んでいるもののまだ動いている。両腕を使って、のしのしと地面を這って進む姿から彼の面影が見えない。

 これ以上、死体を傷つけるのは死者の冒涜に近いので、したくはない。けれど、しなければ彼は一生アンデッドとして生きることとなる。


「ごめんね」


 あのとき――マリー、ロビンを庇って戦っていた彼の雄姿が爆発と共に脳裏へと焚かれる。

 過去は戻らない。ボストンバッグに手を伸ばし、『ススムくん』を掴んだ。ただそれはあと1枚しかない。


「………」


『フエルくん』でそれに触れるも、増設されなかった。


「どうして……!」


グリップ部分を見て、あぁなるほど、と理解する。

さっきの『バクハツくん』が最後のエネルギーだったらしい。たった1枚で戦うのことはできない。いや、できたとしてもまだまだ残りのアンデッドがいる。彼らを倒さなければ、勝機は薄いだろう。

ロビンが来るまで待つべきか――いや、それだと。

考えが頭にめぐり、思考の迷宮へと誘われる。

 戦闘向けの『GI』は使い切っているこの状況。まさに絶体絶命だと思われた。しかし、そのとき


「いや、1つだけ可能性があったわ」


 それが何か――魔法だ。

 ロビンやカルミアと言った異世界人が常時使える特別な力――魔法。

 ただ使うわけにはいかない。ある一定の条件を産まなければならない――マリーは一瞬だけ迷った。本当にそれでいいのか、これが正解なのか、と自分に問う。

 戦場の迷いは、死への第一歩だ。

 

 マリーは全身の力が一瞬抜ける。なんとか立つことは保てたが、危うくころぶところであった。

 ただその刹那、それが命取りとなった。

 上空を浮かぶ鳥型のアンデッドが鋭いくちばしを立てて、急降下に落ちてくるのだ。

 肉体が腐っていたからなのか、くちばしは胴体を貫かず、彼女の体にぶつかるだけだった。

 ただそれでも痛い――鈍器で殴られたような痛みがズキズキと精神を叩いた。

 悩んでいる暇はない。やるしかないのだ。

 マリーは降参する。


「もう好きにして。ワタシの負けよ」



 その言葉と共に、帽子が紫色に発光し、大きな紫色の魔法陣を出現させた。その中には3つの円があり、外側を第一次防壁、2番目は第二次防壁、三番目を最終防壁と呼ばれている。最終防壁には獣が描かれており、それは2足歩行の生物だ。頭には山羊のようなくるっと巻かれたツノに顔は鬼、足は牛で尻尾は狼の未知なる生き物であった。あとは異世界でも、現実世界でも、どこの世界にも属さない文字が第一次、第二次に書かれているのみ。


 マリーは両手を握りしめ、目を瞑って、唱える。


「ル・ラヒケ・モ」


 魔法陣の外側部分がまずは消え去った。

 しかし、それだけではまだまだ足りない。次は第二次防壁の解除へと手を進める。


「ル・イカホ・ジュウマ」


 第二次防壁がガラスのように砕ける。

 あとは最終防壁が残された。

 その瞬間から声が頭に響く。

「解放しろ、解放しろ」と女、男、少年、老婆、様々な年齢の声音が混ざり、不気味だ。

 怖い、怖い、全身が震え、いつしか血の涙が流れるようになっていた。唱える声は震え、心臓が今にも張り裂けそうな勢いで鼓動を強く打ち続ける。

 それでもやるしかない――今はこれしか手が無いのだから。

 マリーは決死の覚悟で、その言葉を口にする。


「魔獣、ロザリオ」


 最終防壁が赤く光った。瞬間、それはねじれドリルのような形になったかと思えば、マリーの体に入り込んだ。

着ていた紫の服が彼女の肌から自然と外れ、あらわな姿を見せる。しかし、それは人間ではない。マリーの服に隠されたその素肌はまるで着ぐるみのような黒い毛が胴体を覆いつくし、腹部には大きな赤い目が開き、ギョロギョロと動く。


「ウゥ、ウゥ!」


 奥歯を噛みしめ、苦しみもがき始める。全身に響き渡る痛みは、内側から響いている。ドン! ドン! と扉を叩くような力強い激痛が痛覚を支配する。


「わ、割れる……!」


 そのとき、彼女の体がその言葉通り割れた。斧で切られた丸太のように、ぱっかりと縦に割れ、その中から大きな獣が姿を現す。

 ひづめを持った細い足。鉄板のような胸筋と大木のような大きな両腕。そして、なんといっても顔は鬼だ。牙を生やし、全てを睨みつけて殺すようなその顔はまさに恐怖。


「グオオオオオオ!」


 魔獣——ロザリオは復活して早々、吠えた。自由になった喜びを、彼女の体内から解放された祝福を相まった咆哮だ。

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