決戦――04.魔獣ロザリオ《前編》
辺りの黒い霧に同化させたマリーは、自身の発明品を駆使してアンデッドと戦う。
地面を進む人型と獣型には『GI20』と呼ばれる爆弾を、空を飛ぶ飛行型アンデッドには『GI21』の空気に触れれば固まる液体で倒していく。
しかし、アンデッドは泉のごとく湧いてくる。いくら頭を吹き飛ばしても、数を減らしても、それを上回る数がどこからともなく出現していた。
「まだいるのね……」
ななめがけしているボストンバッグ――『ハイルくん』に手を突っ込み、数が底をつき始めているのを感じた。
このまま戦っていてもらちが明かない。空を飛べる箒――『トベルくん』を出し、一度上空へと浮上する。
若干だが、自身の鼓動が早くなっているのを感じていた。この大量にいるアンデッドを前にして戦いたい、と強く思っている彼――魔獣ロザリオが解き放たれようとしている。
マリーは無視して『トベルくん』で飛び続けて入るが、ずっとできるわけではないのを知っている。
「…………」
上空から見て、マリーは、「なるほど」と声を漏らした。
「あそこが発生源か」
大きな体をした人型アンデッドと獣型アンデッドが、1筋の黒い光を守るように立っていた。
獣型は、ビック・ウォーウルフなのだろう。カルミアが話していたことを思い出し、その特徴が似ていたからそう判断する。
黒い光に近づくにつれ、なんとなくだが察しが付く。あれは、新しくできた魔法陣ではなく、過去に使われたものだ。それもカルミアが使ったもの。
「あのとき潰しておくべきだった」
カルミアに集中しすぎたあまり、この魔法陣をくまなく調べることなく、見た状態のままで判断して、そのままほったらかしにしていたのが今になって響いた。
ロビンにも言っていたが、自身のほうがよっぽど甘い。反省しつつも、そこまで飛ぶ。
「…………」
やはりと言うべきか、発生源に近寄れば近寄るほど、アンデッドの数が増えていた。獣型、人型、鳥型、虫型、魔物型……どれも見境なしで、死体となる者をすべてアンデッドとして生き返らせている。
これを操れるのはもう魔術師の類に近いが、荒い部分がある。例えば、標的を失えばただただ体を揺らして歩いているところや、壁などにぶつかっても気にすることなくそのまま自身の体を引きちぎりながら進行しているところに、目的が見えない。
そう言った面を考えれば、これは魔術師がやっているとは言えなかった。ただここまでできるのは——そう考えたとき、マリーは一つの答えにたどり着いた。
「契約者……」
たくさんのアンデッドを作り、操り、呼び寄せるのは、悪魔と契約した者だけだ。
悪魔という存在は、無尽蔵に魔力を生み出すことができ、契約した人間にその魔力を降り注ぐことができる。しかし、その代償を払う必要があり、供給される魔力によってその度合いが変わる。
「何を捧げたらこんなに魔力をくれるのかしら」
地面を這うように動くアンデッドに少しばかり研究者の血が騒ぐ。
しかし、今やるべきことは、王女とその友人、そして英雄の生まれ変わりである彼を無事に生かすことだ。
箒から飛び降り、無事魔法陣の上へと着地する。
「解除!」
黒い魔法陣は光を失い、ガラスが割れたように粉々となった。これでもうアンデッドが出てくることはない。
箒にまたがり、再度空へと浮上する。危うくビック・ウォーウルフの雷に撃たれるところだった。額の汗を手で拭う。
ボストンバッグに手を入れ、ある紙を掴んだ。ただの変哲もない紙だが、それを粉々に破り、1つの小さな球体にする。それを『フヤスくん』——通称『GI08』で大量にコピーを作った。
「これぐらいでいいかな」
両手いっぱいに掴んだ球体を空からふりまく。カルミアがいる団子屋に行かないよう気を付けながら、ポイ捨てするように地面へと投げた。
「準備完了」
マリーが指パッチンをした瞬間、小さく固められた紙は爆発し、破片が四方八方に飛び散った。アンデッドにペタリとくっつき、どんどんどん侵食する。腐肉を割き、骨を絶ち、頭に向かって進み続ける。
『ススムくん』——『GI24』はその名の通り、目的の脳みそに向けて、マリーの指示通り進み続けた。
脳に到達した『GI24』は、瞬間爆発する。目的を失ったから、もうゴールに到達したから、ボンッ! と大きな音を立て頭を吹き飛ばした。
頭が無いアンデッドは膝を崩し、地面に倒れる。そして、そのまま砂となり、風に揺られる。
「……………」
まるで花火のようにアンデッドの頭は爆発するが、以前として数は変わらない。入場門である魔法陣は力を無くしたのに、まだ増えているように錯覚する。
――錯覚?
マリーは目を擦った。ごしごしと擦り、再度下を見る。数は変わらない。
ただ視界がぼやけていた。
「毒か」
それを認知したころにはもう遅い。手の力を無くしたマリーは、箒から身を乗り出し、そのまま下へと一直線に頭から落ちる。
防御態勢を取ろうにも、自分の発明品をクッションにしようも、力が出ない。
流石の異世界人でも頭から落ちれば致命傷は負う。
「………」
地面との距離がすぐそこまで来ている。
――これは死んだわ。
思い出が走馬灯のように読みあがったそのとき、降下がドサッという音と共に止まった。
体が浮遊している感覚はなく、足と首元を誰かが掴んでいる。
眼を開けると、それは人間だった。茶色の髪は上に向けて伸び、身長はやや高め。いつも笑顔が似合う人物。
「スコット!?」
だった。
しかし、歯はボロボロで、全体的に肉が腐食し、目が無くなっている。口からは、「ウー、ウー」と唸り声をあげるばかりで、抱きかかえている彼女の名を呼ぶことはしない。
あぁそうか、マリーは理解した。
彼は助けたのではない。上から落ちてきた餌をただ抱きかかえたに過ぎないのだと……。
噛まれないようスコットの顎を押し、掴んでいる手を蹴り上げた。彼のの腕から転げ落ち、マリーは手で受け身を取って立ち上がる。
彼は死んでゾンビとなってしまった。あのときあぁしておけば、と後悔が積もる。しかし、あのとき——あの状況で彼ができたことがあるとすれば、おとりになるしかなかったのだ。
斜めに切られた胴体の傷がそう物語っている。
「………」
スコットは最後の最後まで勇敢であった。それを侮辱し、無下にした黒幕の存在が許せない。
「いま楽にしてあげる」
マリーはボストンバッグからステッキを取り出した。
耳元で感じる彼の鼓動――魔獣ロザリオの目覚めを感じながら。




