決戦――02.かつての親友《前編》
月を背にし、2人は激しい空中戦を繰り広げる。
「鷹の顔」
ロビンの放った矢にオーラが纏い、鷲の顔となってクローバーを追撃する。
「厄介な魔法だね。デッドホール!」
人差し指から放たれた小さな黒い球が後方を追う鷲の顔に向けて放たれる。ゆっくりとフワフワに浮かぶそれは風船のようで、鷲の顔の速度があれば余裕で交わすことができる。だが、これがどれだけ強力な魔法なのかロビンは知っていた。
すぐに鷲の顔の操縦を手放し、次の行動へと移る。
操縦者を失った鷲の顔はただ真っすぐに飛んで、クローバーを追い続ける。あと少しで追いつく瞬間、黒い球は爆発し、吸い込み始める。
「緑の束縛!」
爆発する寸前、足元に放った矢は建物に刺さり、大きな触手となってロビンの体を撒きつけた。そうすることでデッドホールに吸い込まれることは無かったが、代わりに鷲の顔が吸い込まれ、そのオーラが塵となり消えた。
「やっぱり知っていたか」
「当たり前だ」
クローバーがどんな魔法を使い、どんな戦い方をするのかロビンは知っている。かつて共に世界を旅し、数々の人を殺ししてきたからだ。
「結局ぼくのこと忘れられてないじゃん」
「その魔法の危険性を知っていたからな」
ふーん、退屈そうに彼は返事する。
「500年前……」
「は?」
「いや、ぼくがこの魔法を初めて見せたのがそれぐらい前だったよねって話」
もうそれぐらいたつのか。
その日初めてクローバーに恐怖を感じた時から、彼と冒険することを辞めた日から、それだけたっていた。
時の流れに恐ろしさを感じる。
「僕は知らない」
「冷たいなぁ。まっ5世紀以上も昔なら誰だって忘れるか」
ぼくも覚えてないし、クローバーは笑った。
「でも、1つだけ覚えていることがあるよ。人間に対する憎悪を……ね」
「…………」
ロビンは返答に困り、口を真一文字に閉じた。
「きみだって忘れたわけないでしょ。エルフと人間のハーフに対する仕打ちを」
「………」
「それだけじゃない。ケンタウロス、ナーガなどハーフと呼ばれる存在に対して、彼ら人間がしたことを忘れたことが無い。あの日、今から約600年前、ハーフが生きる里に彼らは突如現れ、大勢を焼き殺した。両親を、友を、先生を殺した人間たちを」
ロビンの脳裏に嫌な記憶がよぎる。
その日、大量に人間がやってきては、悪魔のような顔で殺してきた。昨日まで一緒に遊んだ友を、無償の愛を捧げてくれた両親を、教養を教えてくれた先生を焼き殺していく。いや、それだけではない。撲殺、斬殺、毒殺、とこの黒い瞳――いや、本来の色である緑の瞳で見ていた。まだ幼かったロビンは家のタンスの中で隠れて、ガタガタ震える体を必死に抑え込みながら、ほとぼりが冷めるまで終わることをじっと待っていた。
今でも乗り越えていない。思い出すだけで身震いを起こすほど、恐怖に取りつかれるほど、ロビンにとってこれはトラウマとなっている。
「あの日、やつらはぼくたち半端者を快感の道具としたんだぞ。悔しくないのか?」
「悔しいに決まっているだろ! ただあの人間と今のあいつらは、関係ない」
事実、ドラグネス王国のカルミア・スカーレットをはじめ歴代の王、国民、マリーはなんの関係もないからロビンは忠誠を誓い、彼らのために戦えられる。それは英雄ジークの生まれ変わりである海斗だって同じく、彼を友でもあり戦友と認めている。英雄ジークだからではない。諸星海斗だから、ロビンはそう選択して、今ここに立っていた。
「関係が無いだと? ロビンきみは甘い。考えが甘いよ」
がっかりだ、クローバーは顔をそむけた。
「あれから600年、人間は何をした。戦争、略奪を繰り返して、歴史を学んじゃいない。それどころか、ぼくたちハーフに対して残酷な行為をしたではないか。一体どこに助ける理由がある?」
「………」
ドラグネス王国を思い浮かべれば彼が言っている真意がわかる。この国は、戦争に戦争に明け暮れ、やっと手に入れた平和をただの森の領土ごときで他国と戦争を犯した。その結果、敗北して今に至る。
両手のこぶしを握り締めた。
「それでも僕は、人間を助けたい。人間が好きだからだ」
「だからお前は甘いんだよ」
「そんなこと知るか。第一、ハーフに対して風当たりが強くなったのも僕たちのせいじゃないか」
「……ッ」
クローバー怯んだところを見て、さらに畳みかける。
「あの後、森の中などで静かに暮らす選択をすればそうはならなかった。でも、そのときの僕たちは、復讐を願い、実行した。その結果、あの大惨事を超えるほどの膨大な数の人間と国を亡きものにした」
その1つが深淵の森である。かつてそこは緑豊かな国であった。交通量が多く、ロウカミ国とドラグネス王国を繋ぐ唯一の国である。しかし、そこをロビンとクローバーが2人で滅ぼし、魂の『浄化』を実行させないようその場に閉じ込め、以来そこは不気味な森として有名となった。
「僕たちは、やりすぎたんだよ。もう終わりにしないか。これ以上やっても無意味だ」
「……れ」
聞き取れないほど小さな声でクローバーが何かを口にする。
ただロビンはお構いなしに言葉を続ける選択をした。
「だから、クロユリから手を引けクローバー」
彼が闇の魔法を使えるようになったのも、彼女が原因だ。彼女から離れればクローバーは助かるかもしれない、とロビンが考えている。
しかし、
「黙れ! お前の復讐が終わっても、ぼくの復讐は終わっていないんだ!」
分かり合えないことをロビンは悟った。
とことんやるってことなのだろう。かつての親友と戦うのは心苦しいが、離れると決断したそのときにはいつかこうなると予想していた事だ。覚悟はできている。
「わかった。じゃあ、クローバーお前を殺す」
「殺すのは、ぼくのほうだ!」
ロビンは、両手に持っているナイフをロビンに向けて投げた。




