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決戦――01

「敵の場所は、あそこの団子屋よ」


 建物の屋上に立った海斗たち一行は、商店街に居るアンデッドの大群を見下ろしていた。

 古臭く、シャッターによって活気を失った街並みは、カルミアと初めて出会った場所である。あの頃よりも強くなれたし、異世界人というものにも抗体ができた――と思っていたが、アンデッド――あるいは、ゾンビの大群は少々抵抗がある。


「ゾンビかぁ」


 ドサドサと足音を鳴らして、うーうーと唸りながら行進する腐肉に嫌な顔を浮かべる海斗。遠目でもわかる通り虫がたかっており、腐った臭いが安易に想像できる。

 水晶玉で見ていた時は何も感じなかってけど、いざこの赤い瞳で映してみれば途端に見方が変わる。


「気持ち悪い」


 それが個々から見て思った感想だ。


「気持ちはわかる。ほんとに見ているだけで嫌になる……」


 何度も見ているロビンでも嫌そうな顔をする。


「やっぱ嫌なの?」


「当たり前だ。相手は腐ってるんだぞ。形だけでも気持ち悪いのに、異臭さえ放たれればもう論外。やる気をなくす」


 ここからでもにおうのだろうか。ロビンは、鼻を抑えていた。


「鼻がいいわね。どんなにおいする?」


「これを真面目に嗅げってか!」


 マリーの言葉に異論を挟んだが、さすが戦士と言ったところ。すぐに真面目な顔でにおいをかぐ。


「一番感じるのは生臭さ。公衆便所にたまった糞のにおいがする」


「それ以外は?」


「何もしない……。あっでもほのかにいいにおいがする。女か」


 においで敵を判断するロビンを素直に心の中で拍手した。


「女……。毒とかはしない?」


「ちょっと待って」


 鼻を動かし、においをかき集める。


「……しない。でも、いちおう解毒薬の準備をしておいたほうがいいかもな。念のために」 


「わかった」


 マリーはたすき掛けしているボストンバッグの中に手を突っ込んで、ゴソゴソと手を動かし、チャックを閉めた。


「マリー。場所はわかるか」


「あっちよ」 


 マリーが指さした方向へと目を向け、あっ、と声を漏らす。


「俺あそこ知ってます」


「ふーん。じゃあ少年君にお任せしようかな」


「それがいいだろう。あそこまで安全に行けるよう僕たちが道を開ける。お前はボスを倒す事だけ集中しろ。いいな?」


 首を縦に動かした。


「よし。じゃあ行動開始だ」


 三人はそこから飛び降り、着地した。

 顔を上げるとマリーとロビンが海斗を守るように前へ出て立っている。


「案外、早くて驚いたよ。ロビン」


 貼り付けたような笑顔をする茶髪の少年がアンデッドの先頭に立っている。


「クローバー。相変わらず変わらないなお前は」


「過去を大事にしているからね。誰かさんと違って」


 鳥肌が立つ殺気が二人から発せられる。


「マリー。すまないがコイツは僕がやるから」


「わかってるわ。ちゃんと少年君を送り届ける」


「あぁ助かる」


 ロビンが宙に浮くと、同じくクローバーも空へと浮上する。


「決着を付けたかったよ、ロビン」


「奇遇だな。僕もそう思っているよ」


 宙に浮いた二人が闇夜と混ざった瞬間、激しい火花が散った。


「少年君。団子屋に早く行って」


 『フエルくん』――『GI08』をマリーは手にする。


「いや、でもこの量は厳しいくないですか」


 海斗の言葉を無粋と言わんばかりに、マリーは表情だけを見せる。


「舐めてもらっちゃ困るわ。わたし結構やるのよ」


 見ていて、そう言った瞬間、彼女は腰に巻いていた袋を破いて上空に何かを撒いた。それは黒い霧のようなもので、さらに辺りを暗闇へと誘う。

 アンデッドはそれでも前進を止めず、進み続けていた。


「ま、マリーさん……」


 海斗の言葉に返ってくるのはゾンビゲーム特有の低いうめき声で、彼女の声が返ってくることは無かった。

ドンッ、ドンッ、と地ならしに似た足音と共に行進を続けるアンデッドを前にして、『ドラゴンスレイヤー』を構える海斗。

 彼女が逃げたかと疑った瞬間、空に浮かぶ無数の水滴が視界に入る。

 その水滴は雨のように小さく、力が無い。

 雨なんて降ったか、そう考えた時にはもう雨ではなくなっていた。つまようじのような小さな棘となり、アンデッドの体を穴だらけにする。

頭、胴体、腕、足、と余すことなく体全体に小さな穴があいたアンデッドは、その場で崩れ落ちて灰となる。


「………」


 海斗は再度剣を強く握りしめ、コロコロコロと転がる音を耳にした。

 何か小さく、まるでビー玉を転がしたようなその音はアンデッドに向けて一直線に回る。

 生命の危機を感じ、海斗がバックステップの行動を起こしたころには、アンデッドの足元が爆発し、腐肉は上空へと吹き飛ばされた。そこを待ってましたと言わんばかりに、同じような要領で空中に浮いた水滴が塊、アンデッドの頭を貫く。

 彼らはそのまま灰となり、風と共に消える。


「少年君、逃げたと思った?」


 後方からの声に振り返ると、そこにはマリーが居た。全身に黒い布をかぶり、肌を全て隠した彼女は目元だけをを見せている。

 石、粉、瓶を手にしたマリーがウィンクして隣に立つ。


「ま、まぁ少しだけ」


「少しだけなら良かったわ」


 本当は強く思ったのだが、嘘をついた。あとで何を言われるのかわからないからだ。


「ということで私は結構やる人間なのよ。だから、安心してカルミア様の元まで行って頂戴」


 マリーの戦い方を目の当たりにすると、自分が出る幕が無い事を強く感じる。ここで出しゃばっても余計に時間を無駄にするだけだから、目指す場所へと目の焦点を合わせた。


「わかりました」


 赤い瞳が強く光る。月夜の光と希望が合わさり、闇夜の暗黒を赤く照らす。


「俺、絶対にカルミアと真澄を救ってきますから」


「頼んだよ、少年君」


 足に力を込めジャンプした。建物を蹴って前へと進み、速度が落ちればまた同じように蹴ってを繰り返して団子屋へと目指して進む。


「グエー」


 空中に居る鳥型のアンデッドが海斗に向けて攻撃を開始した。


「させないわ」


 マリーの手に持っている水のビンを空中へと一滴だけ浮かせ、ステッキに触れた。瞬間、水滴は無数に雨のように数を増やし、さらに『トベルくん』と呼ばれる箒を振る。空中に浮遊した棘の大群は、鳥型のアンデッドに向けて一直線に飛ぶ。


「グっ……」


 棘に刺されたアンデッドは地面へと落下する。

 一筋の赤い閃光に釣られてアンデッドが行動を開始したことを確認したマリーは、彼が目的地までたどり着けるよう自身の発明品で援護を開始した。


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