金髪クラス委員の秘密
横たわった体制のまま目覚めた真澄。
部屋全体が埃だらけで、息を吸い込んだ瞬間激しく咳き込んだ。
「あっ起きた」
そこには茶髪の少年がいた。足を組み、手には文庫サイズの本を片手に持ち、真澄に目を向けている。
真澄は、見覚えがあった。彼は、ゲーセンで2度も対戦した子だ。特徴的な髪色でありながら、幼い顔立ちですぐにわかった。
まさか異世界人だとは――しかもそれが敵だとは知らず仲良くなろうとしたのは失態である。海斗と仲良くできなかったあの時と同じ悔しい気持ちになる。
「おはよう。どこも痛くない?」
少年――クローバーの問いかけを無視し、ぼんやりとする視界を安定させた。
全体的に木の造りで、部屋はなんの特徴もない。空っぽだ。
「あれ、無視? まぁいいや」
クローバーは座りこんで、顔を見た。
真澄は顔を背けて見られないよう抵抗したが、顎をがっしりと掴まれ、動くことができなくなった。必死の抵抗の末、最終的には視線を下に落とすことで反抗心に妥協する。
「外傷なし。多少眩暈を起こしているが、これぐらい問題ないだろうなぁ」
よし、少年は立ち上がり再度本を手に取って椅子に座った。
「………」
「………」
この先殺されるのか、ここには居ない海斗へと助けの声を心の中で上げるも、返ってくるのは「あぁー、あぁー」というゾンビのような掠れたうめき声のみ。
ドサッドサッと大群で足踏みする音が部屋中に響き渡っていた。
「うるさいなぁ。だからゾンビは嫌いなんだよ」
人差し指を上に向けたクローバー、
「サイス」
と唱えた。瞬間、外から聴こえるうめき声も、足音もピタリと止んだ。何1つとして音が無い静かな空間へと変わる。
「これで静かになった。さて、ボクとお話しよう」
再度足を組みなおし、咳ばらいをした後、真澄の目をじっと見つめた。心の奥底まで覗き込むように優しい表情のまま彼女の髪と体を見て、首をかしげる。
「キミはこっち側の世界の人間かい?」
クローバーの問いに答えられなかった。
何を言っているのか、全くわかっていないその表情にクローバーは再度口を開く。
「あぁもしかして自分の出生を知らない?」
「知らないよ、そんなの」
彼が敵である以上、ぶっきらぼうな返しをする。
「そうか。まぁそんなこと知らないよね。ぼくの見解を話させてもらうと、キミの先祖はこっち側――つまり異世界人っていう事だね」
その証拠が金色の髪だ、クローバーが指をさす。
「この世界にも金髪ぐらいいるでしょ。異世界となんの関係があるの?」
「あぁいい質問だね。頭がいい人間とは話しがいがある」
クローバーは立ち上がり、尻に付いた誇りを手で振り払う。
たたんだ本を脇に挟み、ニヤニヤした表情のまま語り始めた。
「確かに世界中を見れば金色の髪にブロンドの髪とかいるから、先祖はそうだと考えるかもしれない。でも、きみの両親は黒髪でしょ。それなのに金色となるのは、まぁちょっとおかしいよね。そこで考えたのがキミの両親のどちらかが異世界人で、それが遺伝したってわけ」
深く息を吸い込んだクローバー。まだ語るらしい。
「じゃあそれがどうして今になって現れたのか、両親には発現しなかったのか、答えは簡単、英雄ジークの影響が現れたからさ」
「ジークの影響……?」
「そう。ジークの影響。彼はこの世界に誕生した、それもキミよりも早く生まれ、かつ赤い瞳を持っている人間」
「海斗くん」
正解、クローバーは人差し指を立てた。
「本来は目覚めるはずない血が、英雄の誕生に引っ張られて発現した。それが金色の髪ってわけだよ」
「………」
スケールの大きさに真澄は言葉を失う。
異世界とか、英雄とか、魔法とか、ただの高校生である彼女にとって想像できるはずがない。
海斗くんならば受け入れられたのだろうか――英雄の生まれ変わりである彼はそれをすんなり受け止め、次へと進むことができたのかなどと考えている。
「こんなこと急に言ったってわかるはずないよね。ぼくもそうだったし」
遠い目をしたその目は、どこか悲しそうだ。
彼も何か悲しいことがあったのか、クラス委員としての宿命なのか人を心配する癖が真澄には付いていた。
そういえば、海斗も同じ目をしていることを思い出す。彼もまた同じく学校で悲しい目をしておりそれが心配して話しかけたのだが、かえって彼を閉じ込めることにたことがある。だからあのとき公園でも話しかけるのは止めようかと考えた。幸いにも彼は気付いていなかったし、話しかける必要も考えられなかったけれど、ただあのときも彼は同じく悲しい目をしていた。プライベートなのに、好きではない学校が明日から休みなのに、人生を感傷的に考えているように真澄の目は映った。
だから、「待って」と声をかけ、どうにか彼の寂しさや辛さを取り除きたくて、連絡先も交換し、ジュースも奢った。
けれど、取り除くことはできなかったし、余計に海斗が足を踏んでほしくないであろう場所まで突っ込もうとしていたことを悔いる。カルミアのように無鉄砲ではあるが、人を不快にさせない人間であればそれが可能であったが、真澄は自分がそうではないと知っている。
どこまでやれば人は傷つくのかも、嫌がっているのかも、クラス委員として周りに気を配りすぎていたからこそ知っていた。
よりよいクラスづくり――そう言えば聞こえはいいが、実際は自己満でしかない。自身がクラスを作り、彼のようなひどく傷ついた人間が少しでも居場所を持ってほしくて頑張ったけれど、全てが無理だった。
わかっていたのに――真澄の目から流れる一筋の涙に少年は、身をひるがえした。
「な、泣かせるつもりなかったのに……ごめん。泣かないで」
彼に気を遣わせた、それがまた涙を流すこととなる。
「………」
クローバーは察した表情をした後、真澄の背中をさする。
「恐怖から泣いているわけじゃないようだね」
その後、黙って彼女の背中をさすり、真澄が涙を引っ込ませたタイミングで、実は、と言葉を発した。
「実は、ぼく人間に負けたことが無いんだ」
それは憎しみにも似た表情で苦しそうであった。
「人間に負けるのは屈辱で絶対にあってはならないと思った。特にぼくのような半端な人間は絶対にあってはならない、とね。でも、キミにあのゲームで負けたとき――初めて人間に敗北をしたとき、ぼくは少しだけ嬉しかった。悔しかったけど、なんだか満たされた。『あぁこれが敗北かぁ』ってね」
「………」
嬉々として話すクローバーの横顔に真澄は釘付けとなっていた。
「だから、勝者のキミには笑っていてほしい。勝つ人間としての特権でもあるから」
そう喋り終えた後、クローバーは上へと目線を向ける。
そして、もう始まるのか、と口にした。
「ぼくはクローバー。敗者だけど、ぼくの存在は忘れないでほしいたった一人のファイターよ」
その瞬間、真澄の意識は途切れた。
―――
倒れる真澄の上体をクローバーが支えたことで床に強打することなく、彼女は再度その場で横になる。
そして、真澄の口と鼻を布で抑え、
「エアース」
と、唱えた。
無事に呼吸ができることを確認し、クローバーは部屋を出て、気付く。
「あっ来たか」
決着の瞬間が。
ニヤニヤを抑えながら廊下をカツ、カツと歩く。




