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46.世界の隙間にて

 ある人が目を開けた。一方には影がささり、もう片方には空から降る暖かい光が充満されている不思議な空間に居る。

 その人物は、どちらかというと光が当たるほうに立っていた。


 オレは一体何があったのか、痛む脳みそを抑えて必死に思い出す作業をした。

 まず自身が忠誠を誓うカルミアを逃がし、その後ロビンとマリーが転移魔法を使っている間『アンデッド』の群れをスコットと一緒に抑える——そこまで思い出しただけでも十分だろう。

 つまり、ここは天国ということか、お気に入りの戦闘服の破損具合を見てそう判断した。


「違う」


 突如として聞こえる女性の声に反応した。

 辺りを見渡し、その人物がどこに居るのか探したが、どこにもいない。ただ誰かがいることはわかっていた。


「上を見てみろ」


 視線を上げると、宙に浮かぶ赤い髪の女性が立っていた。顔に眼鏡を付け、白を基調とした布を体に包み、神々しい光を背中から発しながら女が見下ろしていた。

 誰だ、と声を出した——はずだったが、その声は出ていない。しゃべれていないのだ。口をパクパク動かし、喋るという動きはしているが、肝心の声が外に発せられていない。

 どういうことかわからず、手を見て、理解する。

 体が半透明に透けていた。まるで魂の存在だと思わせるほどに、地面の光が見えている。

 恐怖で一瞬身をひるがえすが、そもそも死んで居るのだから仕方ないか、と納得する。


「まだ死んでないから、諦めるの辞めてくれねぇか」


 宙を浮く女性は、ダルそうに、めんどくさそうに言った。


「はぁ。お前は死ななかったんだよ。てか、死なせなかった。アタシがそうしたから」


 その女性はゆっくりと下降して、その人物と同じ視線に立つ。

 スラリとした体形から想像できない魔力を感じた。しかし、それはただ強いじゃない。ものすごく強い——それも勝てないと思わせるほど、十分な魔力をヒシヒシと思わせる。

 争うつもりはなかったが、こうなったらやけだ。絶対に戦わないと心に誓う。


「アンタらただの人間が、アタシに敵うわけないじゃん」


 心の声に反応していることに気付いた。

 一体どういうことなのか、考えたが、細かい事はどうでもいい。今はここがどこなのか知りたかった。


「あぁここは、何と言えばいいかなぁ。まぁ世界の間と思えばいい」


 間……?


「そう間。あっ隙間のほうがいいな。扉と床に空間があるでしょ、その隙間的なやつ」


 余計にわからなくなる。


「アタシ説明下手だからなぁ。まぁ見せればいいか」


 ほら、女性は上に指をさした。


「この光の向こうが違う世界に行く扉」


今度は、下を指さした。


「で、この下がアンタが元居た世界ってわけ」


 全然わからないかった。


「まぁ人間だから無理がないさ」


 その女性は豪快に笑う。


「さて、本題と行きたいところだが、アイツが来ないからもう少し待っててくれ」


 胸元に手を組んで、足をバタバタと上下させる。


 ところで、とある人物は考えた。スコットがどうなったのか、どこに居るのか。一緒に行動していたわけだし、ここに居るはずなのだが——。


「スコット? えっとー誰だっけソイツ」


 顎に手を置いて、空に視線を向ける。それから深く考え、あっ、と言葉を漏らす。


「スコットって、あの茶髪の男か。アイツは戦死したよ。勇敢にね」


 その言葉を脳が一瞬だけ拒絶したが、すぐに理解してしまった。

 その事実がなんとなくわかっていた体。あの状況で生きているのは奇跡誓いから。

 ただそれでも悲しいという気持ちはある。一緒に戦ってきた仲間であり、彼には大事な人がいた。その人物のことを思うと胸が痛む。


「アンタの気持ちは痛いほどわかる。アタシも少し前に大事な人を失ったからね」


 女性は悲しい目をした。

 まるで過去に何かあったかのような、と考えていたところまた別の誰かがやってくる。

 気配が違う。正面に立つ女性とは真逆の雰囲気を醸し出し、怒りが充満していた。


「よし全員そろったことだし、そろそろ――」


「ふざけるな、アーミラ」


 その人物――白装束を身にまとった長髪の男性は怒鳴った。


「キサマが渡したワシの剣がジーク——それも、生まれ変わりに使われているではないか。どういうことか説明しろ」


「そのまんまの意味だろ。考えればわかるじゃねぇか。バカなの」


 アーミラと呼ばれた女性は、挑発し、男性はさらに激昂する。


「ふざけるな! 切り殺してやる」


 腰にある刀に手をかけた瞬間、男性の体が地面に倒れた。


「それはこっちのセリフだ。お前がアイツを殺そうとしたこと、アタシ許してないから」


「なんだと」


「第一よく考えろ。この状況を収めることができる人物がだれか、わかっているのか」


「………」


「アイツだよ。ジークの生まれ変わりにしかこの状況を鎮めることはできない。だったら、アタシらは手を貸すのが筋ってもんじゃん」


「だが、もとはと言えばジークが戦争を起こさなければこうはならなかった。アイツが」


「そりゃ昔の仲間が魔人に落ちて、愛する人物が死神になるのなら変えたくなるだろ。すこしは考えたらどうだ」


「どういう……」


 男性の顔が戸惑いへと変わる。


「アンタは眠っていたんだっけ。義信が魔人になったことジークは責任を感じている」


「それは、ワシが望んで……」


「あぁそうだ。でも、ジークはそうじゃなかった。魔人に堕ちたのを自分のせいにしたんだ。だから、それを変えるために種族の垣根を超えた——つまり、種族と言う壁を壊せる鍵を求めた結果、世界を巻き込む大戦争に発展した」


「………」


「それに愛する人間が死を司る神に変貌しようとしたんだから、変えたくなるだろ。……まぁミスって戦争へと変わったわけだが」


 義信の前に座り込んだ。


「全ては、お前とエルピスを助けるためにやったんだ。覚えておけ大馬鹿野郎」


 コホン、咳払いをアーミラはした。


「ここに招集したのは、ジークの生まれ変わり――海斗を助けるためにある。それを協力してくれ」


「なんでワシが」


 倒れたまま義信は、反抗態度を取った。


「あれれヨッシー。そんな態度を取ってもいいのかなぁ。いいのかなぁ」


 人差し指をクルクル回すと、徐々に徐々に義信の服が解けていく。ゆっくりと確実に、紐が外れ、スルスルと脱げていく。


「わ、わかった! ワシは手伝う」


 アーミラはその言葉を聞いて、ニコッとした。


「よろしい」


 服は元に戻るが、体勢はそのままだ。


「義信は昔から恥ずかしがり屋だな。変ってないねぇ」


 男は赤面し、顔を背けた。


「さ、さっさと本題を言え」


「あぁそうだな。で、さっき言った通り海斗を助ける事。ただそれだけ」


 ってことで解散、義信のみがまず消えた。

 そこからアーミラは、その人物の前に立つ。


「アンタ……自分の名前忘れてない?」


 言われて、初めて気付く。

 自分の名前が全く思い出していない。


「ここは人間にとってちょっとしんどいから、忘れる事なんてよくある。あの王女ちゃんもここを通って忘れちゃったし」


 王女ちゃん……?

 それはもしかして、


「想像通り、カルミア・スカーレットちゃん。いくら魔王の生まれ変わりと言っても、その力は弱い。英雄は『ドラゴンスレイヤー』に力を移したから力は現存しているが、王女ちゃんの場合それが無かったからな。なーんの前準備もしないで転生して転移しちゃったから、多少の記憶喪失と人格破損が起きてしまった」


 カルミアのことが心配になり、ソワソワする。

 それならロビンもマリーもそうなのではないだろうか。


「その通りだよ」


 案の定そうだった。

 それなら、彼らは忘れたんじゃ――自分の心配をアーミラは笑って飛ばした。


「いや、それはないよ。彼らは結構丈夫なんだ。普通の人間よりもいい体を持っているからね」


 肩に手を置かれる。

 一体どういうことなのか、考えたところ誰かの叫びが聞こえる。とても痛そうで、それは叫びよりも絶叫、あるいは悲鳴のような声が耳元に響いた。


「これは真澄ちゃんって言って、アタシが目を付けている人物だよ。なんかあったのか」


 手をまわして、ふむふむと首を動かす。


「これは困った。ヤバい状況だ。すぐに行ってもらう」


 行くってどこに……?


「どこって未来だよ。多分いまの時間に行っても、なんの助けにならないから」


 隣に青色の円が開いた。それは何かを吸い込んでいるようで、奥のほうへと続いている。


「頑張ってくれたまえ。頼んだぞ」


 肩をポンッと叩かれた瞬間、その空間に吸い込まれた。


「そう名前は、ライラ。よく覚えておけよ」


 その瞬間、青いそれは閉まり、ライラはその先へと飛ばされてしまった。

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