風。それも力強い風だ。
「炎は不死身だ」
顔ができあがり見えるのは、地獄の番人のような恐怖の面構え。目は尖り、口は裂け、角が生えた悪魔だ。
「………」
ジタバタしてもびくともしない。
まだ熱風のみで体が焼ける熱を感じてはいないが、それは時間の問題だ。いつカルドが行動して彼を焼き始めるのか、わからない。
「クックックッ。炎は無限エネルギーだぜ」
カルドが生み出した熱は、2人の姿を歪ませ捉えさせようとしない。
射撃を得意とするロビンにとって厄介な状況となった。ただ行動しないわけにはいかず、力いっぱいに引っ張っていた弦をはじいた。
「イリュージョンアロー」
1本の矢が無数の数へと増え、カルドに向けて一直線に飛ばされる。しかし、わずか数十センチに入った瞬間、全ての矢が燃え尽き塵と化した。
「弓なんて無駄だぁ。お前らの攻撃は、俺に効かない」
ジュー、と肉が焼ける音共に白い煙が立ち上る。
「ウアアアアーーーー!」
海斗の体を焼き始めた。服は黒く焼け、二の腕と胴体は赤くなる。
「もっと増やすぜぇ」
さらに熱は上がり、服はとうとう焼き切れ、素肌に炎が触れる。
「アアアアアアーーーー!」
口と目を大きく開き、焼ける痛みに声を荒げた。
「………」
熱の痛みに脳内が侵食されるも、どうにかこの状況を打開できるよう考える。とにかく考え、考え、考え、考え抜いた先にあったのが『ドラゴンスレイヤー』の冷たさである。海斗が握っているグリップ部分は冷たく、炎の影響を受けていない。つまり、上手く使えば奴を倒せる証拠である。
しかし、どうやるのか。今捕まっている状況では行動が制限されている。ただできるとすれば、この剣を投げる事だけだ。幸いなことに肘から下は動かせることができ、これだけあればある程度の威力で『ドラゴンスレイヤー』を飛ばすことができる。ただ飛ばしたところで、これが何かできるわけでもなかった。
正面に居るロビンだけにわかるようごく少量の動きで、『ドラゴンスレイヤー』を上下に動かした。気づいてくれると信じて、揺らし続ける。
「………」
ロビンが頷いた。
彼は空中へとゆっくり浮遊して、弓を空へと向けた。弦を引いて弾いた。その刹那、1本の矢が空に向けて飛んで行った。
「イリュージョンアロー。自然の束縛」
落ちてくる矢が大きな木の根っことなり、カルドと海斗を囲んだ。隙間1つ作らず、人間3人分の小さなドーム状で2人を閉じ込めた。
「お前を見捨てやがったぜ」
カルドは勝利の愉悦か笑っていた。心の底から悪魔のように炎を揺らして笑い声を響かせる。
「………」
辺りの熱が高くなり、意識がもうろうとする。喉はカラカラに干からび、額から一斉に汗が噴き出た。それでもまだそのときがくるまで耐えた。
海斗は、彼が何をしてほしいのか、そして何をするべきなのかわかっていたからだ。
「炎の前では誰も勝てない。英知の創造、悲劇の始まり、そして祝福のパレード、あぁ素晴らしい。炎1つあればその全てを可能とする、まさに万能だ。お前も始まりに包まれて嬉しいだろ?」
「………嬉しくねぇよ」
強がって笑顔を向けてみる。
「侮辱する気か!」
熱が強くなり、また更に焼ける。
もう皮膚は溶けはじめ、骨を撫でている感触があった。流れる血液は蒸発し、鼻が曲がる臭いを耐え、その瞬間だけを待った。
じっと、じっと、その時が来るまでを。
「もういい。お前を殺す」
カルドの熱が一層強くなる。
「英雄ジークの生まれ変わり! お前はここで死ね」
辺りの熱気がグンッと上昇したのを感じた瞬間、『ドラゴンスレイヤー』を斜め前方の上空へと飛ばした。
自然の束縛を貫通し、生まれた隙間。人間1人が出るには小さいが、この状況を脱出できるには十分すぎる大きさだ。
「あちぃよ、ほんとに」
ロビンが手を掲げて待っていた。
「グレンド!」
風。それも周りの空間を歪めるような力強い風が、空洞を圧迫する。
瞬間、爆発した。自然の束縛を巻き込んで火炎が上空へと伸び、すぐに小さな火へと変換する。
海斗は後方へと吹き飛ばされていたが、1本の触手が盾となってくれたおかげで、爆発も、爆炎も、巻き込まれることは無かった。
痛々しいやけどを負うが、これは全てマリーが完治させてくれるので問題ない。
天高く手を伸ばし、『ドラゴンスレイヤー』を呼んだ。
「大丈夫か、海斗」
「まぁな」
横腹は骨が見え、肉がはみ出ているが立てていた。これも英雄の影響だろうか。
目の前にまた渦を巻き始める。しかし、同じように中心は何も起きていない。
「海斗、目には見えないがあそこにはイフリートの魂がある。やれるか?」
「あぁもちろんだ」
最後の力を振り絞って、海斗は『ドラゴンスレイヤー』で切りかかる。ただ前みたいな失敗をしないようジャンプし、その範囲から逃れた。
「………ッ!」
中心の丁度真上まで飛んだ海斗は、剣先を下に向けた。振り絞る力も無いし、ここからどうにかできるほど動けない。だから、落下する勢いで切る算段であった。
徐々に徐々にカルドの姿かたちが出来上がっていくも、中心を取り囲む熱はない。
「決まれぇぇぇぇ!!」
海斗は振り絞った声を出しながら、落下していく。
カルドの下半身は出来上がり、わき腹まで上り詰めている。
果たして、切り終えることができるのか——『ドラゴンスレイヤー』は地面に強く突き刺さった。
熱風は止まり、渦は消えて行った。
やられたときの掛け声はないが、確かに倒せたようだ。
「………」
ホッとした一息で、地面に尻もちをついた。
すぐにロビンが駆け寄り、海斗の頭に手を置く。
「よくやった。流石、僕の弟子だ」
「そりゃどうも」
痛みには耐えられず、海斗の意識はそこでキレてしまった。




