誘拐
海斗は謎の異世界人を追って行ってしまった。
カルミアは付いて行こうか考えたが、また剣を握ることが怖く、それができなかった。あの炎の中でカルミアは剣を握りはしたが、それはあくまで自己防衛のためだ。魔人イフリートが伸ばした炎は『レイヴの剣』を掴んだから引っ張った結果である。
それにイフリートが言っていたあの言葉「魔王」とはなんなのか、わからなかった。自分はドラグネス王国で王女として生きているから、魔王なんてことはありえないのに……。
「………」
火は駆け付けた消防隊員によって消された。その後、カルミアは救急隊員に捕まったが、異常はない、と半ば強引に押し切ってその場から離れ、真澄と一緒に歩いている真っ最中だ。
「どうしようか、私たちでどっか行く?」
「その気持ちはやまやまだが、海斗が心配だ」
「それもそうだね。何かあったの?」
カルミアは話した。
「その魔人イフリートって強いの?」
「本物はな。でも、あそこに出てきたのは偽物だから強くはないはずだが、もし本物なら少し話が変わる」
真澄の険しくなる表情に、カルミアはハッとした。
心配していないわけじゃなくて、自分を楽しませるために、少しでも話題を変えるための発言だったと知る。
ならば、乗るべきだ。真澄の提案を強引にでも通すべきだ。
「まぁでも大丈夫だろ。あの異世界人は海斗に任せて、我らで楽しもー!」
カルミアは明るく接する。
少しでも悟らせないために。
――――――ー———————
真澄に連れて行かれた場所は、彼女のホームでもある近所のゲーセンだった。レトロゲーから最新のゲームなど多種多様なゲーム機が設置されている小さい個人店だ。
「ここが真澄の遊び場所か?」
「うん。結構楽しいよ、安く済むし」
真澄が吸い寄せられるように進んだ先は、1つのレバーと6つのボタンで操作す格闘ゲームだ。
異世界に居たころ見たことがある形をしているが、どんなゲームなのかカルミアは思い出せなかった。
「私このゲーム得意なんだよ」
「なんてゲームなんだ?」
「格闘ゲームなんだけど、世界的に超有名だよ」
「そうなのか。難しい?」
「うーん、最初は難しいかもしれないね。でもコンボとか覚えて、キャラの戦い方を知れば楽しめると思うよ。まぁ動かせるだけで楽しいけど」
やってみるから見ててよ、赤い椅子に座り、50円を投入するやいなや彼女の目が変わった。明らかに勝負をする目で、カルミアはこれからどんなことが起きるのか想像してつばを飲み込んだ。
キャラの選択を終え、彼女が選んだのは胴着と鉢巻を巻いた男キャラのようだ。
対戦相手は、向かい側に座る茶髪の男の子らしく、彼が使っているのは青い服を着た女性キャラ。
この男の子とどんな勝負をするのか楽しみで仕方が無い。
カウントが始まり、ファイト、の掛け声と共に動く両者のキャラ。どちらも最初は様子を窺っていたが、真澄の男キャラが突然動きを変えた。
「すげぇ」
興奮した。
そこのディスプレイに動く1人の男キャラは大変動きがきめ細やかでありながら隙が無く、攻撃をくらっている描写もほとんどない。対戦相手が出す行動を全て潰し、しかも何もさせないというまさに強者としての動きで、実際に戦っているようでカルミアは見入ってしまった。
鼓膜に響く音も忘れ、周りの目を気にすることなく、真澄が操っているキャラに感情輸入してしまいつい体を動かしながら応援してしまう。
「いいぞ、真澄。すごいぞ」
ボタンと共に打たれる技は正確で、相手の弱い所をすべて潰しにかかっている。
全てが完成していた。
そう実感したころには、真澄の圧勝でゲームが終了した。
「こんなゲームだよ。楽しめた……かな」
「うむ。楽しめたぞ! めちゃくちゃかっこよかったぞ!」
カルミアは興奮が止まらず、腕を大きく振りながら自分がいかに湧き上がっていたのかを表現した。
「それなら良かった。私、熱中しすぎると周りが見えなくなるんだよね」
「見えなくなるほど熱中するって良い事ではないか」
2人で会話が弾んでいるさ中、向かい側に座っていた男の子が拍手をしながら近づいてくる。
「お姉さん。すごいよ、あなたは。2度も僕が負けるなんて思いもしなかった」
「あっあのときの茶髪くんだね。対戦ありがとう。読みが良かったんだよ」
お互いが握手する。
対戦をしてくれた者に対して敬意を払うのは、見ていて気持ちがいい。
「どこら辺が?」
「んー。キミはまず弾を打ったあとにジャンプをするよね。あれは辞めたほうがいいよ。何度もするとそこに対空を合わせやすいから」
「なるほどね。それよく言われるんだよね」
男の子がニヤついた。
瞬間、カルミアは気付いた。この人は同じ異世界人なのだと。
真澄から離そうと掴みかかり、
「お前は誰だ」
と、口にした瞬間、カルミアの意識は途切れた。
「カルミアちゃん!?」
「寝かせただけだから大丈夫だよ。それよりも、僕はキミに興味が湧いたからちょっと攫うね。おやすみ」
瞬間、真澄の意識も途切れたのだった。




