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美術館にて——02.待っている間

 気分を悪くしたカルミアを連れて、ベンチに座らせる。


「大丈夫か?」


 顔色は悪く、視線が定まっていない。

 見ていてあまりにもキツそうだったので、この場を離れるのが一番なのだろう。


「もう帰ろうか」


「そうだな。それが良さそうだ」


 荷物を手に持ち、カルミアに手を指し伸ばしたとき、


「よぉ海斗。それに真澄まで」


 背後からの呼びかけに振り向いた。

 黒い髪を乱雑に伸ばし、眼鏡をかけた女性。名は、如月愛梨。海斗と真澄の担任であり、沙月の友達でもある。そして、数少ない連絡先を知っている人間の1人。


「あっ如月先生」


 最初に反応したのは真澄だ。


「どうしてここに居るんですか?」


「ちょっと暇だったから。あんたらは宿題か?」


「はい、そうです」


「優等生だねぇ」


 そう言ってヒールを鳴らす如月は、タバコの臭いがした。

 大衆の中に紛れれば気にするほどでもないが、近くにいるので鼻につく。

 なんとか呼吸を彼女の近くでしないよう注意した。


「おっそこの人は……」


 如月の目に止まったのは、椅子に深く座り込むカルミアだ。


「あぁこの人はカルミア・スカーレットと言って、いせ……」


 言い終える前に、真澄の口を手で止める。

 あまりそういう情報を知る人は少ない方がいい、と海斗は考え、咄嗟に行動した。

 と言うのも、異世界人だと言うのは信じがたい事実で、一般人が理解するのは難しいからだ。真澄みたいに魔法を見たり、空から降ってきたところを目撃すれば話は変わるが、説明するためにいちいちそれを見せたら時間がかかる。だから、口に手を当て『カルミアが異世界人』だと喋らせなかった。


「んー。んー」


 どうして言わせないのか、目で訴えてくる。しかし、海斗はお構いなしにその口を閉じたまま


「あぁちょっと彼女が気分を悪くしたみたいでして……」


 と、別の事に話を変える。


「まぁこんなに人が集まると、人酔いするよなぁ」


 如月は不思議に思っているだろうが、それ以上深入りせず、すぐにカルミアへと視線を戻す。

 彼女の前で身を低くして背中をさすった。

 

「大丈夫か?」


「ま、まぁ……ただ少し吐き気がするだけ」


「ふーん。そういうのはあまり我慢しないほうがいい。溜めると体に毒だから」


 如月が指をさした方向は、女性用トイレだ。


「気分が悪いときはトイレに限る。あたしも酔ったときは、よく行くしな」


 如月が人目を気にせず、豪快に大笑いをした。


「ところで、海斗。いつまで真澄の口を塞いでおくつもりなんだ?」


「えっ」


 あぁ、目じりに涙をため込み、顔を赤くした彼女が睨みつける。


「ご、ごめん!」


 口から手を離し、距離を取った。


「死ぬかと思った!」


 彼女の必死の訴えをただただ謝り続けた。

 その光景を黙ってみていた如月が、


「真澄。早く彼女を連れてってやりな」


 と口を開く。

 どうやらカルミアが立とうとしたところを察知したらしい。

 さすが生徒の信頼が厚い教師。人をしっかりと見ている。

 心の中で感心する海斗であった。


「そうですね。行こう、カルミアちゃん」


 彼女の手を取って、トイレへと歩き始める真澄。

 心配な気持ちを抑えつつ、無事を祈る。それしか自分はできないからだ。


「で海斗。お前はどっちが好きなんだ」


「は!?」


 突然の言葉に体が跳ねた。


「どっちか好きだろ。早く言いなよ」


「な、なんで言わなきゃならないんですか」


 如月が「フンっ」と鼻で笑う。


「あっなら、どっちか好きなんだ」


 ハメられた。


「好きなんだろ? そうなんだろ……」


「そ、それは……」


 好きではあるが、ただそれは友人としてであって、恋愛としてではない。

 だが、それを言ったって通じるとは思えないし。

 頭をフルに動かして考える。


「ほら、さっさと言えよ。減るもんじゃないし。それか、あたしが当ててやろうか」


「な、なんで……」


「へへっ。気付いちまったんだ」


 ニヤニヤ顔がからかっているようで、なんとも憎たらしい。

 如月が海斗の腕を引く。突然の事だからなんの受け身も取れず、彼女の体に密着する。

 タバコのにおいに不快感を抱きつつ、如月の言葉を耳にする。



「ってことでじゃあな海斗!」


 からかいに満足したのか、如月はその場から離れた。

 顔を赤く染めながら、海斗は出入り口付近で壁にもたれてスマホを触っていた。

 まだ真澄もカルミアも帰ってきていないので、なんとなくだが、カルド・ウィザードについてネットで検索する。色々とつぶやきや評判を見てみるも、異世界に関する情報が全く出てこない。


 ——まっそんなところだろうなぁ。


 予想はしていた。自分が異世界人であることを表に出すのは変人として見られるし、何より彼は異世界で大犯罪を犯し、その風景を絵にしていたのだから名乗り出るわけがない。

 これ以上調べても無駄だと思い、別のSNSを開いた瞬間、目の前に誰かが立っていた。



「やぁ、こんにちは」


 のりで貼り付けたような不自然な笑みに海斗は、ゾッとした。彼女は異世界人だ。

 黒い服は大事な部分だけを隠し、それ以外を露わにし、黒い瞳と黄色の結膜は明らかに人間ではない。


 右手の腕輪を『ドラゴンスレイヤー』へと変身させようとしたとき、その腕は足で踏まれ、左手は掴まれた。足の間には膝を入れ、首元を押さえつける。


「ジーク。私、あなたを探してたのよぉ」


 トロンとした瞳に広がるのは、恋だ。


 ——なんだコイツ。


 海斗は必死にもがくが、ビクとも動かない。むしろ締まるばかりだ。


「あぁやっと会えたわ私のジーク。すぐに開放してあげるからね。そこで待っていてね」


 尖った唇が接近し、頬へと着地した。


「じゃあね。ジーク」


 海斗から離れた女性は投げキッスをし、茶髪の少年と一緒に美術館を出て行った。


「なんだったんだ今のは……」


 手首にはくっきりと手形が付いている。

 どれだけの力を使っていたのか、ゾッとした。


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