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瞳に映る輝く世界 ――英雄の残したもの――  作者: カンタロウ
エピローグ
29/63

狙う者

漆黒のローブに身を包んだ女性は、闇夜の空を浮いていた。


「この世界に逃げたっぽいな」


 下には明々と輝く建物が無限に広がっている。

 彼女はこの世界の住人ではない。異世界の住人で、魔法を得意としているから浮遊することぐらい余裕であった。


月を背景にして、明々と輝く建物を見下ろす形でその場をとどまっていた彼女は、ため息を漏らす。

 何度か行き来していたからこの建物も、明かりも、世界も、見慣れているが、馴染んでいなかった。

 彼女にとっての居心地のいい世界は、昼と見分けがつかないほどの明るさを発してなどいない。今立っている夜空と同じ、暗い世界が自分にとっての居場所だと感じ、居心地の良さを感じる。

 だから、腹だたしい。

 この世界も、あの世界も、アイツも――。


「すべてが憎い」


 絶叫に近い大声を上げ、溜まっていたフラストレーションを消化した。

 本来であれば他の方法で解消するのだが、今はこれで我慢するしかない。

 状況が状況だし、場所が場所だから。


「前の計画失敗しちゃったんだから、時間ないよ」

 

 背後からまた一人浮かび上がってくる。

 

「うるさいよ」


 ギロっとにらまれた少年は、肩をぶるっと震わせて見せた。


「相変わらず怖いなぁ」


「今イライラしているんだから、仕方ないでしょ」


「計画失敗するといつもそうだよね」

 クスッと笑う少年をまた睨みつける。


「まぁ仕方ないよ。王女を守る人間が増えちゃったんだから。こんなの計画に入ってないじゃん」


 慰めのつもりでいったのだが、彼女にとっては気休め程度にもならない、むしろ焦りを感じさせる言葉であった。

 他の誰にも言っていないが、彼女は二人の人物が来ることを予測して、あらかじめ立てていた計画だ。

それがどういうわけか失敗した。

しかも、それがこの世界の住人によって計画が破綻に追い込まれたのだ。

魔法も、剣も使えないただの人間が壊した——彼女の自尊心を傷つけるのに十分な理由だった。


「あぁーーームカつく!! ムカつく!! どうしてこの世界の人間に阻止されたの」


 彼女は、浮遊したまま地団駄を踏む。


「どうやら、その人間は『ドラゴンスレイヤー』を使えるみたいなんだ」


「『ドラゴンスレイヤー』……?」


 彼女の動きが止まった。

 

「それって、もしかして……」


「キミが想像している通り、英雄ジークのものだよ」


 その瞬間、全身の毛を逆立ちにさせるような殺気を発して、少年の胸ぐらを掴んだ。


「それってどういうこと? ジークを利用した人間がこの世界に居るってことでいいの?」


「落ち着いてよ」


 少年のなだめた言葉に、彼女の強く握られた拳が緩んだ。

 伸びきった襟を元に戻しつつ、彼女に説明を始める。


「いや、どうやら彼、この世界に転生したらしい」


「ってことなら」


「そうキミが求めている英雄ジークはこの世界で姿と名前を変えて生きてるんだよ。ちなみに情報がそれ」


 少年が投げた一つの紙切れを彼女は掴んだ。それは白いところなので反対なのだと知り、裏返した。


「この子が……」


 そこに映る少年は、髪がツンツンとはね、ぎろっと全てを睨んでいる。ただ目が黒い。もしジークの生まれ変わりであれば、瞳は赤いはずなのに。


「あぁもう1枚あるんだよ。ほら」


 もう1つ投げげられた紙は、逆さになっていたので向きを元に戻す。そこには同じ少年が映っているが、明らかに瞳の色が違う。


「ジーク……」


 ルビーのように赤く、黄金の剣を握っている様はまさに英雄だ。


「あぁ愛しのジーク。生きていたのねぇ。私、嬉しいわ」

 

 赤く頬を染め、自分の体を抱きしめる。そして、ヘビのようにクネクネ体を動かし、甘い吐息を漏らした。


「そういうのは、見えないところでやってよ」



「確かに……。じゃあ後は頼んだよ。クローバー」


 少年に背中を向けた後、彼女は突風と共にどこか遠くの場所へと飛び去って行った。


「まったく」


 クローバーと呼ばれた少年は、最初こそ驚いたがすぐに不敵な笑みをこぼす。


「わかったよ。クロユリ」


 彼女とは別の方向へと飛んで行く。

 楽しみを胸にして。

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