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瞳に映る輝く世界 ――英雄の残したもの――  作者: カンタロウ
エピローグ
28/63

特訓の成果

今日は何をするのか、考える。

 初日以外の特訓は地獄そのもので、外出なんてほとんどできなかった。このまま家にこもり続けるのも悪くはなかったが、家か森の往復しかしていないカルミアは退屈に思っているだろう。

 せっかく違う世界に来たわけだし、彼女は何処かに行きたがっているはずだ。

 スマホでネットサーフィンしていた海斗は、カルミアに喋りかけた。


「どこか行きたいとこあるか?」


「行きたいところは……」


難しい顔して悩み始める。

 そんなに悩むものか、「〇〇に行きたい」と一言いえばいいのに、と考えた。しかし、それはこの世界を知り尽くしているからそう思えるのだろう。この世界に来て5日しかたっていないカルミアの状況とマリーの話を考慮すれば、彼女自身はこの世界とこの国のことをまだよくわかっていないはずでだ。

 その状態で場所の指定をするのは至難の業である。


 なんてことを言ってしまったのか、と後悔する。


「カルミア。この世界に来てまだ6日しかたってないから、出てくるわけないもんな。ぜんぜん考慮してなかった」


 海斗が口を挟んだことで、彼女の思考は停止する。

 だが、赤い瞳と赤い瞳が交わったとき彼女はワッと大きな声を出した。


「そうだ。海斗のこともっと知りたいから、ワレを思い出の地に連れてってくれ」


「思い出の地……」


 そんなとこあったか……。いやある。


 流れ込んでくる嫌な記憶の中から姉との思い出を必死に繋げ、行けるかどうかの判断をする。大体はここから遠い場所だけれど、いくつか公共機関を利用すれば行けなくもない。しかし、行くにしてはこの真昼間だと無理がある。行くだけを考えれば問題は無いのだけれど、次の日も考えればすぐに帰る必要があった。

 ならば行く場所は1つ。姉にみたらし団子を奢ってもらい、カルミアと出会ったあの商店街、それしかなかった。

 少し考えた海斗が口を開く。


「いいよ。でも、お前も知っているところだけど」


「構わん。ワレは、海斗が思い出と思うならどこでもいい。例え世界の裏側であってもな」


 バイトしていないただの高校生がそんなところ行けるわけがない。


「あと面白みは全くねぇよ。くっそつまらんし、ありの行列を見ていたほうが遥かに楽しいと思えるけど、いいのか?」


「いいのだ、いいのだ。ワレは、海斗が思い出としている地に行きたいだけだ」


 カルミアに押し負ける。


「わかった。連れてってやるから文句言うなよ」


「言うわけないだろう」



――――



 カルミアとの最初の場所——商店街に着いた。

 近場であり、すぐ帰ることも考慮して恰好は比較的ラフだ。

 観光スポットでもなければ、楽しめる店が何一つない――シャッターでしまった店だけが残った商店街を案内するのは間違いだとわかっているけれど、あの家から一番近くて、かつ思い出が詰まった場所と言えばここしかない。

 自分は悪く無いのだと正当化する。

 

 でもやはり楽しめるわけが無いのは明らかだった。居酒屋や和菓子屋は生きているとばかり思っていたけれど、これじゃあ死んでいるとしか思えない。窓ガラスの奥から見える光でなんとか店が動いているのは確認できるけれど、本当に人が居ない。


「…………」

 カルミアに目を向けると、なぜか彼女は楽しそうにここを見ていた。

 嬉しそうな、喜んだ表情をしている。


「楽しい要素ある?」


 不意の疑問をぶつけてみる。


「ないぞ。でも、ここで海斗と出会ったんだ。思い出すとちょっと笑えて来たんだ」


「そうだな。ここから始まったんだよなぁ」


 全てはここから。

 自分が寂しいと理解したときも、カルミアと出会ったときも、魔物とも戦ったのも、全てがここだ。

 ここで始まって、またこうして今度はカルミアと良好な関係を築いた状態で戻ってくれるのは、嬉しいものだ。


 入り口にある小さなクレーターや道路の割れ目は今でも残っていた。

 恐怖の印でもあるけれど、思い出の印でもある。

 懐かしさゆえについつい床に手を付いた。


「……ん?」


 割れ目に黒い光がともされる。

他にもいろいろな割れ目が次々と光始め、何かが始まることを想起させてくれた。


「海斗、離れろ!」


 カルミアが襟を引っ張ったことで、体が後ろへと倒れる。2回ほど後転して、眩暈を抑えつつ光を遠目から見ることができた。

 何かを呼ぶように、黒い光が光って消えるを繰り返す。


「来るのか」


「あぁそのようだな」


 カルミアはいつの間にか『レイヴ』の鎧を着ていた。しかし、彼女は手が震えている。小刻みに、恐怖を抑えているようだ。

 海斗は、カルミアの前に出て、


「俺がやるよ」


と、右手の腕輪を黄金の大剣『ドラゴンスレイヤー』へと形を変えた。


 ロビンに特訓をされたから剣の構えが締まっており、様になっている。それだけではない、剣豪のような威圧までも彼は出すことに成功していた。

 初めて握ったあの日よりも、何倍も強くなっている。


「グルル……」


 獣の声と共に現れたのは、あのときのウォーウルフだ。毛は縮れて、ところどころに皮膚が見えている。つまり、アンデッドなのは間違えない。

2匹の狼と1匹の巨大オオカミを前にして、海斗はワクワクしていた。自分がどれだけ強くなって、どれだけ戦えるのかを知りたい。

 手の震えは武者震いなのか、恐怖なのか、アドレナリンが巡回した今では正確に言い表すことができない。しかし、1つ言えることはビビってなどいなかった。今から戦えることに心の底から嬉しさに満ちていた。


 ――戦いたい。


 ただそれだけだ。


「ワオーーーン!!」


 ビック・ウォーウルフの遠吠えを開戦の合図として、海斗と2体のウォーウルフ走った。


「ガウ!」


 右のウォーウルフは飛ぶ。


「それは前も見た」


 同じく海斗もジャンプした。その跳躍力は、以前よりも増している。ウォーウルフの頭上へと飛んだ彼は、見失っているその獣の頭蓋骨に向けて剣を振り下ろした。

 頭は切れ、力なく地面へと落ちる。形成していた肉体が砂へと変化し、風と共に空を舞う。


「グルル」


 待ってましたと言わんばかりに、ビック・ウォーウルフは背中に生やした8本の触手で攻撃を仕掛けてくる。

しかし、海斗はこれを容易に交わすだけでなく、カウンターとして触手を切り落とす。

 魔獣は表情をゆがめることなく、攻撃手段であった触手を失い動きが鈍くなる。その間に、地面から飛んできたウォーウルフを縦一直線に真っ二つに切り裂いた。これも同じく、砂となり、消える。

 地面に着地した海斗は、魔獣へと焦点を当て、


「残るはお前だけ!」


 と高らかに声を張り上げた。

 魔獣は察知したのか、頭を上に上げ、口先を細める。


「ワオーーーーン!!」


 大きな遠吠えと共に、また新たに現れる2体の同じ魔物。

 だが、どれだけだしても今の海斗には敵わない。それだけロビンに鍛えられたのだ。


「お前は、次も叫べねぇからな」


 地面に居るウォーウルフが2対同時に走ってくる。

海斗は迎え撃つように同じく走った。

獣と人間がぶつかるその瞬間、彼はサラリと体を捻って両側にいる死獣の首を難なく切り落とした。

 走りを止めることなく、海斗は次の行動へと移れるよう剣先を下に向ける。


「グルル」


 頭上がビリビリと音を上げる。


「これは、あれか」


 海斗はニヤリと笑い、『ドラゴンスレイヤー』を横向きにして自分の頭へとかぶせた。

 瞬間、ゴロゴロゴロと音を上げ、紫の光がジグザグに彼めがけて落ちた。しかし、海斗はもう防ぐ手段を取っていたため当たることがない。

 2回目も、3回目も、同じく落ちるがそれをときには『ドラゴンスレイヤー』で防ぎ、ときには軽い身のこなしで交わしたりしてついにはビック・ウォーウルフとの距離が目と鼻の先となった。


 魔獣は、唇を尖らせ、上へ頭を向ける。


「言っただろ。叫べねぇって」


 『ドラゴンスレイヤー』を投げてそのがら空きとなった喉へと突き刺した。


「キャン」


 まるで流血のようにサラサラと砂が落ちる。

 海斗はジャンプして、喉に刺さった『ドラゴンスレイヤー』のグリップを握って、力いっぱいに上へ引き上げた。

 喉から口先まで切れて、ビック・ウォーウルフは力なく倒れ込んだ。体は砂となり、同じく消える。

 腐肉の魔物は死んだ――それも自分1人の力で成功した。


「倒せた……」


 自分が強くなっていること、自分1人でもできるようになったことが何よりも嬉しく、小さなガッツポーズを取った。


「海斗。すごいな!」


 『レイヴの鎧』を脱いでいたカルミアに抱き着かれる。


「うわっ」


 あまりにも驚き、尻もちをついた。



「海斗。海斗。海斗!」


 自分の名前を連呼する王女様に引きつった笑顔を向けながらも、彼女の頭を撫でた。


「もうオレは立派に戦えるよ」


「そうだな、海斗」


 勝利の愉悦に光るのは甘いかもしれないが、初めてやり遂げられたのだから喜ばせてほしい。

 海斗の中に眠る英雄の魂がくすぶっていた。


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