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瞳に映る輝く世界 ――英雄の残したもの――  作者: カンタロウ
エピローグ
26/63

ドラグネス王国の王女―05.壊れた理由

 晩御飯を一人で過ごすなら質素にしていたけど、カルミアがいるのでハンバーグにした。

 ネット検索でレシピを調べ、いいかんじのハンバーグが完成する。ソースは、ハンバーグの油とケチャップ、ソースを混ぜた超簡単でお手軽なやつだ。


「できたぞ」


 プラスチックのお皿に乗せたハンバーグを彼女の前に出す。


「うおぉ。これ海斗が作ったのか」


「まぁな。プロと比べるなよ」


 王女の口に合うのか、自信が無い。

 

 それから、炊き立てご飯とインスタントの味噌汁、昼ご飯で残ったサラダをだして食べ始める。


「海斗。このハンバーグ美味しいではないか。やるな!」


「口にあったようで良かった。正直、王女のときのほうが食べる物って豪華だっただろ」


「もちろん。ただ海斗や真澄が作ってくれた料理のほうが好きだぞ。幸せな気持ちになるからな」


 幸せ……か。

 誰かの手作り料理を食べてそう感じられるのは、カルミアの心が豊かな証拠だ。


「それは良かった」


 ただ作った料理で生まれる幸福感をジンワリとだが、ソフトに感じた。

 ここに来てすぐの頃、姉に作った記憶が今蘇った。




 食事を済ませ、カルミアはシャワーに入った。

 その間、皿洗いを終わらせる。

 

「紙皿にすれば良かったなぁ」


 そう愚痴をこぼし、腕を進ませる。


「海斗―。終わったぞー」


 ウサギがプリントしたTシャツとまた同じハーフパンツを着たカルミアが浴室から出てくる。


「あとは、ワレがやるから入ってくるといい」


 そう言われたけど、もう少ししたら終わるので断った。



 気合と根性で、皿洗いを終わらせ、浴室で服を脱いだ。

 

 上半身裸体となった海斗の体に変化は見当たらない。

 まぁそんな数時間程度で現れたらそれこそチートすぎるから仕方ないか、と思い、ふと浴室の鏡に映った自分の背中が目に見える。



「な、なんだこれ!!」


 悪い方向へと変化していた。

 背中に貼られた湿布の隙間から見えた皮膚が紫へと変色している。

 上半身を裸のまま急いでリビングへと向かった。


「か、カルミア。これ……ちょっと」


 背中を見せると、彼女も同じように


 「なんだこれ!!」


 と声を張り上げた。

 その後すぐスマホのような透明な板を手にしたカルミアが胸に近づけ目を瞑る。それは『GI13』——『ツウシンくん』と呼ばれ、すぐにマリーが訪ねてきた。

 軽く挨拶と症状を話し、海斗の部屋を案内する。

 二人きりの空間は、緊張した。

 カルミアとは問題なかったけど、マリーとはなぜか胸がドキドキして、恥ずかしさと言うかそういった羞恥な気持ちになる。


「ここで横になって頂戴」


 マリーの指示通り、上半身だけを脱いだんだが――


「いや、ズボンも脱がなきゃダメでしょ。少年くん」


「あっ、そ、そうですよね」


 まだ下半身の症状を確認していないから、この場は脱ぐしかない。

 上半身で驚いてるあまり、そこを疎かにしてしまったのは反省点だ。

 ズボンを脱いで、脇に置く。


「…………」


 海斗がうつ伏せとなり、その上にマリーが座った。


「……ッ」


 これは治療なのだ、と自分を言い聞かせる。


「下半身も少し同じ症状が出ているね。この湿布は合わなかったのかな」


 暖かい指が太ももに触れる。


「ひゃひ!」


 触られることを想定していなかったから変な声が出た。

 恥ずかしさで顔を赤くし、顔を伏せた。

 何をやっているんだオレは、と強く叱責した。


「少年くん、感度いいねぇ」


「人よりちょっと痛覚に敏感なんですよ」


 比べたことないからわかんない。ただのでたらめだ。


「そうなんだんぇ。じゃあこれは……」


 内またのほうに指が触れる。


「ひょほ」


 我ながら間抜けな声に涙目となる。

 これずっとやられたら流石の自分も理性の鎖がおかしくなりそうだ。

 振り返って、


「ちゃんと治療してください」


 と強気に言った。

 すると、彼女は黄色の目を細めて、笑う。


「ごめん、ごめん。少年くんの反応が面白かったからつい」


 さて、真面目にしますか、マリーは海斗の背中に指を置いた。

 今度は、真剣だ。本当にやってくれるだろう。


「ちょっと剥がすね。痛かったら痛いと言うんだよ」


「わ、わかりました」


 心臓の鼓動が彼女に聞こえていないか心配になりつつ、赤面する顔を隠した。

 背中の湿布が一枚ビリビリと剥がれる。痛みはないけど、ヒンヤリとした感覚がそこにはあった。


「痛かった?」


「全く痛くないです」


 その言葉をキッカケにして、全ての湿布をマリーは剥がした。もちろん下半身は丁寧に剥がしてもらう。


「はい。終わり。どうやらこの世界の人間には、この湿布は合わなかったらしい。ごめんね、ワタシの調整不足だ」


「全然、大丈夫ですよ」


「ちゃんと調整しておくね。じゃあ次は――」


 いつの間にか彼女は、栄養ドリンクサイズぐらいのビンを持っていた。

 コルク栓を抜いて、ドロッとした液体を手のひらに垂らし、よく馴染ませる。


「ちょっと冷たいかもしれないけど、我慢してね」


 声が出ないように唇をギュッと噛んだ。


「じゃあいくよ……」


 滑らかな声と共に冷たい感触が背中に広がる。


「……ッ」


 なんとか声を我慢し、枕に顔を埋めた。

 耐えろ、耐えろ、と強く念じて大きく開かれた鼻の穴から息を吸う。


「ちょっと少年くんに話したいことがあるけど、いいかな」


 そう言うと、マリーの顔が耳元に近づけた。

 彼女の吐息がそっと耳たぶを撫で、15歳の少年を刺激する。

 なんとか違う事を考えるが、どうやっても現れるのは羞恥な考えだ。

 これは試されているんだと、ここで理性が外れるのはダメだと、必死に訴えて自分を保つ。



「少年くん。私ね、きみのことを最初は信用なんてしてなかったんだ。でも、カルミア様の態度やロビンの特訓にしがみついているところをみて、自分の愚かさを学んだよ。ごめんね、少年くん」


 話なんてほとんど入ってこない。入っても、左から右に流れている。

 しかし、なんて言いたいのかは大体わかったので、それを脳内で整理し、言葉にする。


「いや、まぁ……正直、俺もそっち側なら絶対に疑ってました。だって、どこに敵が居るのかわからないっ状況で、よく知らない男と王女が、……つるんでいたら敵のスパイかと疑っちゃいますよ。なので、あ、謝らないでください」


 マッサージの気持ちよさが混ざり言葉が合間合間に詰まるも、なんとかそれをマリーに伝えることができた。


「そう思ってくれるなら、嬉しいわ。それと、また話したいことがあるんだけど、このままでいいかしら? カルミア様に聞かれたくないのよ」


「いいですけど、なんでしょうか」


「それはカルミア様のことなんだけど、彼女はちょっと精神年齢が落ちているみたいなの」


「えっそれって……」


「多分、ショックが大きすぎて、彼女の中で何かが壊れたと思うの。もしかしたら、仲間の死を見せたのが原因なのかもしれないけど……少年くんは何か知らない?」


 変化など、海斗にはわかるはずがない。

 というのも、まだ出会って1日目で、やっと2日目になったばかりだ。そんな状態で彼女の変わりようがわかるわけなかった。

 それでも、何か「そんなことってありえるの?」と思わせることがいくつかあった。


 小声でマリーに向けて話す。


「えっと、警戒が解けたからというのも考えられるんですけど、初めてあった時は怖かったんすけど、魔物戦後の彼女は優しかったです」


「なるほど。他には?」


「他なら、魔人に破れたとき彼女は泣いて、俺に向かって助けを呼びました」


「カルミア様が助けを……。もしかして、逃げた?」


「あっはい、逃げました。それって関係ありますか?」


「んーわからないけど、あの世界は逃げることを結構タブーになってるのよ。もしかしたら、それで少しだけ自分を責めすぎちゃったのかな。他に何かある?」


「えっとー……それならドラグネス王国が負け始めたのがわからないって言ってました」


「そんなことを!?」


 マッサージの手が止まる。


「あり得ないわ。だって、一国の王女であり、戦う人間が自国の負けの原因を知らないって……そう考えると、魔人戦のときが彼女は結構堪えたようだわ」


 マリーの言葉をきに海斗も回想を始めているが、魔人戦後の彼女は明らかに違う。緊張が解けたと考えていたけど、あのことがキッカケで彼女の何かが壊れたというのだろう。

 海斗自身も魔人と戦ったときは、恐怖で足が竦み、まともに戦えなかった。思えば、自分も強くなりたいと思え始めたのもあの辺りだ。

 カルミアにとっても、海斗にとっても、あの戦いは自分を変える大きな戦いであった。


「負けた原因ってなんだったんですか?」


「それは、ロウカミ国の誰かが死者復活魔法『アンデッド』を敵、味方関係なしに発動させたから戦場がぐちゃぐちゃになってね。ほぼ同士討ちが起きて、自滅していったのよ。あれは私でもロビンでも解除できない強力な魔法だった……」


 一体だれが、マリーの声は弱弱しくなる。

 戦争の悲惨さは、海斗にはわからない。ただそれでも彼女の悲しい雰囲気から察しが付く。

 マリーもロビンもカルミアもいい人だから、その戦争を終結させてあげたいけど、今の自分には力不足だし、まず異世界を知らないのだから無理に近い。

 だから、せめてこの世界に彼女たちがいてくれれば力になりたい気持ちでいっぱいだ。そのためには、ロビンの特訓を耐える必要がある。

 なんとか頑張るつもりだ。


「話してくれてありがとう。少年君に『ドラゴンスレイヤー』を渡した理由もおおよそ理解できたし、キミは良い人だ。お礼におっぱい揉んでもいいよ」


 背中に当てられたその重圧で、海斗は一気に赤面した。

 手足をグイッと伸ばし、額から冷や汗が浮かぶ。


「な、なにを……言ってるんですか」


「なにって揉んでいいよって話だよ。ほらキミ私の胸意識していたから好きなのかなぁと思って。もしかして嫌い?」


「いや、その、えっと、あの……」


 海斗は、大好きである。だからと言って、好きだとは答えにくい。それで嫌われたくないし、でも嫌いだなんて口が裂けても言えない。

 なんて答えるのが正解か――そればかりを考える。


「結構、意識してたから好きなのかと思ったけど……ワタシが勘違いしてたようね。ごめんね、少年君。変なこと言って今のは忘れて」


 これは相手を傷つけた。

 顔は向けないけれど、下に向けたまま


「大好きです!」


 強気に自分の意志をマリーにぶつけた。


「でも、触るのは止めておきます……」


 枕の布を噛み、目を瞑って悔しそうに答えた。

 もめる事なら揉みたい。ただヒヨって弱気になった海斗であった。


「そうなんだぁ。まぁこれで私たちの関係がおかしくなったら嫌だもんね」


 隣の布団が沈む。

 あぁ彼女は座ったのか、そう思い顔を上げた。

 が、そこにあったのは巨大で2つの式欲が暴力的に並んでいる。


「海斗くん……」


 ピンク色の唇から発せられる色めきのある声は、彼を虜にした。

 心臓がドクドクと脈を打ち、呼吸が早くなる。全身に流れる血液が盛んに駆け巡っているのを感じながら、マリーの黄色の瞳を見た。

 ひまわりのような黄色は、この夏を彩る花火のようだ。


 



 オイルマッサージは無事終わり、海斗とマリーは部屋を出た。

 あの後、何かあったわけでもなく、ただその隙間を目にしただけ。他に何事も起きていなかった。


「おぉ海斗―! 終わったか」


「うんまぁな」


 服をめくって確認するカルミア。


「おぉ色が落ち着いてきてる。これなら一晩も経てばすぐ元通りだな。ありがとうマリー」


マリは首を曲げながら、微笑んだ。


「これぐらいお安い御用です。ロビンの愛弟子ですもの、できることならなんでも手伝います」


「それは頼もしいなぁ。よかったな海斗」


「う、うん……」


 あの刺激的な状況が頭の中に流れて、一向に会話が付いて行けない。

 今が夢なのか現実なのかを判断するのですら、多少なりとも時間がかかる状態だ。


「あら、少年くん。顔色が悪いわね……もしかして」


マリーの手から逃れるように、後ろへと後ずさる。


「いやぁ、全然そんなことないですよ。えぇ全く」


 海斗のあからさまな態度の変化に、カルミアは眉をひそめた。


「それならよかった。特訓はあと4日続くから頑張ってね。期間中は毎日来るからよろしくね」


 マリーはウィンクした。


「………」


 彼女のマッサージがまさに自分を保つ特訓であった。


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