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瞳に映る輝く世界 ――英雄の残したもの――  作者: カンタロウ
エピローグ
25/63

王女との買い物

 使った調理器具まで洗った後、真澄は帰った。

 昨日、魔人と戦ったときも助けてもらい、ご飯までごちそうになって彼女には申し訳なくなる。

 ただ真澄のお礼は日を改めるとして、今は2人分の食料を確保するに行くことが優先であった。


「もう出かける準備はできたか」


 

「できた!」


 洗面所から現れたカルミアは、真澄からもらった服で全身を固めていた。

 白のTシャツとデニムのショートパンツのコーデは、体型の良さを全面的に押し出しいる。


「どうだ。海斗、真澄からもらったやつを着てみたぞ」


 両腕を腰に添えて、自信満々に見ろと言わんばかりに突き出してくる。


「めっちゃ似合ってるよ。すげぇ可愛いな」


 後半は照れが生じて、声は小さかったが、伝わるように努力した。

 褒める時は褒めるべき、と何かで聞いたからだ。


「ふっふっふー。そうか、そうか。似合ってるおるのか」


 廊下でクルクルとバレリーナのように回転して、嬉しさを体現する。

 このまま回られると時間が押す一方なので、さっさと食料を買いに行って帰りたい。


「あぁ似合ってるよ。ってことで行こうか」


 彼女の回転はピタッと止めた。


――――


 目的のショッピングセンターへと着いた。ここがあの有名と言うべきか、商店街から客をかっさらった悪魔の場所だ。

 店内には主婦やご年配の方なども見られるが、何よりも学生らしき人物が多かった。大体、今週から夏休みに入る学校が多く、そのせいもあってか軍団でちゃらちゃらと話しながら歩いている。


「………」


 学生でありながらも学生は苦手だ。しかし、今回は心配がない。

 海斗が通っている界英高校は隣町だからここでクラスメイトと遭遇する可能性は極めて低い。もし会ったとしてもそれがクラスメイトの可能性は限りなくないし、ゼロと考えて問題が無いレベルだ。だから、カルミアを連れても安心して買い物ができる。


 何も気にすることなく、彼女と暮らすための食材を手に入れられる。


「海斗。これはすごいぞ!」


 人のにぎやかさには抗体があるようで、カルミアは赤い瞳を輝かせながら見渡していた。

 目新しいものがたくさんあるから楽しいのだろう。バス代を払ってまで、連れて来たかいがあった。


「城下町みたいだ。本当にみんな楽しそうだ」


 行き交う人々の理由、構成はいろいろだ。しかし、どの人も笑顔で楽しそうに歩いている。

 幸せが満ちている。


「懐かしいな、この祭りの感じ。ドラグネス王国もこうだった」


 その途端、彼女の目から光を失う。ロウソクが消えた暗い部屋かのようにどんよりとし、悲しさを滲ませていた。

 ここ連れてくるのまずかっただろうか。しかし、今更場所を変えれるわけにもいかない。ならば――。


「カルミア、こいよ。楽しいとこ連れてってやる」


 彼女の手を引いて、エスカレーターでのぼった。


「これが楽しい所か!?」


 自動で上にあがる自動階段に興奮を隠しきれない。

 これじゃないんだが。


「これよりももっと楽しい所だ。まじ」


 赤い瞳に光が灯る。




 2階にあるゲームセンターに着いた。ここは近くに映画館があると言うこともあり、半券サービスをよくやっている。

 クレーンゲームの設定は少し厳しいが、取れないことも無いので楽しめる場所だ。ただ気が抜くとすぐに生活費が無くなるから気を付けなければならない。


「光がたくさんだ!」


「あぁ結構にぎやかだろ」


 ゲーム音がガシャガシャ響いて、会話するときは声を張り上げた。


「こんなに光っていると、昼か夜かもわからなくなるな」


 ゲームによっては、1日を潰せるから言いたいことはよくわかる。


 彼女が楽しめるものが無いかを一緒に探した。カードゲームやメダルゲームにはあまり興味を示さなかったが、どうやらクレーンゲームにくいついたらしい。目に入れた瞬間、ガラスに飛びついたからだ。


「これ! これ!」


 彼女がそう言って指さしたのは、サメの大きなぬいぐるみだ。

 

「好きなのか?」


「好きというか、かわいいのだ」


 その言葉には苦笑いで返すしかなかった。

 尖った目にギザギザの歯に愛嬌なんてものは見れず、怖さがある。ただぬいぐるみというオブラートがあるせいか、多少軽減されている。ただそれでもかわいいとは程遠い。

 どちらかと言うと、隣のティラノサウルスのほうが可愛い。目は粒らで、歯が尖っているものの、口を大きく開き、間抜け面だ。色も緑色だから可愛さは、こっちのほうが勝っている。


 それでもカルミアが言うのであれば、かわいいのだろう。

 財布を開いた。


「よし、取ろう」


「取れるのか?」


「あぁ任せろ」


 クレーンゲームに百円を投入した。

 


 なんとか苦労しつつも1000円を使って無事ゲットする。

 カルミアは楽しそうにそれを抱いて、顔をこすりつけた。


「すべすべぇ」


 彼女の表情はぐにゃあとしており、癒されているようだ。

 ここまで喜ばれると、頑張って取った甲斐がある。また来たいと思えた。


「じゃあ、目的の食材買って帰ろうか」


「うむ!」


 サメを抱く17歳に対して珍しい視線を向ける人々に居心地の悪さを感じつつ、食料売り場に向かった。



 食材を買うことに問題は起きなかった。並べられている野菜を勝手に食べることも、商品を開封することもせず、買い物に付き合ってくれた。

途中、何度か珍しい食材や調味料、加工食品を前にすると立ち止まってはいたが誰にも迷惑はかかっていなかったし、気にするほどでもない。引きはがすのが少々大変だったけど、それぐらいどうって事ない。手を引っ張るか、声をかければ彼女は動いてくれたからだ。


「海斗、今日は楽しかった」


 いつの間にか陽は傾き、周りの風景がオレンジがかっている。

 陽の光に照らされた彼女の赤い瞳と金色の髪は、やはり美しく輝いていた。いや、昨日よりも輝いている。まさに神の光のようだ。

 しかし、それに対して海斗の瞳はカラコンにより、黒くなっていた。まだこれを人前で見せられるほど自分でも受け入れていないからだ。


「あぁ俺も楽しかった」


 両手にパンパンのビニール袋を持つカルミアをベンチに座らせ、海斗は立ってバスを待った。

 率先して彼女に持たせているわけではない。カルミア自ら「ワレが持つ」と言ったからだ。むろん最初は断った。いくら自分よりも強いと言っても、女性なのだ。流石に女性に対して重い荷物を持たせるわけにはいかない、と考えて


「これぐらい持てるから、大丈夫」


 と言ったが、


「いや、海斗は今修行のみで体を酷使している状態だ。持たせるわけにはいかん」


 と、優しさから持ってくれた。

 全然そんなことないのに。余裕でどこもかしこもピンピンしていて、むしろ体が軽い。

 ただカルミアの押しに負けて、海斗は彼女に荷物を渡した。

でも、その代わりバス停のベンチは譲った。優しさと言うよりも、負い目を感じたくなかったからだ。




「ほんと楽しかったなぁ」


 誰かと買い物行ったのは、久しぶりだ。最後に誰かと行ったのは、姉の沙月が家を出て行く前日だったから実に4か月ぶりとなる。

 そう考えれば意外と遠い。遠い昔に感じる。

 楽しかったかどうか覚えていない。ただ1つ言えることは、沙月なりに頑張って場を盛り上げてくれていたところだ。

自分の新生活があるのに、弟の事を心配してギリギリまで一緒に居ることを選んでくれた姉を考えることなく、一方的に突っぱねてしまった。

 もしあのとき自分が少しでも笑っておけば、楽しく見送れたのだろうか――カラコンのように黒い過去。見るだけで憂鬱となる。


「海斗、バスが来たぞ!」


 左からくるバスに指をさし、教えてくれる。


「お、おう。そうだな、よし帰るか」


「あぁ」


 両手に荷物を持ったカルミアを先に行かせて、腕にサメのぬいぐるみを挟んだ海斗が乗り込んだ。

 楽しかった思いを胸にバスが発車する。


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