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瞳に映る輝く世界 ――英雄の残したもの――  作者: カンタロウ
エピローグ
24/63

昼食

 本日の特訓を終え、海斗の家へと転移魔法で瞬間移動した一行。


「また明日やろう。だから、今日は体をしっかりと休めろよ」


「わかった」


 『GI31』を首から外して、マリーに渡す。


「助かりました」


「フフッ。これからも頑張ってね」


「もちろんです」


 自分なりにできることをやって、彼らの助けになりたい。

 それがいつになるのか見当もつかないけど、いつか必ずこの手で守れるぐらい強くなりたい、と海斗は考えている。

 ロビンには、少しばかり叱られたが。


「ロビン。海斗のためにありがとな」


 カルミアの感謝の言葉に頬を赤くし、背ける。


「いえ、自分が適任だと思ったのでしただけです。お礼を言われる筋合いはありません」


 あたふたしている様子を隠すように、海斗をみるロビン。


「お前逃げるんじゃないぞ。逃げたら許さないからな」


「逃げねぇよ。てか、逃げれる状況でもないだろ」


「まぁな。王女と天才科学者と狙撃手が捕まえにくるんだ。逃げるほうが難しい」


 そう言われると、今の状況は恵まれているように思える。ピースは揃ったと言うべきか、カルミアと一緒に戦ってくれた強い仲間は、ウォーウルフと呼ばれる魔物を倒すことぐらい安易だろう。

 それに、この世界はカルミアたちが居た世界とは別だ。相手は大量に出現することができない。もちろんそれは自分たちにも当てはまるけれど、こっちにはいざとなれば国家権力がある。もし空を覆いつくすほどの魔物が現れても、国家権力が頑張ってくれるだろうから大丈夫だ。

 まぁそうなる前に強くなっていたいのだが。

 果たして現実はそう上手く出来上がるのだろうか、祈るしかなかった。なんとか上手いこと事が運んで少しでも自分が強くなれる時間が稼げれば、と神頼みするしかできない。



「カルミア様。預かった『レイヴの兜』修理しておきます」


 玄関先で、マリーとロビンは振り返った。


「あぁ頼んだ」


「はい、お任せください。それでは……アッその前に、はいこれ」


 斜め掛けしているボストンバッグから取り出したのは白い布、いや、テープと言うべきか、それは長方形の形をした何かだった。


「ただの湿布だよ。もう少ししたら体が痛むはずだからその前に貼るといいよ」


「ありがとうございます」


 海斗は、受け取った。


「それじゃあカルミア様、お元気で」


「また、会いに来ます」


「あぁいつでもこい。待っておるぞ」


 ここは俺の家なのだが――その言葉は無粋で、空気を読めていないので言わないことにした。


「少年くんも頑張ってね」


「あっはい、頑張ります。あっあと食べ物ありがとうございました」


 玄関に行く前、マリーから食べ物を貰っていた。それも結構、たんまりとした量の野菜を。


「いや、いいのよ。気にしないで。野菜しかなくてごめんなさいね」


「いえ、それでも十分助かります」


「それじゃあ良かったわ。またね」


「明日も準備しておけよ、海斗」


「もちろん」


 別れの挨拶をしマリーたちは、玄関から出て行った。


 薄っぺらい端末――スマホで今の時刻を確認する。

 13時は過ぎていた。体感的には1時間だったと思っていたが、実際は2時間たっていた。時間の速さと感覚に困惑しつつも、連絡アプリに数字が浮いている。

自分に連絡を入れる人なんて数が限られているから、おおむね予想がつく。

 真澄だ。

 どうやら、食べ物が無い事を心配しており、〈昼ご飯作りに行こうか?〉という文と、ジト目のウサギのスタンプが送られていた。


 お腹はすごく空いているし、有難い申しつけだけれど、食べ物はマリーからもらったものがある。冷蔵庫の隣にある袋にどっさりと入った野菜と、冷蔵庫の中に軽くパンなどがあるから、これとハムを合わせて食べようかと考えていた。


〈食べ物があるから大丈夫〉と送信する。しかし、時間がたたないうちに真澄から


〈ふっふっふっ。マリーさんたちから話を聞かせてもらったよ。このクラス委員がキミの修業期間中に手助けしてあげよう〉


 彼女からそう申しつけがあった。


 なんとなくだが、真澄も頑固なところが見える。だから、ここで断ったとしてもまたどこかのタイミングで話をしに来るのは察しが付くし、正直ご飯を作るのが今日はめんどくさかったからお願いしたいところもある。

 少々、葛藤した結果


〈じゃあお願い〉


 と一言だけ送った。


〈了解! すぐ準備するから〉という文とウサギのスタンプが送られる。

 今度は可愛げがあり、背景に花びらが舞っていた




 リビングに戻ったころ、カルミアは午後のワイドショーに目が釘付けで、学んでいるような表情だった。

 彼女の真面目な顔は、出会ってすぐの事を思い出す。そのときも、今と変わらない真剣な表情でこちらを見ていた。凛としているがおしとやかさを兼ね備えており、笑顔とは無縁に思えていた。しかし、今は真面目な表情のほうが遠い所にある。


 足音で気がついたのか、海斗を見てすぐいつものニコニコ顔へと戻った。


「終わったか、海斗」


「まぁな」


  床を叩き、

「では、海斗。服を脱げ」


 えっそんな急に。

 一瞬、考えがよぎるけれどカルミアの手に持っている白い布を見てすぐに察する。


「今から湿布はるのか? まだ痛くないけど」


「痛くなる前に貼れ、とマリーが言ってたではないか。忘れたのか」


 海斗が認識していた湿布とは、痛みが出てから貼るものだが、異世界人からしたら痛む前に貼るものなのだろうか。

 それともただこれが特殊なだけで、本来は自分で認識しているものが正しいのか。

 異世界人と自分の認識や常識の違いを合わせるのは、なかなか難しい。もう少し説明を聞いておけばよかった、と後悔する。


「あぁそうだっけ」


「そうだぞ。さぁ脱げ」


 恥ずかしさを押し殺して、上半身の服を脱いで、彼女に背中を向ける。

 

 ペタペタと肩、腕、背中を入念に貼られ、皮膚を覆いつくした。


「よし、次は足だ。さぁ」


 ズボンを脱ぐように促す。

 そればかりは、避けたかった。パンツ姿を見られるのに抵抗がある。


「いや、それは自分で貼るよ。手が届くし」


 太ももを触って見せた。


「そうか。助けが必要ならいつでも呼んでくれ」


「おう。そのときは頼む」


 カルミアから湿布を受け取り、洗面所に行く。

 洗面台の上にある鏡で自分の背中を確認し、同じ要領でペタペタと太ももやふくらはぎを中心に貼った。すね毛がある前面にも侵食し、剝がすときの大変さに唇を歪ませる。


 そのとき、

 ピンポーン。


 チャイムが鳴る。


「カルミア、ちょっと出てくれ」


「任せろ」


 ドタドタと廊下を走り、玄関の扉を開け、楽しそうに会話する。

 カルミアの話し方で察するに、相手は真澄だろう。

 服を着て、玄関へと向かい顔を合わせた。


「こんにちは。昼ご飯作りに来たよ」


 金髪の真澄がキッチンに立っていた。ピンクのエプロンをしており、それはウサギの絵が描かれている。

 肩にかけてあるトートバッグから何種類かの調味料が出てくる。


「たしか海斗くんって、賞味期限が切れた調味料しかないと言っていたから持って来たんだ」


「なんか申し訳ないな」


「いいの、いいの。気にしない、気にしない」


 料理を始める真澄。

 その間、海斗は出かける準備を済ませる。と言っても難しい事はない。財布とカラコンの替えを腰に巻くポーチに入れるだけだ。目的地は決まっている。まぁまぁな距離はあるが、一番近い大型ショッピングセンターにするつもりだ。バス停も近くにあったし、簡単に買い物ができるからだ。あまり行きたくは無いけれど、仕方なし。あそこしか安くて大量に食材が入手できる店が無いからだ。


「…………」


 準備が終わり、真澄の手伝いをしようとキッチンへと足へ運んだ。

 が、しかし――


「海斗くんは修行で疲れてるでしょ。そこ座ってて」


 追い出された。

 キッチンは女の城と耳にしたことがあるし、あまり踏み荒らすものではないのだろう。

 おとなしく従った。その間、カルミアと一緒にテレビを見る。ただのゴシップネタで面白いものでもなかったから、スマホゲームが主だったが。


「できたよー」


 真澄の言葉と共に、カルミアは立ち上がった。


「真澄、できたのか!」


 テレビを消して、海斗も立ち上がる。


 食卓に並んでいたのは、野菜炒めとサラダとハムのサンドウィッチだった。どれも美味しそうで、お腹がグーグー音を出す。

 昨日のカレーも美味しかったから、今日のも期待大だ。

 また同じように紙皿と割り箸を準備して、並べる。


「真澄はどうする?」


「私は食べてきたから大丈夫だよー」


2人分だけ準備をした。

 席に着き、手を合わせ、


「いただきます」


と、口にする。


「さぁ召し上がれ」


 その言葉と共に野菜炒めを口に入れた。


「んっ………!」


 美味しい。調味料が絶妙なバランスだから、いい具合に口の中で広がる。

 自分でもこんな味は出せない。


「う、うまいぞ真澄!!」


 カルミアはそう言葉に漏らす。

 昨日もそう言っていた。


「うん。本当に美味いな、この野菜炒め」


「それは嬉しい」


 真澄の満足そうな笑顔がまるで母親のようで、胸が痛くなる。

 そういえば、自分の母もこんな笑顔していたような――何か思い出せそうなところで、サンドウィッチをかじった。

 これも美味しかった。


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