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瞳に映る輝く世界 ――英雄の残したもの――  作者: カンタロウ
エピローグ
23/63

《摸擬戦》

「休憩は終わり。さぁ立て」


 暖かい日差しで眠気に襲われていたところ、声で起こされた。


「もう、そんな時間……」


「あぁそうだ。次は、お待ちかねの摸擬戦をしようじゃないか」


 その言葉と共に、マリーが2本の木刀をボストンバッグから取り出し、投げる。

 ロビンは片手でそれを掴み、海斗に渡した。


「『ドラゴンスレイヤー』使えないのか」


「使えるほどお前に技術が無いからな」


「それだと実力差開きすぎじゃね」


 異世界人のロビンと一般人の海斗では、実力もとい筋力差で数倍の差がある。同じ本気パンチでも、彼は車を凹ませることぐらい安易だろう。それに比べて海斗は、壁紙に穴を空ける程度で精いっぱいだ。いや、穴をあけるのに拳を犠牲にする必要があった。

 それぐらい力の差がある。それを果たして埋める方法は――


「マリーの発明品『GI32』でお前よりちょい上ぐらいの力まで抑えているから、死ぬことはない」


 便利な科学者がいるから問題なかった。

 ロビンの胴体に巻かれたのが『GI32』と呼ばれる発明品だ。それは腹巻のような形をしており、毛布のような素材でこんな真夏に巻くような代物ではない事がわかった。


「もしかして、それってずっと巻いてたのか」


「まぁな。と言っても、まだ起動はしてないけど」


 熱くなかったのか、疑問だ。

 ロビンはちょうどオヘソに辺りにある丸い出っ張りを押した。すると、『GI32』はプーッとまるで風船のように膨らみ、フカフカの羽毛布団のように大きくなった。真冬に巻けばとても気持ちよさそうだ。


「熱くないのかよ、それ」


「全く熱くないよ。マリーはそういうところをちゃんと考えて作っているから、むしろ涼しいくらいだ」


 マリーの発明品が一体どんなものがあるのか、全て見てみたいものだ。


「『ゲンショウくん』って呼んでよ」


 マリーの言葉に、ロビンは嫌そうな顔をする。


「カッコ悪いから却下」


 マリーの肩が落ちる。


「全然、呼んでくれない。呼んでほしいのに」


 唇を尖らし、指で丸い円を書きながらすねる彼女をカルミアは必死になだめていた。

 それを背景にして、ロビンは海斗に向き合う。


「さて、ただの摸擬戦だから自分が思うように戦ってくれ。悪い所はその都度伝えるから、修正してくれればいい」


「あぁわかった」


「じゃあ行くぞ」


 瞬間、ロビンの姿が消える。


 力を抑えたんじゃないのか、そう思っていたが、それは間違えだった。


 彼は死角に入っていた。海斗の見えない低い位置へと瞬間的に身をかがめつつ、迷いなき行動によって一つの動きへと身を統一したことで、海斗は見つけることができなかった。


「………ッ!」


 下から上に向けられて振られた木刀をなんとか木刀で抑え込む。


「武器は一つだけじゃないんだぞ」


 ロビンの足が絡みつき、視界が変わる。気がつけば、青い空を仰ぐ形となっており、地面との距離が密接に近くなっていた。

 ロビンが見下ろす形で、木刀を振り下ろす。

 なんとか転がってそれを交わし、立ち上がった。


「――ッ」


 またもや彼はすぐ傍にいる。

 これは早いのではないのかもしれない。彼はもしかして予測をしているのかも、と脳裏によぎった。

 あのとき戦ったとき、何ができて何ができないのかを知っているからこそ迷うことなくすぐに行動ができている。

 だったら、それを利用すればいい。


 ロビンの刀をリズムよく防いだ後、身をかがめた。

 剣は頭上をカスリ、海斗に当たることは無かった。


 ――これならいける。


 木刀を前に突き出し、ロビンの胸目掛けた。


「腰が引けてる」


その声と共に、わずか数センチ後ろに下がられたことで当たらなかった。


「いい考えをしていた。だが、腕しか動いていないから、当たるわけない。もっと全身を使え」


 全身か――今度は体を使うイメージで振る。

 縦横無尽に動く木刀は、剣先が定まってなどいなかった。


「それじゃあ当たらないだろ。狙いを決めるんだ。自分がどこに当てたいか決めろ」


 狙い、それは口だ。

 ロビンは確かに良い奴だが、ときどき腹立つことを言う。それを少しでも黙らせたいから、口だけを見て剣を振り続ける。

 ロビンはガードしていたが、突然、振り上げた。

 木刀と共に両手は上へと持ち上げられ、わき腹ががら空きとなる。


「狙いが定まってない。だから、弾かれるんだ」


 斜めに切られた。


「いてぇ」


 偽物の刀と言っても、木刀だ。木でできた偽の刀。殴られたら、それも本気で力強く殴られたら痛みはある。

 目じりに涙を浮かばせる。


「死ぬわけじゃない。ビビるな。立ち向かえ」


 痛みに苦しみながらも、心の中では自分を鼓舞する。

 怖くない、怖くない、とあのときの魔人と戦ったときを思い出しながら木刀を振った。


「少しはよくなったかな」


 そう言いつつも、ロビンは刀を下ろし、海斗の攻撃をよけ始めた。

 ヒラリ、ヒラリ、と上から落ちるティッシュのように右へ左へと体を逸らして交わす。


「さっきからずっと、上か下かしか振ってないからわかるんだよ。横からも攻撃してみろ」


 彼の助言通り横の攻撃も入れてみるも、やはりこれも交わされた。


「言われたことをすぐやるのは素直の証拠だ。誇れ」


ロビンのほうが強いから、上から目線でも納得できるけど、腹が立つ。全く攻撃が当たらないことに加え、少しの挑発もついてくる。目が鋭くなったとき、力づくに木刀を振り始めた。


「力任せに振っても当たるわけないだろ。やすい挑発に乗るな、わかったか」


 彼がわざとしていたのだと知る。ただいつもと口調が変わらなくて、本当なのか疑いたくなる。


「うるせぇ。絶対に当ててやる」


「ハハ。当てれるものなら当ててみろ」


 意地と意地のぶつかりだ。

 絶対に木刀を当てたい海斗と当たらないロビン。どちらが強いかは、今のところ明白だ。

 しかし、もしここで攻撃を止めたら。

 ずっと一定の間隔で振られていた木刀が突然、動きを止め、違う行動に移ったら。

 そのときのロビンの体はどうなるだろうか。


「……?」


 同じリズムで右や左、たまに後ろと動いていたロビンの体は止まる。瞬間、彼の体はくの字に曲がり地面へと倒れた。


「バカが。いつまでも振り続けると思ってるなよ、生意気野郎が!」


 海斗がロビンに向かってタックルをしたのだ。そして、倒れたところを馬乗りとなり、木刀が当たる範囲へと無理やり近づいた。


「なかなかやるな。でも、それはお前の負けだ」


横から飛んでくる木刀に側頭部を殴られ、力が緩む。

その隙をついて、今度はロビンが海斗を押し倒し、馬乗りとなった。


「考えは良かったけど、詰めが甘い」


 顔の横に木刀が突き刺さり、敗北した。



「クソ!!」


 悔しくて、歯を食いしばった。

 正直、あのとき勝てると思った。どうして横からの攻撃に警戒しなかったのか、自分の慢心が招いた敗北があまりにも悔しい。もう少しだった。ロビンの上に立てると思ったのだが、ダメだった。


「お疲れ。海斗」


 地面で倒れていたところカルミアが顔を覗かせて、ねぎらいの言葉をかけてくれた。


「ロビンは想定してなかったみたいだったし、最後は本当に惜しかったぞ」


「ありがとう。でも、負けは負けだ」


 負けた。

 勝てる試合を負けにしてしまった。

 もう少しだったのに……。


「海斗、そう落ち込むな。次があるだろ、大丈夫だ。次なら勝てるかもしれないぞ」


「確かにそうだけど……同じ手が上手く行くとは思わないしなぁ」


「それなら別の手を考えればいいじゃないか。これは訓練だ、どれが通用して何が通用しないのか、自分の手で確かめてみるといい。訓練ってそうあるべきだろ」


 ごもっともだ。

 これは、特訓で、さっきのは摸擬戦だ。

 木刀を1回当てても次を促してくれたし、実戦を想定しているがあくまで剣の振り方を学ぶための場であり、戦いを磨くための予行演習だ。

 手探りで色々と探すには、最適な時間だ。


「俺もっと強くなれるかもな」


 この発言に、カルミアはくしゃっとした笑顔で


「もちろんだ。海斗は、強いからな」


 前進の激痛に、その言葉は染みた。



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