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瞳に映る輝く世界 ――英雄の残したもの――  作者: カンタロウ
エピローグ
19/63

ドラグネス王国の王女―03.仲間の死

 カルミアは目が覚めた。

 背を伸ばし、あくびをする。そして、ベッドから立ち上がって部屋を見渡す。


「海斗……は居ないのか」


 家のしんとした静かさからそう判断して、とりあえず顔を洗いに洗面所へと向かう。

浴室のすぐ近くに洗面所があり、そこである程度の身なりを整えて、キッチンの冷蔵庫を開けた。


「何も入っていないじゃないか」


 調味料が入っているけど、肝心の食べ物がそこには無い。

 昨日「食べ物が無い」と言っていたことを思い出し、海斗は何か買いに出かけたのだと予測する。もしかしたら、自分だけ食べるものを買いに行ったのかもしれないが、彼はそうする人間ではないと踏んでいる。もしそうする人間であれば、見知らぬ他人をこの家に置いてくれないだろう。


「待つか」


 リビングに置いてある黒い正方形の四角の前に立った。


「これがテレビというやつだな」


 自分が見たことあるのとは形と大きさは違うけれど、操作方法は同じだろう。

 テレビの横にある備え付けのボタンを適当に触ると、カチッと音が鳴った。瞬間、テレビに映像が映る。

 長いロングテーブルに4人が座り、その横で1人の女性が大きなスクリーンを棒で指しながら説明をしている。ときどき隣に立つ男が頷き喋るを繰り返しており、単調すぎて見ていて退屈だ。


「なんだこれは」


 画面の左上には今を示す時刻と太陽のマークや傘のマークなどが出て、右上には『連続放火事件について』と書かれていた。


「放火かぁ。物騒な問題だな」


 これがどういう意図で作られているのか知らないけれど、この世界の情勢を知るのであれば都合がいい。見ていて損はないだろう。

 テレビの前に座る子供のように、正座してジッとテレビを見ていた。



 どれぐらい真剣に見ていたのかわからない。ただ気付いたら目がシュパシュパして疲れてきた。

 指で目を擦り、また背を伸ばす。


「海斗、遅いなぁ。お腹空いたぞ」


 レースから見た外は曇っているように見えるが、実際は明るい。とても暑そうだ。

 夏というのは、嫌になる。鎧を着て臭くなるからだ。なんて事を考えていると、


 ピンポーン。


 と、部屋中に謎の音が鳴り響いた。一瞬、警戒をしたが、これは誰かが来た合図だと昔本で読んだことを思い出した。


「もしかして、海斗か!」


 廊下を走って、勢いよく玄関の扉に飛びつく。

 鍵を外して、ドアノブを回し、押した。


「海斗。遅かったぞーーーーおおおおお!?」


「お久しぶりでございます。カルミア様」


 紫で統一した女性に目を開き、つい後ずさりをしてしまう。肩にかけた紫のボストンバックの側面にはドラグネス王国の紋章である龍が刻印されており、彼女はそれを強く見せた。

 全身紫の女性にカルミアは喜びを嚙みしめた。

 あのとき――『銀竜戦争』でともに戦い、幼い頃から一緒にいる科学者のマリーだ。


「マリーではないか!」


 彼女に抱き着き、胸元に頭を押し付けた。

 その豊満な胸はボヨンと風船のように揺れ、カルミアをそっと受け止める。


「生きておったのだな。良かったぞ。良かったぞ」


「はい、もちろんです」


 マリーはカルミアの頭を撫で、微笑んだ。

 再会を喜んでいたのだった。



 彼女をリビングへと向かい入れ、リビングで座ってもらった。

 その間にカルミアは、キッチンで飲み物を探している。

 冷蔵庫を開けるも、そこにはお茶の姿をした飲み物が何一つない。


「お茶……はないけど水ならある。飲むか?」


「お願いします。暑くて喉が渇きまして」


 黒い髪を再度ヘアゴムで束ねながらも、ひまわりのような黄色い目はテレビに向いていた。


「どうぞ」


 水がパンパンに入った透明のコップを彼女の前に差し出す。


「ありがとうございます」


 マリーは相当喉が渇いていたのか、一気に飲み干した。


「無事で本当に良かった。どうして、ここだとわかったのだ?」


「あぁそれは、カルミア様がつけている『レイヴの腕輪』の魔力を探知しましたので、見つけられました」


そう言ってボストンバッグから出した丸い形の道具は、『探知くん』——『GI11』だ。能力は魔力が詰まった物を探すことで、例え地球の反対側に居ても見つけてくれる超万能道具である。


 マリーは科学者で、戦場はあまり立たない。戦場に赴いたとしても後方部隊で支援しているのが主な役割である。患者の傷を癒したり、自身で発明した物を使っての支援などその活動は多岐にも渡る。

 マリーの発明品は本人のネーミングセンスが無いのも相まって、総じて『ゴールドインベーション(GI)』と言われている。

 例えば、今マリーが持っているボストンバッグの名前は、『GI03』と呼ばれているが、正式名称は『ハイルくん』という名前だ。由来は、何でも入るから、というその能力から名前が決まった。他の発明品も同じくその能力で名前を付けられており、全て『〇〇くん』が正式名称となっている。

 それじゃあダサい――ということで、『GI+数字』となった。


「この腕輪にそんな能力があったとは……」


「ワタクシが開発した『探知くん』にかかれば、簡単に探すことが可能です。他には、『ミエルくん』で場所の特定もしました」


 球体の丸い水晶玉は場所さえ特定してくれれば、見せてくれる『ミエルくん』——『G12』だ。

 その水晶玉にカルミアとマリーの姿が映っており、ハッキリと場所の特定をしてくれる。


「そうか、そうか。皆は無事なのか?」


「それが……」


マリーは、視線を下に向けた。


「スコットとライラは戦死しました」


 彼女の言葉を受け止めきれなかった。


「な、何を言ってるんだ、マリー。冗談はよせ」


 喉は乾いていないのに水を求め、手がちゃぶ台の上を彷徨う。

 フラフラと動いて、やっと手首にコップの感覚があったかと思えば、


 ガチャ


 倒してしまい、水たまりが出来上がる。

 ティッシュを鷲掴みにして、ちゃぶ台に乗った水たまりへと置いた。その間に、ポタポタと垂れ落ちたカーペットの上を拭き上げる。


「手伝います」


 そう言ってマリーは、バッグから白い布を取りだした。何の変哲もないただの布でテーブルの水を拭き上げる。


「か、カーペットが濡れてしまった」


 自分の不手際で人の家を汚してしまい申し訳ない気持ちにカルミアはなった。

 

「それは後でワタクシが乾かしますので問題ないです。それよりも、スコットとライラが戦死したのです。聞いてましたか?」


 また彼女は、同じことを言う。

 ありえない、そんなことは――この世界に来る前にまた再会すると誓ったのだ。約束を必ず守ってくれると言ってくれたのだ。

 だから、そんなはずはない。絶対にあり得ない。

 けれど、マリーのその真っすぐな瞳には嘘偽りのない輝きを持っていた。

 肩が落ち、全身の力がぐったりと無くなる。まるで力を失った人形のようにそこで座り込んだ。


「嘘だ……。ありえない……」


 信じられず、その言葉を否定するしかできなかった。

 信じたくない――ただその一心で。


「本当なんです。彼らはもう今は居ません。遺体は発見できませんでしたが」


 座った状態で頭を下げるマリー。


「申し訳ございません。ワタクシが居ながら、彼らを救えませんでした」


 彼女のその誠心誠意の体制から、これが現実だと知る。


「嘘だぁぁ。嘘だぁぁ!!」


 カルミアの中の何かが切れた。

ぷっつりと鋏で切られたかのように、狂い始める。


「あははは。ハハハ。マリー冗談はキツイぞ。そんなことあるわけないではないか。スコットとライラは――」


 パチン。

 部屋中に響く高い音は、カルミアの頬を赤く染めた。


「しっかりしてください。カルミア様」


「何するんだ、マリー!!」


 口調に怒りがこもっている。だけれど、目はうつろで、焦点が定まっていない。どこかボヤァとした目で彼女を見ていた。


「…………」


 マリーはボストンバッグからある2つの物を取り出した。

 彼らの遺品だ。


「カルミア様。これを」


 差し出した手のひらには、スコットのペンダントとライラのワッペンを見せる。どちらも大切な物で、片時も手から離したことのない代物だ。

 スコットのペンダントは、恋人からのプレゼントで特注品である。世界にたった一つしか存在せず、輝く宝石の裏には二人の名前の頭文字を取った『S.U』の字が彫られている。


 ライラのワッペンは、ドラゴンの顔を編み込みされたもので、ドラグネス王国に仕える者であればだれでも支給されるグッズのようなものだ。そのため捨てる人も多いし、持ち運ばない人も多い中、ライラだけは肌身離すことなく持ち歩いていた。だから、色は荒んでも、ドラゴンの顔は汚れないよう入れ物に入れて大事に持ち運んでいた。自分を生き始めた証として、彼女は大切にしていた。


 そんな2つの大事な代物をマリーが持っているのは、彼らが死ぬ前に受け取ったからだ。つまり、それが何を示すかと言うと、死ぬ覚悟で逃がしてくれたということだった。

 

 

 彼らが死んだと言う現実は、見せるだけで良かった。

 

「………」


 彼らの大事な宝物を見たカルミアは、スコットとライラが死んだことを認識した。


「アアアアアアアアアア!!!」


 まるで子供のように大きな声で、嗚咽を吐きながら涙を流す。


「そんなの、そんなのって………」


 戦争の残酷さはわかっていた。何度も経験し、実際に見てきたからだ。だから、覚悟はしていた。仲間が死ぬことがあるのをあらかじめ予想はしていた。


「あんまりだ」


 スコット、ライラ――彼らと会いたかった。一緒に戦うなんてことはせず、ただただ幼少期のように楽しく日常を送りたかった。戻れるなら過去へと戻って、彼らと一緒にこの世界へ来ればよかった、と後悔だけがただただ募る。

 戻りたくても戻れない、やり直したくてもやり直せない、ずっと進み続ける時間に胸を苦しめられ、ただただ大声で泣くしかない。自分の中にある悲しみを外へと放出するしかできない自分の弱さに腹が立つ。

 悔しくて、悔しくてたまらない。一国の王女であるのに仲間を助けられず、自分はノコノコ逃げてしまって、今はもう無様に泣き続けるしかない自分がとにかく憎くてたまらない。


「アアアアアァァァァ!! ウグッ、グっ。アアアアアアア!!! ウウウウゥゥゥ」


 死にたいと思えるほどに思いやられている。心臓が張り裂けそうだ。


「…………」


 マリーは悟ったような表情をして、彼女を抱きしめる。

 辛さに怯え、苦しみに明け暮れているカルミアを理解しようと、少しでも寄り添えるように、そっと背中を撫でた。


 まだ乗り越えられていないが、カルミアを精神的に支える役割に徹する。


「ウグッ!!!アアアアアアア!!」


 彼女の優しさに甘えて泣く。

 この世界に来てから泣きっぱなしだ。ずっとずっと、誰かの優しさに触れては涙を流している。

 これほどまでに泣き続けた日々はない。王女でもあるのだから、メソメソ泣き続けるのはダメだとわかっている。優しさに甘え続けて、自分の弱さを出し続けるのはダメだとわかっていた。

 それなのに止まらない涙。一度流れれば枯れるまでずっと流れ落ちる。


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